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2019年8月12日(月)

主張

表現の不自由展中止

芸術・文化への介入を許すな

 あいちトリエンナーレは、2010年から3年ごとに開催されている国内最大規模の国際芸術祭です。1日に開幕した芸術祭の企画展の一つ「表現の不自由展・その後」が、わずか3日で中止に追い込まれました。憲法21条の保障する「表現の自由」が侵害された、きわめて深刻な事態です。

多様な表現の保障こそ

 「表現の不自由展・その後」は、過去に国内の美術館などで展示を拒否されたり、公開中止になったりした16組の作品を、その経緯とともに展示する企画です。15年に東京都内のギャラリーで開かれた「表現の不自由展」の続編として、愛知県美術館で10月14日まで開かれる予定でした。

 ところが、日本軍「慰安婦」を題材にした少女像や昭和天皇の写真を使った作品などの展示が公表されると、テロ予告や脅迫を含むファクスや電話が祭典実行委員会や愛知県庁などに殺到しました。実行委員会会長の大村秀章愛知県知事は、中止の理由を「芸術祭全体の安心安全、今後の円滑な運営のため」と説明しています。

 暴力や脅迫で自由な表現の場を奪うことは許されません。関係者や市民団体の間では展示再開を求める動きが広がっています。

 近年、公共施設で展示作品が撤去される事例が相次ぐ原因にも、ネット右翼などによる攻撃があります。その背景に安倍政権が「慰安婦」問題や「徴用工」問題をはじめ過去の侵略戦争と植民地支配への反省を欠き、それを正当化する歴史修正主義の立場をとっていることも指摘しないわけにはいきません。極右・タカ派政治家らの扇動的な言動も見逃せません。

 今回とりわけ重大なのは、政治家が展示の内容に介入していることです。河村たかし名古屋市長は2日、展示を視察した後、少女像の展示について「日本国民の心をふみにじるもの」などとのべ、大村知事に即時中止を求める公文書を送りつけました。これにたいし大村知事が「検閲ととられても仕方ない。憲法違反の疑いが濃厚だ」と批判したのは当然です。

 菅義偉官房長官が2日の記者会見で、芸術祭が文化庁の助成事業となっていることに言及し「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して適切に対応したい」と、交付の差し止めを示唆したことは大問題です。

 民主主義社会において芸術・文化の「表現の自由」は広く認められなくてはなりません。多様な表現の機会を保障することこそ国と自治体の責務です。芸術・文化への公的助成にあたっても専門家の判断にゆだね、国や自治体は“金は出しても口は出さない”という原則が守られるべきです。時の政権の立場に批判的な内容なら金を出さないというのは、表現の自由を脅かす干渉にほかなりません。

「検閲国家」にさせない

 憲法21条は「表現の自由」を定めたうえに、2項で検閲の禁止を明記しています。それは、戦前の日本で政府が芸術・文化や学問・研究の内容を検閲したことが、多様な価値観を抑圧して民主主義を窒息させ、国民を戦争に動員したことへの反省にたったものです。

 今回の事態に日本ペンクラブや芸術団体などが次々と抗議の声を上げています。表現の自由を守り抜き、日本を「検閲国家」にしないために、力を合わせましょう。


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