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2020年4月22日(水)

2020焦点・論点 新型コロナが問う日本と世界

問われる病院再編統合

東北福祉大学准教授(医療経済学・社会統計) 佐藤英仁さん

間違いだらけの削減論拠 国がすべきは体制強化だ

 新型コロナウイルス感染症が広がるなか、安倍政権の医療政策が厳しく問われています。病床削減の地域医療構想を至上命令として、約440の公立・公的病院の再編統合を進める道はどこへ向かうのか。病床削減を迫る論拠は正しいのか―。東北福祉大学の佐藤英仁准教授(医療経済学・社会統計)に聞きました。(松田大地)


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(写真)さとう・ひでのり 1980年生まれ。東北福祉大学准教授。著書に『医師・看護師不足の現状と労働環境』など。

 ―感染症拡大の状況をどう見ていますか。

 受け入れ病床のひっ迫などで医療崩壊が危惧されていますが、国がきちんと体制整備してこなかったツケが回ってきたと言えます。

 国は公立病院などに“赤字だから再編を”“場合によっては閉鎖を”と求め続けてきました。その流れで地域医療構想を都道府県につくらせ、昨年は、再編統合を議論させる400超の公立・公的病院を名指ししました。

 国が選んだ再編議論の「重点支援区域」には、感染症病床を持つ公立刈田総合病院(宮城県白石市)も対象に入りました。重症患者向けの急性期医療を縮小する方向で議論しています。しかし、都市部でも地方でも、病床削減を進めれば今回のような緊急時に対応できないことが、はっきりしたと思います。

 ―国の姿勢は“カネありき”ですね。

 医療は市場メカニズムの議論がなじまない分野です。企業の目的は利潤の最大化ですから、“お金にならない患者は治療しない”ことになるからです。

 だから、自治体が運営する公立病院や、日本赤十字社、済生会などが運営する公的病院は、民間には困難な過疎地域での医療や、救急・小児医療など不採算部門を担う歴史的な役割があるのです。

 公立・公的病院が感染症病床の9割以上を担っていることからも、赤字でも医療提供体制を止めるわけにはいきません。赤字を理由にした病床削減や統廃合は間違いです。国民の命や健康を守るために必要なお金なのです。国が支援すべきです。

 国が病床削減を進める根拠としたデータは、非公開が多いうえ、公開資料も再検証が必要なものばかりです。

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 400超の病院を名指ししたのは地域医療構想を達成するためですが、この構想は2025年の人口推計を前提にしています。2010年のデータを使ったもので、確認できる15年時点の実際の人口をみると、推計より30万人多い1億2689万人でした。人口減少は推計よりも緩やかだということです。

 統計学の立場から、大きな誤差と言えます。このままだと15年から25年には単純に100万人単位の誤差が出ると予想されます。極端な人口減少の推計に合わせて病床削減するのは乱暴です。

 むしろ、人口減少に伴って高齢者数の割合が増え、若い人の割合は減るという人口構造の変化が一番の問題です。年をとれば病気にかかりやすくなるため、高齢者数の増加で医療需要は間違いなく増えるということです。

 国は「医療需要の減少」について、この極端な人口推計に、人口10万人あたりの入院患者数を掛け合わせて結論付けています。しかし、入院患者数だけの計算は間違いです。

 実際に医療機関にかかれた人だけのデータだからです。受診したいのに、山間部や過疎地域に住んでいて病院が遠いため我慢している人や、患者負担が高くて我慢している人、仕事で忙しくて我慢している人もいます。こうした潜在的な医療需要を無視した推計は、いかがなものか。

 ―現地調査も行っているそうですね。

 以前、秋田県の1市1村でつくる北秋田医療圏に調査に入りました。東京都の面積の半分以上を占める広さで、三つの公立・公的病院の入院機能が統廃合された影響を調べるためです。

 入院できる病院が遠のいたことへの住民の絶望感は、本当にひどかった。3病院の真ん中に新病院をつくったもののアクセスが悪く、最寄り駅の電車は日中2~4時間に1本だけです。バスも頻繁には走っていません。高齢になるほど自動車事故の危険も増します。

 国の適当な推計をもとに病床削減や統廃合を進めれば、こうした事例が全国で増えるのは目に見えています。

 また、地域医療構想の区域とした医療圏の設定に問題があります。たとえば宮城県南部の山元町は、約40キロメートルも離れた仙台市と同じ仙台医療圏です。再編統合を求める実名リストには山元町で唯一の病院も入りました。適切な圏域設定なのか分析されるべきです。

 医療機関の困難の背景にあるのは、医師などの人手不足です。医師が確保できないから診療体制が維持できず、統廃合や病床削減につながる事例が増えています。これでは医療需要に対応することはできないと思います。

図

 単純な比較ですが、日本がOECD(経済協力開発機構)加盟国の臨床医数の平均値に到達するには、あと約14万人養成しないといけません。東京都もOECDには届いていません。日本の高齢化率が世界一であることを考慮すると、より深刻です。絶対的に不足しているのです。

 ところが、厚生労働省による医師の需給推計はと言うと、医師の労働時間を過労死レベルの週55~80時間の間で設定しています。医師を抜本的に増やすのではなく、過酷な労働で医療需要に対応しろという考え方です。

 感染拡大という緊急時だからこそ、公立・公的病院をはじめとした医療の役割を再認識すべきです。再編統合を迫るなど、逆に追い打ちをかけるような政治は間違っています。

 地域医療構想 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年時点の「病床の必要量」を推計したもの。直近の17年度報告分から25年までに12万8千床を削減する計画になっています。感染症患者を率先して受け入れる高度急性期・急性期病床に限ると、約3割の21万5千床もの削減です。


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