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2020年5月3日(日)

新型コロナが問う日本と世界

頑張るほど減収

全国公私病院連盟会長 邉見公雄さん

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「医療崩壊」を止めるため、医療現場への本格的な財政支援と体制整備が喫緊の課題となっています。全国の公立や民間など約1500病院が加盟している全国公私病院連盟は4月、国に医療現場への緊急財政支援を要望しました。国の問題点について、邉見(へんみ)公雄会長(全国自治体病院協議会名誉会長)に聞きました。(松田大地)

現場出て 現物見て 現実理解して 国は医療支援進めよ

写真

(写真)全国公私病院連盟会長 邉見公雄さん(全国公私病院連盟提供)

 医師や看護師、介護職員、事務員など新型コロナ感染症とたたかう最前線の人たちは、自分が感染するリスクを背負いながら命がけで働いています。そんなときに、安倍首相が「ステイホーム」だからといって犬を抱いたり、お茶を飲んだりする動画を出しているようではいかんのです。現場を見てほしい。

必要な負担補えぬ

 国は医療対策のために、泥縄的に補正予算案の発表や診療報酬の引き上げを行いました。しかし、医療機関で必要となる膨大な財政的負担を補償する内容とはなっていません。

 新型コロナ感染症の患者を1人でも受け入れるには、感染防止のため40床ほどある1病棟すべてをカラにすることになります。一般患者とは別の動線などを確保するため、隣の病棟まで閉めることにもなりかねません。コロナの影響で一般の外来患者が減っている減収分に加え、感染症患者の受け入れに伴う一般患者の入院制限なども行われています。こうした対策をすれば、1病院の減収は月1億円以上になります。頑張るほど赤字になるのです。

 医療用マスクや防護服、消毒液など、新型コロナとたたかう武器もまったく足りません。ある大学病院はマスクが1日3000枚必要だと言います。国が中国などの安価な輸入に頼ってきた問題がありますが、補給路をしっかり確保しないと院内感染につながります。

このままでは崩壊

 院内感染が起きた富山市民病院は4月、事業管理者の石田陽一医師が涙声で記者会見しました。「約500人の看護師のうち100人以上が自宅待機で、ぎりぎりの人数で運営している」「家に帰らず車中泊している職員さえいる」「新たな感染者が出れば戦力がまた減り、このままいけば医療崩壊する」と。石田先生は決して弱音を吐くような人じゃありませんが、現場は無理をしているんです。

 国には、現場に出て、現物を見て、現実を理解するという三つの“現”を重視する「三現主義」の姿勢がない。この姿勢に立って、現場が必要としている財政支援や医療資源の供給を進めるべきです。

効率至上主義 見直す時

 新型コロナに限らず、今後も新たな感染症は生まれるでしょう。人間は、ジャングルなど未知の微生物がいるような地域をどんどん開発していますからね。しかし、日本は結核患者の減少で「感染症はもう終わった」と思って、感染症対応の病床をどんどん減らしてきたのです。

 本来、医療には緊急時のための“余裕”がないといけません。しかし国は「効率至上主義」で、病院のベッドを常に入院患者でいっぱいにしないといかんような診療報酬にしてしまいました。診療報酬の抑制も続けているため、私たち連盟が2月に発表した調査結果では公的・民間病院の7割、自治体病院に限れば9割が赤字経営を強いられています。

 特に国は“自治体病院に投入している税金は無駄だ”みたいなことばかり言って、地域医療構想などで自治体病院をさらに減らそうとしています。こういう緊急時になると「頑張れ」と言いますが、いつも手足をくくられて仕事をしているような状況です。

 国の効率至上主義のもとで医師の総数は足りないままです。国が感染症対策を軽視してきたため、感染症を治療する診療科の医師や専門家も減っています。すべてが今回の新型コロナの問題につながっています。

 消防や警察はいざという時のためにあります。医療や教育も同じです。公(おおやけ)がきちんと支えるべきものなのです。医師・専門家の育成・増員や感染症病床の増床・充実、アメリカ疾病対策センター(CDC)のような専門組織の創設が必要です。

 新型コロナとのたたかいは長くなると思います。これから冬を迎える南半球は、貧困や医療状態が悪い国が多く、感染拡大の可能性が高いです。そこでウイルスが変異して北半球に戻ってくれば、キャッチボールのような事態になります。まさに人類への警鐘だと思います。貧困・格差や地球温暖化、大規模な乱開発を進めてきた、強欲な資本主義が問われているのです。


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