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2020年5月6日(水)

コロナの重圧 医療従事者に支援を

筑波大学働く人への心理支援開発研究センター主幹研究員 松井豊さん〈寄稿〉

心のケア 休養と感染対策の徹底

 新型コロナウイルス感染症と日々たたかっている医療従事者の大変な状況が続いています。心理学の立場から、医療従事者の心理やストレスをどうとらえるのか。そのケアや対策は―。筑波大学働く人への心理支援開発研究センター主幹研究員の松井豊筑波大学名誉教授に寄稿してもらいました。


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(写真)松井豊さん

 厳しい医療現場で働く多くの方に共通している心理は、使命感でしょう。「人々の健康を守るために、自分たちが頑張らねばならない」という使命感。この使命感は、過酷な労働環境においてもたたかい続けているという「誇り」にもつながります。

●使命感の裏で

 その一方で、厳しい環境の中での業務多忙により、心身の疲弊が多く起こっています。労働があまりに過酷になると、「燃え尽き症候群(バーンアウト)」が生じやすくなります。燃え尽き症候群とは、頑張って活動してきた人が、活動に意義を感じられなくなり、やる気が急にうせ、人に対する配慮を欠いた行動をとるようになる現象です。重くなるとうつ反応も生じます。

 周囲から休憩を取るように言われても、現場にしがみつき活動を続けようとする行動がみられることもあります。活動を無理に続ける気持ちは、「過覚醒」というストレス反応の一つです。さらに、自分は一人きりだという孤独感や、だれからも理解されていないのではないかという孤立感も感じやすくなります。

●感染する不安

 新型コロナに関わる医療関係者は、自分が感染する不安と、他人、とくに家族を感染させるのではないかという不安とを強く感じています。さらに、自分や家族が差別を受けるのではないかという不安も感じます。実際に、医療関係者の方やご家族が、差別や不当な扱いを受けている事例が報道されています。

 また、過酷な現場がいつ落ち着くかという見通しのなさも、不安につながります。

●個人的なケア

 こうした医療従事者の方への心理的なケアは、個人的なストレスケアと組織や社会のストレス対策に分けられます。

 個人的なケアの中でも優先していただきたいことは、休憩と休養をとることです。まずは体を休めていただきたい。厳しい現場ですり減らした心と体を少しでも休めてください。

 親しい人と一緒にいることや、話をすることも、有効なストレスケアになります。もし医療施設の外に出られないのであれば、SNSやメール、テレビ電話などで親しい人と通信することも、ストレスケアになります。

●組織的なケア

 医療機関が組織的にできるストレス対策の第1は、職員の罹患(りかん)への不安を下げるための感染予防対策の徹底です。マスクや医療資機材の手配が優先されます、第2は、職員への休養休暇の付与です。すでに動きがあるようですが、退職者などの一時復帰などによる支援要員の動員などにより、交代制や休暇の付与ができます。十分な休暇でなくても、職員を家庭に短時間返すだけでも、ケアになります。第3は、給与面の不安を解消すること。

 社会全体で言えば、以上のような組織の対策を支援すること。医療従事者の家事や育児を支援するなどの後方支援も、検討して良いのではないでしょうか。

 最後に間接的ですが、新型コロナに対応している医療関係者をねぎらい、活動を褒めたたえることも、ストレスケアになります。ヨーロッパで始まり、国内では福岡市役所などが行っている「金曜日の拍手」もこうした称賛を示す一つの方法です。一般市民からのねぎいや称賛は、医療関係者の誇りを維持する支援になります。誇りこそが、厄災とたたかう多くの医療従事者の心の礎なのですから。


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