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2019年11月19日(火)

主張

パワハラ防止指針

救済阻害する素案は撤回せよ

 企業にパワーハラスメント防止措置を義務付けた法律の施行に向け、厚生労働省が示した指針の素案に批判が集まっています。使用者が取り組むべき防止措置を狭め、“これはパワハラに該当しない”という言い訳を許す内容になっているためです。これではパワハラの防止・根絶にならないばかりか、むしろ労働者の救済を妨げ、パワハラを助長しかねない危険があります。欠陥だらけの指針の素案を撤回し、抜本的に見直すべきです。

到達点から大きく逆行

 パワハラ防止を企業に義務付ける法律の来年6月開始を前に、厚労省の労働政策審議会は、企業が講じるべき措置を定める指針づくりの議論を行っています。批判を浴びている指針の素案は先月21日の労政審に示されました。

 大きな問題は、素案がパワハラの定義を矮小(わいしょう)化し、規制範囲を不当に狭くしたことです。その一つが「優越的な関係を背景とした言動」についてです。素案は、「優越的」の意味を「抵抗または拒絶することができない蓋然(がいぜん)性が高い関係」としました。この説明では、力関係に大きな差がないと規制されなくなります。部下から上司、同僚からのパワハラなどは対象外とされかねません。

 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動をめぐる問題で、素案は「超えた」を判断するにあたり、「労働者の行動が問題となる場合」は、その内容・程度と指導のあり方などの「相対的な関係性が重要な要素となる」としています。これでは行動の内容が深刻であれば、過剰な叱責はパワハラにされない余地を残します。

 素案が示す「パワハラに該当しない例」は全く不適切です。とくに「経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること」を除外したことは重大です。企業で相次ぐ「追い出し部屋」など違法なリストラなどの正当化につながります。また、「誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう」場合も該当しないとしたことは、“故意でない”などの言い訳が立てば免罪されるとの誤解を与えかねません。暴言やパワハラにお墨付きを与える危険性は大です。日本労働弁護団は「使用者が責任を逃れる弁解カタログ」と批判しており、削除すべきです。

 救済対象を原則的に正社員に限っているため、就職活動の学生や、フリーランスなどを守るのは極めて不十分です。性的少数者のプライバシー保護措置についても踏み込んでいません。

 ハラスメントを規制する改正法には、衆参の厚生労働委員会で強い実効性を政府に求める付帯決議が行われ、パワハラの判断にあたっては「労働者の主観」にも配慮することなどを求めました。指針素案には、その内容がほとんど反映されていません。運動や判例で築き上げてきたパワハラ規制の到達点を踏まえていないだけでなく、その水準を掘り崩すものです。経団連からの「いたずらに例示を増やさない」という意向に沿った素案という他ありません。

撤回し抜本的な再検討を

 厚労省は年内の指針作成をめざしています。パワハラ防止・根絶の実効性がないばかりか、逆に深刻な害悪を生みかねない指針では労働者は救われません。働く権利を守り人権を保障し、ハラスメントを一掃する指針こそ必要です。


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