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2020年2月23日(日)

シリーズ大学入試「改革」

高校生にダイレクトメールも

ベネッセ新疑惑

IDシステム独占 ソフト販売

 大学入試で「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価するためとして、国の委託研究で作られたサイト「JAPAN e―ポートフォリオ(JeP)」。利用するには、大手教育関連会社、ベネッセが発行するIDが必要です。このIDをめぐり、新たな疑惑が浮上しています。(染矢ゆう子)


写真

(写真)「JAPAN e―ポートフォリオ」のロゴの商標登録。ベネッセが行ったことがわかります(2月5日関係者撮影、現在は出願人・権利者・名義人は関西学院大学に変更)

 JePは文部科学省による大学入学者選抜改革推進事業の委託(2016~18年度)を受け、17年10月に関西学院大学などのコンソーシアム(共同事業体)が運営を開始しました。このJePのシステム開発を請け負ったのが、ベネッセです。その結果、JePの利用には、ベネッセ発行のIDを使うことになりました。

 関西学院大学の担当職員によれば、ID利用にあたっては、複数の事業者から見積もりを取った比較検討もなく、いきなりベネッセに同社発行のID貸借を申し出たといいます。政府も「大学の研究だから」(文科省)として事実上、黙認していました。

 JePのシステム構築を請け負い、自社のIDシステムを貸したベネッセは18年4月、JePが使えるようになるソフトの機能=有料(年3600円)と無料=を相次いで開発し、発表。“JePと連携可能”“84大学がJePを利用”などのふれこみで、全国の高校に売り出しました。

 有料ソフトは、全国の高校の半分に広がりました。無料ソフトでポートフォリオを利用する高校も16・7%(18年さんぽう調査)に上り、有料・無料あわせてベネッセのソフトを利用する高校は、3分の2に達します。

 ソフトを利用した高校生のところに、ベネッセからダイレクトメールが送られてくるようになった、との告発もあります。

 “特定企業の利益誘導につながる”と批判の声もあがり、政府は「社会的な疑念を受ける」としてシステムの改善を求めていますが、黙認してきた政府の責任も強く問われています。

登録情報 別商品に流用

 JePは、高校生が自分でさまざまな個人情報を書き込むシステムです。その項目は、生徒会や部活、資格・検定、留学・海外経験、校外活動などで約800にも。しかし、運営に関わった関西学院大学の職員は、これらの項目は「大学の入試などでこれまで聞いてきたことを並べた」ものだといいます。何の科学的根拠もないのです。項目については高校教員のほか、ベネッセにも「問題点のあるところを教えて」とアドバイスを受けた、と同大職員は話します。

住所同社に提供

 JePと連携するデータを蓄積するために、ベネッセの無料ソフトを利用する場合、IDをベネッセから取得して、登録する必要があります。ID取得には、ベネッセの模試などを受験する、あるいは氏名や誕生日などの個人情報を学校からベネッセに提供する必要があります。登録する際には、高校生の住所も同社に提供します。

 登録した個人情報は、同社商品の営業にも利用されます。東京都内の私立高校教員は「ベネッセから、無料ソフトを紹介する生徒全員分のチラシが何回も来た」と証言します。

 また、文科省は「どこの企業かはわからないが、自社の開発したソフトを使わないとJePが使えない、という不適切な営業活動を展開している」との告発が18年にあったことを認めています。

個人情報の問題

 長女が県立高校に通う沖縄在住の女性は「長女が高校でベネッセの無料ポートフォリオを使うようになってから、ベネッセの通信教材のダイレクトメールが来るようになった」と語っています。

 この女性は、ベネッセ子会社の社員が3504万件もの顧客情報を売却した事件(14年)の際、同社に子どもたちの情報を削除させました。「一企業が学校に堂々と入り込んで、子どもの情報を管理し、営業に利用するのはやめてほしい」と語ります。

 JePを現在運営する教育情報管理機構は、21年4月から別のID発行を予定。文部科学省はJePの活用方法を見直すためとして、協力者会議の設置を決めました。前述の教員はいいます。「主体性評価に関する学術的な裏付けもなく、特定企業の利益誘導、利用者の個人情報流出につながるJePは廃止すべきです。入試に限らず、教育はおろか全国民の個人情報保護に関わる問題です」


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