2019年7月28日(日)
社会リポート
“引き出し屋”野放し
ひきこもり支援うたい人権侵害
高額研修費請求も 「法規制早く」
ひきこもりからの「自立支援」をうたう一部施設で人権侵害や違法行為が問題になっています。「引き出し屋」と呼ばれ、被害者が続出、法規制を求める声が上がっています。(取材班)
|
暴力的な連れ出し、施設内での監視、監禁、就労の強要、数百万円もの研修費の請求…。
被害者からの相談にのる林治弁護士によると「引き出し屋」は各地にあり「支援とは名ばかりの違法行為をくり返している」といいます。
テレビ番組見て
業者の一つが「あけぼのばし自立研修センター」(東京都新宿区)です。林弁護士によるとAさんは息子(20代前半)のひきこもりに悩んでいました。大学を休学し、人との付き合いがうまくできずにいました。「何とかしたい」と焦るなか、同施設を紹介したテレビ番組を見た義父が連絡してきました。
わらをもつかむ思いで電話をすると「症状は重い」という職員。施設の見学もかねて上京すると「いま契約しないと5年、10年はあっという間」と不安をあおり、「ここに来ればほとんどの人は自立します」と話しました。職員が「今回は特別に値引きした」という“半年間で685万円”を研修費として支払う契約をしました。
連れ出し日は6日後とその場で決定。「本人には知らせない」「親はその場にいない」ことをAさんに指示しました。林弁護士は「悩む時間を与えず、暴力的な現場を親に見せないようにしている。巧妙なマニュアルをもとに動いているのではないか」と指摘します。
|
息子の後日談によると、屈強な数人の男性がやってきて4時間の押し問答の末、断りきれずに車に乗りました。連れてこられたのは2LDKのアパート。2段ベッドが数台あり、職員が寝起きをともにしていました。初めに携帯、財布、免許証などはすべて没収され「逃げられない状況」にされたといいます。
しばらくすると「働かないと精神科病院送りだ」などと言われ、半ば強制的に働かされました。耐えかねた男性は脱走。弁護士とつながり、家族も実態を知りました。
自公議員も視察
同施設をめぐっては拉致監禁、精神科病院に強制入院させられた30代の男性らが提訴しています。同施設のホームページによると「14年間の信頼と実績」をPRし、自民党や公明党の地方議員も視察に訪れています。
林弁護士は「多くの家族は周りに悩みを隠し、相談先も分からない。窮状に付け込んだ許しがたい違法行為です。ひきこもり当事者の人権を徹底的に傷つけ、親子関係を崩壊させる。自立支援どころか回復を妨げている」といいます。
現在こうした施設を規制する法律はなく、野放し状態です。林弁護士は「業者の行為は厚生労働省の『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』にも真っ向から反しています。信頼できる支援団体と差別化をはかるうえでも、登録制、許可制など指導監督できる体制をつくるべきです」と訴えます。
同施設を運営する企業「クリアアンサー」は本紙の取材に期日までに回答しませんでした。
【本人や家族の相談先】
■KHJ全国ひきこもり家族会連合会 info@khj-h.com
■一般社団法人若者協同実践全国フォーラム info@jycforum.org
■全都道府県と指定市の「ひきこもり地域支援センター」(厚生労働省のホームページにリストがあります)