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2020年4月16日(木)

主張

緊急事態条項改憲

危機に便乗した議論許されぬ

 新型コロナウイルスの感染拡大に乗じて、自民党内で憲法に「緊急事態条項」を創設すべきだという議論が出ています。もともと「緊急事態条項」創設は、安倍晋三首相が憲法9条への自衛隊の明記などとともに改憲の一つの柱にしてきたもので、政府に権限を集中し、人権侵害の危険があると批判されてきました。それを新型コロナの感染拡大に便乗して持ち出すのは悪質という他ありません。どさくさまぎれの“火事場泥棒的”な改憲策動は直ちにやめるべきです。

不安に付け込み推進狙う

 自民党の改憲推進本部が先週末開いた会合は、「憲法と非常事態・緊急事態」をテーマにしました。細田博之本部長が「政府と国会はウイルスをめぐるさまざまな問題を解決する責任がある」と呼びかけた後、憲法と緊急時の関係などについて、議論したといいます。自民党が感染拡大を防止するためとして会合の自粛を原則としている中で、開催を「強行」したと報じられました。

 安倍首相は先週の国会審議で、日本維新の会議員の質問に対し、新型コロナ感染拡大にからめて「緊急事態条項」の検討を含め、憲法審査会での「活発な議論が展開されることを期待したい」(7日)と表明しました。国民の不安に付け込む許しがたい姿勢です。

 安倍首相が3年前の憲法記念日に言い出し、自民党が改憲案としてまとめた条文素案には、9条への自衛隊明記とともに「緊急事態条項」が盛り込まれています。「大地震その他の異常かつ大規模な災害」で「国会による法律の制定を待ついとまがない」場合は、内閣は政令を制定できるという内容です。内閣の権限を強化し、国民の権利を制限し、民主主義の機能を停止させる恐れが強いものです。

 憲法の「緊急事態条項」が乱用され、人権を侵害し、言論抑圧につながる危険は世界の歴史からも明らかです。第2次世界大戦前のドイツでは、ワイマール憲法48条の「大統領非常権限」が乱発された結果、ナチス・ヒトラーの独裁政権に道を開きました。日本でも明治憲法下の1923年の関東大震災の際、戦時に軍隊に権限を集中する戒厳令の一部を緊急勅令によって施行するなど適用が拡大される中で、軍隊や自警団による朝鮮人虐殺などが引き起こされました。戦後制定された日本国憲法で「緊急事態条項」を設けなかったのは、こうした痛苦の経験を踏まえたものです。

 憲法は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」(前文)と決意し、国政は「国民の厳粛な信託」によることなどを人類普遍の原理に掲げています。これらに反する「一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」(同)というのが原則です。

持ち出すことが間違い

 だいたい新型コロナへの感染拡大防止対策と、緊急事態条項を盛り込む改憲は全く関係がありません。いま政治がやるべきことは自粛要請とセットでの補償です。自民党が改憲の口実の一つにする衆院解散後の、緊急の必要がある場合も、憲法54条には参院の緊急集会の規定があります。

 コロナで国民の命と暮らしが重大な危機に直面しているときに、自分たちの思惑である改憲を持ち出してくる自民党と安倍首相の姿勢がきびしく問われます。


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