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2019年8月18日(日)

きょうの潮流

 彼女が抱える憂鬱(ゆううつ)は人生そのもの、その平凡な日常。他人の人生との差異の中に見いだそうとする「特別」な価値。やがて、幸せや人生の価値は自分自身の日常にあると気づいていく▼京都アニメーションの代表作「涼宮ハルヒの憂鬱」。主人公の少女の内面を『京アニを読む』の著者、野村幸一郎さんがつづっています。思春期の葛藤のなかで、どのように願望や憧憬(しょうけい)と折り合いをつけ、成熟を受け入れるか。その道筋を示そうとする物語だと▼京アニが紡ぎ出すメッセージを、多くの若い人たちが受けとってきた。日本近代文学の研究者でもある野村さんはいいます。複雑に揺れ、目には見えない空気のようなものまで映像化する作品の質の高さとともに▼国や言葉の壁をこえて愛されたアニメ文化をも根こそぎ奪った放火事件から1カ月。一気の炎と煙に巻かれ、もがき苦しんだ犠牲者の状況がわかるにつれ、一方的な憎悪をぶつけた犯行の残虐さが際立ってきます▼自身もやけどを負った容疑者の動機はいまだ不明のままですが、伝えられる言動からは世の中や社会にたいする嫌気や不満が立ちのぼってきます。41歳の男が抱えた日常の憂鬱。訳もわからず、35人の命が奪われ、今も生死をさまよう負傷者▼現場には国内外から悼む人びとが絶えず、支援の輪もひろがっています。やり切れなさをひきずりながら、培ってきた文化の灯は消させないと誓う関係者の思いは強い。若者が心のよりどころにする人間の姿を描くことをあきらめずに。


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