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2020年4月29日(水)

介護保険20年 現場から 基盤崩壊の危機

リスク相応の特別手当を

 新型コロナウイルス感染症の拡大で、在宅介護の高齢者が利用するデイサービス(通所介護)事業所などの休止が全国で900以上に急増しています(24日、厚生労働省)。このもとでホームヘルパーによる訪問介護が在宅介護の「最後の砦(とりで)」となっています。関係者は国や自治体に対し、一刻も早いサージカルマスクなど防護具の供給や感染防止対策の徹底、リスクに見合った「特別手当」の創設を求めています。(内藤真己子)


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(写真)掃除の合間にAさんに声をかけるホームヘルパーの成松さん=京都市(3月上旬撮影)

 「こんばんは。洗面所お借りしますね」。京都市北区の民家。ホームヘルパーの成松美由紀さん(55)は男性利用者のAさん(87)宅に入ると早々にせっけんで手を洗い、うがいをしました。エタノールを使い玄関前で手指消毒をしていますが、改めて手を洗ってエタノールを擦り込みます。

 早朝から夕方まで自転車で1日7~8軒を訪問します。感染拡大で休止したデイサービスの代替の訪問も加わり、昼休みも十分とれない忙しさです。

寂しさ受け止め

 「いろんなことは忘れてしもたけど、寂しいのだけは忘れへん」。Aさんは妻に先立たれ1人暮らし。認知症のうえに慢性心不全と大動脈りゅうを患い、居間の長いすに横になって過ごす時間が増えました。介護の必要度は重度の要介護4です。

 Aさんの脇に体温計を差し入れる成松さん。「36度。大丈夫」。新型コロナ以降、毎回の検温が欠かせません。

 消毒に検温…、コロナ対策に時間を取られますが、家事支援が中心の「生活援助」は介護保険の改悪で時間が短縮され1時間程度が上限です。20分で夕食を作り、洗濯物を取り込みます。居間や寝室、台所に掃除機をかけトイレ掃除もとフル回転。額に汗がにじみます。

 こうした家事支援をしながらAさんの様子を見て声をかけます。「いままで頑張ってきはりましたよね」と成松さん。「ほんま、よう走ってきたわ」。Aさんの表情がしだいに明るくなりました。

国から補償なし

 発熱し感染疑いのある高齢者宅への訪問をはじめ、買い物代行や通院介助など感染リスクが大きい訪問介護ですが国からの補償はありません。「スーパーがコロナ対応でパート職員にボーナスを出すんですから、国が介護職員に特別手当を出すのは当然やと思います」と成松さんは話します。

“最後の砦”訪問介護守れ

国は感染防止策、報酬増を

PCR検査拡大を

 人口当たりの感染者割合が高い石川県金沢市。「サージカルマスクが足りず事業所としては布マスクしか配れません。介護は利用者と密着する業務。自腹で高いサージカルマスクを買っているヘルパーもいてやるせない。国の責任で介護にも医療と同じ感染防護具を供給してほしい」。訪問介護ステーション「つくしんぼ」の大川敦子所長(59)の訴えは切実です。

 ホームヘルパーの現状は5割が60歳以上で多くは低賃金の非正規雇用です。同事業所もヘルパーの大半が70歳前後。重症化リスクのある持病があり休もうとしている人のほか、家族から「感染が怖い。仕事をやめてほしい」と言われている人も。深刻な人手不足に拍車がかかります。

 「感染者が出たデイサービスの利用者への訪問もあります。『濃厚接触者じゃないから』と言われても不安です」と大川さん。ヘルパーが安心して働き続けられるようPCR検査の対象を広げてほしいと言います。

人手不足が慢性化

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(写真)デイサービスセンター「からたち」では、感染防止のため利用者間の距離をとって体操しています=25日(同事業所撮影)

 市内の介護施設で感染が広がった千葉市。休止する事業所が相次ぐなか、千葉勤労者福祉会のデイサービスセンター「からたち」は業務を続けています。同会法人介護部長の門脇めぐみさん(49)はこう語ります。

 「制度改悪で特養ホームの入所が要介護3以上に制限され自己負担も増したため、施設に入れずデイサービスと訪問介護で在宅生活を維持している中・重度の方が増えています。デイサービスがないと生活が崩壊する家庭も多いので、感染防止対策をして事業を継続しています」。その結果、送迎車内の密集を避けるため1回当たりの人数を減らし、送迎回数は1・5倍に増え経費がかさみます。国や自治体の財政支援が欠かせないと門脇さん。

 「最後の砦(とりで)」の訪問介護はどうか。「介護報酬本体の引き下げが続き直行直帰の『登録』ヘルパーの時給は移動費も含め1500円程度しか出せません。入院でキャンセルが出ることもあり収入は不安定。有資格者が他職種に流れ人手不足が慢性化しています」と門脇さん。介護職員の平均月給は全産業平均と比べ7万円以上少ないままです。

 門脇さんは言います。「介護職員は緊急事態となっても危険な状況で働き続けなければならないエッセンシャルワーカー(必須の労働者)です。それにふさわしい介護報酬の引き上げ、大幅な処遇改善が欠かせません」

 新型コロナ感染症の拡大は、国に、介護政策の抜本的な見直しを突き付けています。


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