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2020年3月29日(日)

主張

性暴力の有罪判決

刑法改正の議論を深めるとき

 性暴力に関する刑事裁判で、加害者を無罪にした一審判決を覆し、有罪とする控訴審判決が相次ぎました。2月5日の福岡高裁と、今月12日の名古屋高裁の判決です。二つの裁判は、昨年3月にそれぞれ無罪の一審判決が出されると性暴力の被害者らから怒りと批判が噴き上がり、性暴力の根絶を目指す「フラワーデモ」が始まる大きな契機となりました。今回の逆転有罪判決は、当事者らの痛切な叫び、それへの共感と連帯の運動が司法を動かすことを示すとともに、性暴力をめぐる刑法改正の緊急性を浮き彫りにしています。

被害者の痛みに心を寄せ

 福岡高裁は、飲食店で酩酊(めいてい)状態だった女性(当時22歳)への準強姦(ごうかん)罪に問われた被告に懲役4年を言い渡しました。一審の福岡地裁久留米支部判決は、不同意の性交と認定しつつも、被害者が目を開けるなどしたため「許容していると(被告が)誤信する状態」とし、被告の「故意」を認めず無罪としました。これに対し控訴審判決は、「被害者が一時的に意識があるような反応をしても、直ちに酩酊から覚めつつある状態とはいえない」とし、目撃者の証言なども踏まえ「抗拒不能(抵抗できない状態)であることに乗じ性交に及んだことは明らか」と判断しました。

 名古屋高裁は、当時19歳の娘に対する準強制性交等罪に問われた父親に懲役10年を言い渡しました。娘は中学2年頃から父親に性的虐待を受けていました。一審の名古屋地裁岡崎支部の判決は、娘が過去には性交を拒んだこともあったことなどを挙げ、抗拒不能とするには「合理的疑いが残る」とし無罪としました。しかし、控訴審判決は、過去に性交を拒んだ結果、父親の暴力や抑圧が強まり抵抗する意思・意欲が奪われたと考えられることや、「性的虐待が行われている一方で普通の日常生活が展開されていることは、虐待のある家庭では普通のこと」との医師の証言などを重視し、有罪としました。

 両判決とも性暴力被害の実態を踏まえ、被害者の痛みに心を寄せたものです。しかし、こうした判決が出たからといって刑法は今のままでよいとはなりません。裁判官によりこれほど解釈がばらつく状況を放置すべきではありません。

 名古屋地裁支部一審判決が「(刑法は)意に反する性交の全てを…処罰しているものではなく」としたことは、現行刑法の問題点を浮かび上がらせました。意思に反するだけでなく、「暴行・脅迫があった」「抗拒不能だった」との要件を満たさなければ犯罪とされません。このもとで多くの被害者が泣き寝入りを強いられてきました。

 刑法が制定された明治時代、妻は夫の「財産」であり家の跡継ぎを産むことが「つとめ」でした。性暴力に対し、妻は「貞操」を守るため必死に抵抗することが当然とされました。「暴行・脅迫要件」は、女性が無権利状態に置かれていた時代の名残です。この古い観念を、今こそ問い直すべきです。

重大な人権侵害を許さず

 同意のない性交は、それ自体が個人の尊厳を傷つける重大な人権侵害です。暴行・脅迫要件を撤廃し、同意要件を新設する刑法改正は急務です。近く設置される刑法改正に関する政府検討会の構成員に性暴力被害の実態を知る当事者・専門家を複数入れ、議論を深めることが不可欠です。


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