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2019年10月26日(土)

「変形労働制」法案 長時間さらに深刻

あえぐ教員 子育てが…

 公立学校の教員の働き方に「1年単位の変形労働時間制」を導入する―。そんな法案が国会に提出されました。今でも長時間労働にあえぐ教職員の働き方が、さらに深刻化するおそれがあります。(染矢ゆう子、堤由紀子、行沢寛史)


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(写真)緊急の国会行動で学校への変形労働制の導入阻止を訴える人たち=25日、衆院第2議員会館前

 昨年4月に育児休業から復帰した東京都内の小学校教員、Bさん。小1と2歳の子どもがいます。

 毎日午前5時半に起床。子どもが起きる前に学級通信を書いたり、授業の資料を作ったり、見切れなかったプリントにコメントを書いたりします。午前7時15分には家を出発し、7時半には学校に到着。30分で学級通信を印刷したり、授業の準備をしたり。

 毎日午後7時まで学校で仕事。保育園の送り迎えは、同じく教員の夫が担当しています。午後10時には子どもを寝かせ、それからが家事の時間。スマホで次の日の朝にやることをメモして、午前0時までには就寝。睡眠時間は5時間半です。

 「1年単位の変形労働時間制」が導入され、学期中の所定労働時間(定時退勤時間)が1時間遅くなると、保育園の迎えが間に合わなくなります。延長料金はもちろん自己負担です。

 国は、子育て中などの事情があれば、その教員だけ適用しなくていいといいます。しかし、学校はチームで仕事をするため職場内でさまざまな思いが錯綜(さくそう)すると言います。

 「変に疎外感を感じたり、逆に『いつも帰れていいね』などといろいろな感情を招くんです。余裕のある現場ならいいけれど、余裕はない。定時に差があったり、『この人は対象外ね』となると、職場の中で壁が生まれる。心情で分断されるのはよくないです」

業務減らず 延びる「定時」

 学期中の勤務時間が長くなるとは、どういうことでしょうか。

 図は、学期中に所定労働時間を1日1時間延長した場合のイメージです。

 現行での定時退勤が午後4時45分だったものが、制度導入後は15分の休憩と合わせて退勤時間は午後6時になります。それまで時間内に収めようと意識して設定されてきた会議時間が、延長されることも予想されます。

 しかし、授業準備などの業務量は減らないため、時間外に行っていた業務がそのまま後ろにシフトして、さらなる長時間労働をもたらす危険性があります。

長時間労働ごまかすもの

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(写真)教員の長時間労働をなくそうと教育研究者や過労死家族らが開いた集会で発言する、公立高教員で呼びかけ人の西村祐二さん=8日、参院議員会館内

 「教員にも決められた勤務時間があるんだ、という意識がやっと広がって、『できるだけ早く帰ろう』と声をかけあってきたのに。国のいう『働き方改革』っていったい何だったのか。まったく納得がいきません」

 こう話すのは、神奈川の小学校教員、Aさん(36)です。

 勤務校では「必要な仕事はできるだけ勤務時間内に終わらせよう」と、会議や学年の仕事などを厳選。授業準備の時間も生み出しながら、なんとか6時ぐらいには帰れるように努力してきました。

 「教員の仕事ってキリがなくて、時間があればいくらでもやっちゃうんですね。その瞬間には疲労も感じないぐらい、無理してしまう。でも、長時間働くと集中力も落ちる。『ここまでだよ』という時間の区切りは、とても大切なんです」

 周辺の学校では、今でも会議が遅くまで入り、その後に自分の仕事をやらなければならないため、夜の9時や10時に学校を後にすると言います。

 「変形制になって学期中の勤務時間が長くなってしまったら、結局、こういうことが許されることになる。今ある長時間労働をごまかすだけでなく、さらに長時間働かざるを得なくなる変形制は、絶対にダメです」

 ところが、変形制は教員の間で知られていない、とAさん。「長時間労働をごまかすものだよ、ということを急いで知らせなければ。知れば、みんな驚いて反対するはずです」

 変形制の導入は論外。「授業の持ち時間を減らすことが一番必要です。1週間の持ち時間を20コマに減らせば、勤務時間内に宿題をみたり、授業のノートやプリントを見たり、授業準備もできます」とBさん。「変形時間制で定時の時間が延びると『定時内だから』と会議を入れられたりしたら、こうした子どものための時間は取れない。変形制ではなく、平日の仕事が勤務時間内に収まるような対策がなければ、意味はありません」

夏休みだって忙しい

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(写真)法案の閣議決定に抗議し、廃案に追い込む運動をつくろうと決意を固め合う国会行動の参加者ら=18日、衆院第2議員会館内

 政府の制度導入の理由は「夏休みの増加」です。しかし、今の学校は夏でも研修や当番などで多忙を極めており、夏休みをとれる保障はありません。

 さいたま市教育委員会はこの7月、変形労働制を試行しました。

 小学校、中学校、特別支援学校のうち11校が7月1日から19日まで同制度を導入。勤務時間を4日間1時間ずつ延長し、その4時間分の休暇を7月中の夏季休業間に取ることになりました。育児や介護中の人には、同制度を適用しませんでした。

 埼玉県教職員組合(埼教組)の井上毅書記長はいいます。「学期末は多忙なので、勤務時間が延長されることに抵抗感はなかった。実施前は『はみ出した分、ちゃんと休みが取れていい』という声もありました」

 「しかし…」と井上さんは続けます。「わずか4時間でさえも、その分を調整できる日が見つからなかったのです」

 実は、夏季休業中は研修や作業があります。井上さんが勤務する三郷市ではワックスがけやカーテンの洗濯とその着脱、エアコン・扇風機・トイレの清掃、プールや鉄棒のペンキ塗りなどの“雑務”がたくさん。業者に頼む予算がないために、子どもがいない夏季休業中に教員が行っているのです。

 井上さんはいいます。「教員の未配置や未補充が多く、常に『繁忙期』で長時間労働を余儀なくされる中、長期休業期間を閑散期と決めつけて、変形労働制をとるのはあまりに無謀です。今でも、教職員間で業務を調整しなければ、夏季休業期間中の数日の年休さえ消化できない。変形労働制による調整など論外です」


1年単位の変形労働制とは

 今回、公立学校の教員に導入されようとしている「1年単位の変形労働制」は、労働基準法32条の4で定められた規定です。

 1カ月を超え1年以内の期間を「繁忙期」と「閑散期」に分け、「繁忙期」は1日10時間まで所定勤務時間とでき、期間全体の平均労働時間が、1日当たり8時間に収めるようにする制度です。それは人間らしい働き方を定めた「1日8時間労働制」の例外規定で長時間、不規則な勤務が強制され、人間の生理と反した労働時間法制です。

 現行法は民間事業所のみが対象です。教育公務員をふくめ地方公務員は対象外となっています。今回閣議決定された法案は、それを教育公務員に適用可能とするものです。

 同制度を導入する場合、過半数労働者の同意に基づく「協定」が必要です。しかし、この同意の事項は削除され、自治体の条例で定めるとしています。

 また使用者は、期間の初日の少なくとも30日前に、最低で1カ月分の労働日と労働日ごとの労働時間を定める必要があります。しかし、一度決めてしまうと、途中での変更はできません。


共産党提言 教員増こそ

運動広がる

 「変形労働制はやめさせよう」との運動が広がっています。

 日本共産党は21日に提言「教員をこれ以上、長時間働かせるのか―『1年単位の変形労働時間制』導入に強く反対する」を発表しました。

 「変形制」は長時間労働を固定化し、助長するものだとして、導入に強く反対。長時間労働をなくす抜本的な対策として▽教員の定数増▽不要不急の業務の削減▽公立学校給与特別措置法(給特法)の抜本的な改正―を提案します。

 全日本教職員組合(全教)など教育関係者や弁護士などは「せんせいふやそうキャンペーン」を推進。9月末には、教職員の大幅増員と変形制導入中止を求めて4765人から集めた署名(第2次提出。のべ約2万1千人)を首相・文科相あてに提出しています。

 公立高校教員(ネット上の仮名は斉藤ひでみさん)が呼びかけ人の変形制撤回を求めるネット署名は、3万1830人に。28日には、文科相や衆参議長あてに提出する予定。「教職員がこんなに過酷な労働を強いられているとは知りませんでした」「子をもつ親として、教師を務める方々を取り巻く環境が改悪ではなく改善されることを望みます」などのコメントが寄せられています。

 自由法曹団は4日、教職員の長時間労働解消を求め、変形制導入に反対する意見書を発表。連合は9月末の中央執行委員会で、休日増加や長時間労働の是正につながることが確認され、条件が満たされた場合に限定すべきだ、としています。

図:変形労働時間制で先生の帰りは遅くなる

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