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2020年5月18日(月)

通常業務に支障 見えぬSOS

地域の保健センター 忙殺

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(写真)乳幼児や生活習慣病予防の健診など住民生活に身近な業務を担う「保健センター」=東京都葛飾区金町

 新型コロナウイルス感染症の対応で忙殺されている保健所。国の支援が不十分な中、住民生活に身近な業務を担う保健センター(保健相談所)も、保健所への応援に人手を取られ、負担が増しています。健康診査をはじめ本来の事業が行えず、住民生活にしわ寄せが及んでいます。

 東京23区では、区ごとに1保健所が設置されているほか、多くの区で複数の保健センターが置かれています。現在、保健所ではウイルス感染が疑われる人からの電話での相談を受けたり、感染者を病院に搬送したり、PCR検査の検体を医療機関から検査機関に運ぶ業務なども行っています。

 地域の保健センターは、乳幼児や生活習慣病予防の健診、精神障害者の社会復帰訓練(デイケア)などの事業を担っています。

 政府による緊急事態宣言が出た後、集団で行う健診などが中止になりました。ある区の保健センターの保健師は、実情を訴えます。

 「お母さんがメンタルに不調を抱える世帯で、せっかく子どもが保育園に入れるようになったのに結局、保育園の登園自粛で行けなくなったケースがあります。精神障害者の居場所も全部休みになっている。一番の気がかりは、事業が中止になって、自分でSOSを出せない人たちが家に閉じこもっている状況です」

まだまだ人足りず

 保健センターの保健師は、健診や訪問ができないことで、問題が見逃されることを心配します。

 夫から妻への暴力(DV)に注意を払っていた家庭では、外出自粛などで夫と隣り合わせの生活を強いられた妻の元々の精神疾患が悪化。発作を起こし病院に搬送されたことを後から知りました。

訪問ができれば

 「健診や訪問ができれば、本人や家の中の様子を見て『この家は何かあるんじゃないか』と、隠れた問題を発見できるのですが。訪問しようとしても感染への不安から『こんな時期に来るんですか。来てほしくありません』と断られることも多い」と話します。

 新型コロナ対策を検討する政府の専門家会議は3月9日の「見解」で、保健所の労務負担の軽減を求めて、「早急に人的財政的支援策を講じるべきだ」と指摘。その後も繰り返し保健所への支援強化を求めてきました。しかし、保健所の過重負担は解消されぬままです。

 東京都内の別の区で保健相談所に所属する保健師も、健診が中止になっているため、多くの悩みを抱えています。緊急事態宣言の解除後、延期していた分の健診をまとめて行うとき、対応しきれないという不安がその一つです。

 言葉がなかなか出てこない幼児などを対象にした「ことばの相談」に、対応できていない影響なども懸念しています。

 「健診が中止になったことを電話や手紙で伝えたり、訪問したりしなければなりません。保健所への応援で人が減っている分、業務が集中し、残業しても仕事が終わらない状況です」

 自身も交代で保健所の応援に入り、帰国者・接触者相談センターの電話対応などに当たっています。

 保健所の医師は、開業医からの感染疑いの連絡、感染疑いの人の搬送、苦情処理まで全ての対応を強いられ、休みをとれない状況が1カ月以上続いていたと、この保健師は語ります。4月半ばにようやく外部からの医師の応援体制が確立。「今のところ、感染者を入院させるための搬送は3、4月の時より少なくなっている」といいます。

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(写真)都内の保健所=東京都豊島区

百数十件の電話

 相談センターには今も1日に百数十件の電話があります。厚生労働省は、感染に関する受診・相談の目安について、「37・5度以上の発熱が4日以上続く」とした表記を削除し、基準を変更しました。

 「区がPCR検査を実施できる件数も増えています。しかし、かかりつけ医が検査を必要と判断した人でも、より選別して重症な人を優先的に検査する状況が依然、続いているのではないでしょうか。検査対象とされても、何日か待たなければならないと思います」と話し、こう訴えます。

 「以前は保健相談所の所長は医師でしたが、今は医師でない職種の人が務めています。保健師は前より増えているものの、地域の人口増や業務の多様化でこのような緊急時には対応が追い付かず、まだまだ人数が足りない。保健所・保健相談所の体制を強化してほしい」

 (岡素晴)


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