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2019年6月30日(日)

安倍流G20 空疎な「結束」

 20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は29日、首脳宣言を採択し閉幕しました。安倍晋三首相は参加国の共通点による「結束」を強調しました。しかし「結束」の繰り返しは、不一致点が多いことの裏返し。世界が解決を求める課題は棚上げにされた形になりました。大国との「協調」を演出する安倍外交は、行きづまりを露呈しました。(桑野白馬、斎藤和紀、杉本恒如、増田哲明)


公正な貿易政策 視点なし

 「引き続き日本は、自由貿易の旗手として多角的貿易体制の改善や経済連携協定交渉を力強く推進していく」

 安倍晋三首相が表明しました。首脳宣言には「自由貿易を推進」との表現があるだけで、トランプ米政権の「一国主義」を念頭においた「反保護主義」の言葉は、昨年の宣言に続き2年連続で入りませんでした。

 多国籍企業の「自由貿易」体制は、世界で規制緩和を進め労働者保護を破壊しました。消費者の権利がないがしろにされ、税逃れが横行しました。その結果、貧困と格差が拡大しました。世界経済を立て直し、人々の暮らしが持続可能な社会を構築していくためには、各国の経済主権を柱とした公平・公正な貿易体制が求められますが、その視点はありませんでした。

 世界経済を押し下げるリスクとして、各国から米中貿易摩擦に対する懸念が多く出されました。しかし、有効な具体策を打ち出すことはできませんでした。

 安倍首相は日米首脳会談で「トランプ政権発足以降、日本企業が2440万ドル(約26億円)投資し、4万7000人の新規雇用を創出した」と述べました。トランプ大統領はインドのモディ首相との会談で、安倍首相が「日本の自動車産業がさらに米国に工場を建設する」と表明したと明かしました。米国での自動車生産を拡大すれば、日本からの輸出は減り、国内の生産の減少につながります。

懸念に応えず データ流通

 安倍首相が大阪サミットの目玉と位置付けて大々的に宣伝していたのがデジタル経済(インターネットを通じた経済活動)に関する国際ルールづくりです。交渉の枠組みとして「大阪トラック」を創設し、国境を越えたデータ流通のルールづくりを開始するという触れ込みでした。

 ところが、有志国の首脳らが「大阪トラック」の開始に同意して発した「デジタル経済に関する大阪宣言」は、どのようなデータ流通ルールをめざすのかという理念や具体策を一切示しませんでした。

 日本を「デジタル革命時代」の「フロントランナー」(先導者)にするという野望を抱く安倍首相が語ったのは「データの自由な流通」を促進し「デジタル化の潜在力を最大限活用する」という目的でした。「信頼に足るルールのもとでデータの自由な流通を促進しなければならない」というのです。

 しかし、市民が懸念しているのは情報通信(IT)企業による個人情報の収集・流通がプライバシー侵害を引き起こす事態です。国境を越えたデータ流通がさらに問題を深刻にするのは確実です。市民社会を代表するC20は、G20への政策提言書で「国境を越えた『自由なデータの流通』という概念は、特定の業界関係者が規制を回避するために推進しているアジェンダ(行動計画)であり、公共の利益に資するものではありません」と批判していました。

 安倍首相は市民社会の声を無視し、データビジネスで利益をあげる企業側の思惑を押し通したのです。

米に配慮 行き詰まり鮮明

 「令和ブーム」と並び、安倍政権が参院選向けのアピール材料に位置づけていたG20サミットでしたが、「外交の安倍」を誇示するどころか、安倍外交の行き詰まりが鮮明になりました。

 日米首脳会談では、地球温暖化防止の世界的枠組み「パリ協定」に関し、協定を離脱した米国に復帰を働き掛けませんでした。環境問題すら日米間で議論せず、気候変動対策の議論に熱心な欧州諸国からトランプ米政権を孤立させまいとする安倍首相の“配慮”がみてとれます。

 米国の顔色をうかがう一方、日本自身の温暖化対策の「長期戦略」も世界の水準から大きく立ち遅れ、2016年に決定した温室効果ガスの削減目標は主要国で最低レベルにとどまっています。

 会談で首相は「強固な日米同盟」を強調しましたが、トランプ氏は「貿易、軍事、武器の大量購入」に言及。貿易交渉では閣僚間協議の「さらなる交渉の加速」で合意するなど、日本の農業が売り渡される危険が現実味を帯びています。

 また、安倍首相はトランプ氏が来日前に日米安保条約「破棄」に言及したとの報道について同氏の真意をたださない一方、トランプ氏は「安保条約を変えるべきだ」との考えを伝え、日本にさらなる軍拡や自衛隊の軍事分担拡大を要求しました。

ロシアと領土交渉進展なく完全破綻

 ロシアとの領土問題ではどうか。安倍政権はG20での「決着」を狙い、従来の政府方針である「4島返還」すら投げ捨て、歯舞、色丹の「2島返還」で平和条約を締結し、領土を画定する方針へと後退しました。しかし、それすらロシア側に受け入れられないばかりか、プーチン大統領は訪日前の22日、国営テレビで「(北方領土を日本に引き渡す)計画はない」と明言。29日の日ロ首脳会談は何ら進展がなく、事実上、安倍政権下での「領土交渉」は完全に破綻しました。


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