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2019年4月29日(月)

鹿児島 馬毛島ルポ 日米が米軍機訓練移転を狙う

トビウオ漁盛んだった「宝の島」 飛行場建設で乱開発

 政府が米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の移転先候補として狙っている鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)の売買交渉は、地元の合意を得ないまま強引に進められてきました。目標としていた2018年度内の妥結ができませんでしたが、日米両政府は引き続き馬毛島の用地取得に執念を燃やしています。今月の県議選で当選したばかりの日本共産党の平良行雄氏と西之表市の渡辺道大市議、市民団体のメンバーらとともに、渦中の馬毛島に渡りました。(桑野白馬)


地図:馬毛島

 馬毛島は、鹿児島県種子島の西12キロに位置する、面積約8平方キロの無人島です。種子島の西之表市の港から漁船で約50分、馬毛島の船着き場(葉山港)に到着。島の大半を所有する立石建設(東京都)の建物が眼前にそびえ立ち、ほこらも立っています。見渡すと、放射状に伸びた葉が特徴的なソテツの木が生い茂り、島の固有種マゲシカのものとみられるふんが散乱しています。

立ち入り拒む

 海岸から伸びる西之表市道を歩き始めると、一行の動向を監視していた立石建設の駐在員1人が「ここから先は入らないで」と立ちふさがって島の内部への立ち入りを拒否し、先には進めません。渡辺市議は「市道を市民が通れないことなどあるのか」と憤ります。

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(写真)タストン社が建設した滑走路(1月30日撮影、亀澤さん提供)

 防衛省が1月30日に馬毛島の調査に訪れた際、抗議行動に参加した亀澤修一さん(68)は、立石建設の子会社「タストン・エアポート」社が建設した滑走路に「雑草がほとんど生えていないことにびっくりした」と言います。実際、写真を見ると砂漠のような荒涼とした風景が広がっており、乱開発を進めてきたことがうかがえます。

昔に戻りたい

 戦後、入植が進められた馬毛島は、最盛期となる1959年には528人が住み、小・中学校もありました。豊かな自然があり、「宝の島」と言われていた馬毛島ですが、65年に製糖工場が閉鎖、78年には国の石油備蓄基地の候補地になるなどして人口減少が進み、80年に無人島になりました。

 立石建設は、島の開発を手がけていた「馬毛島開発」を買収し、「タストン・エアポート」に社名を変更。滑走路建設などの乱開発を進めてきました。現在は、島の99%をタストン社が所有しています。2006年の米軍再編ロードマップをきっかけに、FCLPの移転候補として浮上してきました。

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(写真)平良行雄新鹿児島県議(右)に島での暮らしを語る日高薫さん(左)=23日、馬毛島(鹿児島県西之表市)

 「昔は海にもぐって魚をとったり、体育の授業で泳いで競争もしたんですよ。あぜ道の先にマムシが待っていたこともあります」。小・中学校の9年間を馬毛島で過ごした漁師の日高薫さん(70)は海岸を見つめながら懐かしそうに語ります。「島では常にはだしで駆けていました。靴をはくのは種子島に渡る時くらい」とほほ笑みます。島ではかつてトビウオ漁が盛んでした。「漁師が泊まり込む、わらぶき小屋が並んでいた風景をよく覚えています。自然が豊かだったこの島で、将来のんびり暮らそうと思っていたのに…。戻れるものなら戻りたい」とつぶやきます。

訓練移転させない

 2006年5月の米軍再編ロードマップでは、厚木基地(神奈川県)所属の米空母艦載機を岩国基地(山口県)に移転することで日米両政府が合意。これに伴い、硫黄島(東京都)を中心に行われていた空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の移転も検討されることになりました。こうした中、07年に馬毛島が移転先として浮上しました。

地元合意なし

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(写真)立石建設の建物の前に立つ清水さん=23日、馬毛島(鹿児島県西之表市)

 11年には、日米安全保障委員会(2プラス2)合意文書に、馬毛島に自衛隊基地を建設し、FCLPの代替地とすると初めて明記。多くの住民が暮らす種子島からわずか12キロの馬毛島で、タッチアンドゴーなど昼夜分かたず爆音をもたらすFCLPが移転される計画に、島ぐるみの反対闘争が起こりました。

 その後、交渉は停滞しましたが、南西諸島の軍事大増強を狙う安倍政権の下で再浮上します。今年1月、防衛省は突如、島の99%を所有するタストン社との間で「土地・建物の売買条件について大筋合意した」と発表。当初の鑑定額45億円の3倍超となる160億円で買収に合意し、3月中の正式な契約締結を目指すと報じられました。しかし、防衛省は今月1日、年度内に売買契約を妥結できなかったと明らかにしました。

 「地元の合意もなく、予算措置などもない。馬毛島に基地はつくれない」「馬毛島の米軍施設に反対する住民の会」の清水捷治副会長はきっぱりと話します。

 日本共産党の仁比聡平参院議員、田村貴昭衆院議員の国会での追及で、馬毛島をめぐるさまざまな問題が明らかになっています。

 総務省の公害等調整委員会は、タストン社が滑走路建設や林地開発に伴い、許可申請の範囲を超えて開発・伐採をしたと事実認定。清水氏は「違法開発した土地を国が買い取るなど、法令上も倫理上も認められない」と強調します。

 さらに、同社の土地登記簿には極度額140億円の抵当権が設定されています。仁比氏の追及に対して岩屋毅防衛相は、抵当権が設定されたまま土地の取得はできないと明言しました。(3月18日、参院予算委員会)

 ところが、今月19日の日米2プラス2共同文書では、再び馬毛島が明記され、「島の取得に係る日本の継続的な取り組みに対する評価を表明」などと記載されました。

 清水さんは、防衛省がさらに前のめりに交渉を進めるとの見方を示し、「一層急激な展開を見せている。反対運動を結集し、みんなの団結で、防衛省があきらめるまで運動を続ける」と言います。

宝の島奪うな

 馬毛島を視察した「戦争をさせない種子島の会」の迫川浩英事務局長をはじめ、市民団体のメンバーらは、日本共産党の渡辺道大、橋口みゆき、無所属の和田かおり各西之表市議や新県議の平良氏を激励しました。

 メンバーらは「南西諸島の島々の運動と一緒に『軍事基地は要らない』との方向で交流が広がっている。基地問題は沖縄だけの問題じゃないとの発信が大事」「県知事、防衛大臣に県議会の決議などで島の基地化に反対する意志を示すためがんばってほしい」などと語りました。

 平良氏らは、「馬毛島には(FCLP以外にも)ふさわしい活用方法がある」と表明している八板俊輔市長とも市役所で面談し、仁比、田村両氏の国会質問の内容を報告しました。

 「『宝の島、馬毛島を奪うな』という共通の気持ちで広範な人たちと手をつなぐことができる。みんなの団結で運動を続けていく」。清水さんは力をこめて語りました。


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