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2020年5月5日(火)

新型コロナが問う日本と世界

思いやるべきは米でなく国民

防衛ジャーナリスト・元東京新聞論説兼編集委員 半田滋さん

 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本と世界の安全保障分野にも大きな影響を与えました。自衛隊のあり方、軍事費をめぐり、防衛ジャーナリストの半田滋氏に聞きました。(竹下岳)


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 韓国政府は4月16日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対策として追加補正予算を編成し、全世帯に支給する「緊急災害支援金」の財源として、国防費9047億ウォン(約795億円)を削減して充てることを決定。4月30日に補正予算が成立しました。削減対象はF35ステルス戦闘機やイージス戦闘システムの米国からの購入費で、支払いを来年に先送りする方向だといいます。

防衛費削減せず

 一方、日本ではどうでしょうか。先日成立した補正予算をめぐって、防衛費削減の話は一切出ませんでした。不要不急、少なくとも不急な武器については、韓国のように購入を先送りすべきでしょう。その最たるものはF35ステルス戦闘機です。

 もともと防衛省が計画していたのは42機でした。ところが安倍晋三首相がトランプ大統領から米国製兵器の大量購入を要求され、105機もの爆買いにつながりました。今年度から、その“爆買い”分の購入が始まり、9機分の予算が計上されています。

 安倍政権は、「退役するF15戦闘機の代替」だと説明していますが、開発した米国でさえ、F15は現役です。まだ使えるのに、廃棄して、アメリカの要求に応えて購入しようというのです。

不要不急の支出

 これ以外にも、トランプ大統領から武器購入を要求されて導入を決めたイージス・アショアや、計画そのものが破綻している辺野古新基地の建設工事など、「不要不急」の支出はあります。これらを一時停止して、休業を余儀なくされている店舗への補償など、コロナで苦しむ国民の負担軽減のために使うべきです。

 また、これから夏にかけて、米軍「思いやり予算」の特別協定の延長をめぐる協議が始まります。韓国との交渉を見ても、アメリカは米軍駐留経費の大幅な増額を要求するのは間違いありません。

 韓国の場合、北朝鮮と地続きで、米軍の存在が必要だという理由がありますが、日本の場合、敗戦後の米軍駐留が始めにありき、といえます。アメリカは自国の国益のために基地を置いています。政府は「もっと払えというのなら、どうぞお引き取りください」と言うべきでしょう。今、思いやる相手はアメリカではありません。国民であるはずです。

軍事でなく医療強化こそ

 中東では現在、アフリカ東部ジブチを拠点として、ソマリア沖アデン湾での海賊対処活動と、オマーン湾など中東海域で、防衛省設置法に基づく情報収集活動が並行して行われています。

不要な中東派遣

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(写真)土砂投入が強行されてきた辺野古沿岸=2019年12月13日、沖縄県名護市(小型無人機で撮影)

 海賊対処に関しては、海賊に乗っ取られた船舶は2017年の3隻を除けば、14年から19年までゼロ。海賊事案の発生件数も19年はゼロになっており、継続する理由がありません。他方、ジブチでも新型コロナウイルスの感染が拡大しており、厳しい入国制限を敷いています。このため、4月26日に出港した護衛艦「おおなみ」の乗組員は寄港中、上陸することができません。

 狭い艦内は密閉・密集・密接の典型的な「3密」状態です。感染者が出ればあっという間に隊員間に広がることは、米原子力空母セオドア・ルーズベルトの事例で明らかです。

 派遣された隊員たちは「3密」の艦内に幽閉されたに等しい。海賊の被害が途絶えているのに、活動を命じることは愚策としかいいようがありません。感染リスクと隊員の健康を引き換えにすべきではありません。

 一方、情報収集活動に従事している「たかなみ」は、3月にアラブ首長国連邦のフジャイラに寄港したとみられますが、やはり感染リスクのために上陸できていません。3カ月におよぶ派遣期間中、一度も上陸できなければ隊員のストレスは募るし、士気低下のダメージは大きい。さらに、海賊対処と情報収集活動を兼務するP3C哨戒機の隊員は、入国制限で交代できないため、予定の2倍となる6カ月の任期を求められる可能性が高くなっています。

 そもそも、情報収集活動をめぐっては、法的根拠をめぐって批判が出ていました。この活動は、トランプ米大統領が一方的にイランとの核合意から離脱して中東に緊張が高まったことが発端です。トランプ政権が引き起こした混乱の尻ぬぐいのために隊員の命をてんびんに掛けることはあってはなりません。撤退を決断すべきです。

自衛隊の役割は

 新型コロナウイルスに関わる災害派遣要請に基づき、感染が拡大していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で49日間にわたり、延べ8700人の隊員が活動しましたが、1人の感染者も出していません。同じく船内で活動した厚生労働省職員や検疫官から6人の感染者を出したのとは対照的です。

 現在は、海外からの帰国者の検査・輸送・食事提供などの支援を行っています。阪神・淡路大震災以降、自衛隊は災害派遣隊としての性格が強まりましたが、さらに新しい段階に入ったといえます。まだ手探りの段階ですが、たとえば、部隊に防護衣やマスクなどの備蓄を増やし、感染症対策の訓練を行うといったことは考えられるかもしれません。

 ただ、与野党議員から出ている、病院船をめぐる議論は筋違いといわざるをえません。そもそも病院船は戦傷者を救護するためのものです。米海軍の病院船コンフォートがニューヨークへ支援に向かいましたが、実はコロナ感染者の治療ではなく、それ以外の病人を収容しているのです。

 現在の医療体制の危機やPCR検査体制の脆弱(ぜいじゃく)さは、歴代の自民党政権が医療費削減や行政改革といった大号令をかけ、医療体制を弱体化させてきたことに原点があります。必要なのは自衛隊の強化ではなく、医療体制の見直しにあります。

 総じていえば、コロナ危機を通じて大きく変わるもの、そう簡単には変わらないものもありますが、この問題が鏡となり、日本の姿を映し出しています。その姿を冷静に見て、新しい道を見いだすことが求められています。


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