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2020年3月23日(月)

感染対応 いつまで持つ

保健所悲鳴 体制弱化が拍車

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 新型コロナウイルスで公衆衛生の要である保健所の業務が激増しています。際限なく押し寄せる業務に、現場からは「いつまでこの状況が続くのか」と悲鳴が上がります。

 政府は、新型コロナの相談窓口を各保健所に設置された「帰国者・接触者相談センター」に一本化。感染を判定するPCR検査の実施の判断も保健所に委ねてきました。

 「受付時間と同時に電話が鳴りっぱなしになる。『帰国者・接触者相談センター』といっても特別な部署があるわけではなく、保健所全体で相談に当たっている。それでも1日の相談件数が100件を超えると仕事にならない」

 東京近郊の保健所に勤めるベテラン職員は、そう語ります。

 「受付が終わる夕方から残業。感染症の担当者は業務用の携帯電話を持ち帰り、夜間も県のコールセンターや病院、救急の問い合わせに対応している」

 1990年代以降、保健所の体制が弱められてきたことも危機時の多忙さに拍車をかけています。92年に852カ所にあった保健所は2019年に472カ所に減少。職員総数も約3万4千人から約2万8千人に減り、なかでも医師数は4割以上の減です。

 保健所長は原則医師とされていますが、医師が確保できず、1人の医師が複数の所長を兼ねる保健所も全国に55件、110カ所あります。(18年10月時点)

 背景には1994年に制定された地域保健法があります。同法は、保健所の管轄地域をそれまでより広域の「2次医療圏」と一致させると規定。「連携」を口実に進められた保健所と福祉事務所との統合も、職員減らしに利用されてきました。

 東京23区の保健所に勤めるベテラン保健師は、新型コロナにかかわる保健所の業務は多岐にわたるといいます。

 電話相談から始まり、検査のための病院や患者の搬送の手配、採取した検体の輸送、感染者の行動履歴調査と濃厚接触者の特定…。濃厚接触者には2週間、「健康観察」として朝夕の体温を確認するため毎日一人ひとりに電話をかけます。

 「オリンピックが始まると南半球からインフルエンザと麻しん(はしか)が入ってくると懸念されている。この体制でいつまで持つか」

医療体制弱く検査できず 「機能集約」の影響懸念も

 保健所の通常業務が滞るほどの相談件数。しかし、東京近郊の保健所に勤めるベテラン職員は、電話相談から新型コロナウイルスの感染を判定するPCR検査に回るのは日に数件、相談件数の1%を下回る日もあるといいます。

 「『帰国者・接触者外来』になっている病院も、診療をしているので常時検査できるわけではない。保健所から管内の複数の『外来』に打診して調整する。診療を中断し、防護服を着て検体をとる手間を考えれば、病院あたり1日1人かやっても2人が限度。医療体制が弱く、PCR検査を断らざるを得ないのが現状だ」

 同職員は、本来は保健所でも検査できるようにすることが望ましいとしつつ、医師が複数いなければそれも難しいと語ります。

 「検体採取は医療行為なので医師の指示が必要。所長の医師が検体にかかりっきりで倒れでもしたら、保健所全体の指揮を執る人がいなくなる」

 保健所の機能集約の影響を懸念する声もあります。

 福岡市を除く政令指定都市と東京23区では、この間「1市(1特別区)=1保健所体制」が進行。廃止された保健所の多くは「保健センター」や「保健相談所」に格下げされてきました。

 東京23区の保健所に勤務するベテラン保健師は、感染症対策を一つの保健所に集中したことで、センターや相談所の職員は感染症にかかわらなくなったと指摘します。

 「防護服の正しい着脱の仕方や、感染拡大を防ぐために安全な空間と汚染された空間を分けるゾーニングのマニュアルは、定期的に訓練しないと忘れてしまう。保健所の機能を集約したことで技術の継承ができなくなっている」

 (佐久間亮)


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