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2019年4月27日(土)

ワールドリポート

トルコ 地方選で歴史的勝利

圧政阻止へ野党が共同

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(写真)投票日直前に街頭で野党候補支持を訴えるHDPの支持者たち=3月30日、イズミル(HDP提供)

 3月末にトルコで実施された統一地方選。エルドアン政権の与党が主要大都市の市長選で相次ぎ敗北し、野党候補が当選を果たしました。強固に見えた与党が歴史的敗北を喫した背景、圧政阻止のために共同を進めた野党の戦略、市民の思いを現地からリポートします。(イスタンブール=松本眞志 写真も)

■衝撃イスタンブール

 選挙結果は、与党・公正発展党(AKP)と民族主義者行動党(MHP)の「人民連合」が首都アンカラをはじめ主要都市の市長選で野党側の「国民連合」に競り負けました。

 30の「大都市行政区」の市長選挙に限ると野党は半数の15都市で勝利しました。「イスタンブールを制するものは、トルコを制する」といわれます。全人口の18%を占める同市でも接戦の末、野党候補が勝利したことは衝撃を与えています。

 エルドアン政権は野党や人権活動家の弾圧、国民の自由の制限など強権政治を強めてきましたが、経済政策の行き詰まりで支持率は低下傾向。それだけに、今回、与党連合は「存続をかけたたたかい」と位置づけて選挙戦に挑みました。

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 左派野党の国民民主主義党(HDP)はこれと正面から対決、野党と国民の共同でエルドアン政権を追いつめる戦略をとりました。イスタンブールなど西部の大都市で自党の候補者擁立を初めて見送ることを決断し、最大野党の共和人民党(CHP)候補を支援、南東部地域ではクルド人諸政党との共同を進めたのです。

 首都アンカラ在住の女性ライラ・イブラヒムさん(55)は、「圧政に抗して、民主主義と平和を取り戻す国民民主主義党の呼びかけに応え、共和人民党候補に投票した」とうれしそうに語りました。

■国民の要求を掲げて

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(写真)ヒシャル・オズソイ氏

 HDPの国会議員ヒシャル・オズソイ共同副委員長(42)は今回の選挙は、エルドアン政権の信を問う「政治的国民投票」で、背景に「恐怖を希望に変えたいという国民の強い願いがあった」と説明しました。

 HDPからの支持を受けて自らの候補を当選させた形の共和人民党ですが、同党のウナル・チャビコズ副党首は「与党は国民の要求を無視した。わが党は国民の要求を掲げて勝利した」と語り、HDPの身を捨てての野党共同戦略を必ずしも評価していません。

 ただ、これまで与党を支持してきた政治評論家のオクタイ・ユルマズ氏は、「HDPは自分を犠牲にして公正発展党の敗北と共和人民党の勝利に貢献した」と強調。HDPの戦略は選挙に大きな影響を与えたと分析します。

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(写真)アブドゥルカディル・バイダル氏

 野党勢力が強く、HDPと共和人民党の関係も良好なイズミルではより強固な協力関係、事実上の「共闘」も実現しました。同地で活動するHDPのアブドゥルカディル・バイダル中央評議会委員(50)は、政策協定がないもとでも共和人民党との会合を重ね、「エルドアン大統領と公正発展党を退陣させ、より民主的な将来をめざす」と新戦略を説明し説得したといいます。

 共和人民党側は「候補者選び」でHDPに相談を持ちかけ、HDPが推薦する人物を候補者に選ぶなど協力が進みました。

■若者に重要性訴える

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(写真)サリム・カプラン氏

 「他党候補への投票」という、これまで経験したことのない選挙戦となったことにHDPの党員や支持者の間には戸惑いもありました。接戦で野党が勝利した最大都市イスタンブールで活動するHDPのサリム・カプラン中央評議会委員(38)も「支持者にこの戦略を理解してもらうのは容易でなかった」といいます。

 「トルコの工業や文化の中心イスタンブールでの与党敗北は、トルコ全体での敗北を意味する」というカプラン氏は、この地での野党候補勝利の重要性を支持者、特に若者に訴えました。若者たちはエルドアン政権の圧政や経済危機の犠牲となり、失業率も他世代より高く、3人に1人が失業者だといわれているからです。

 イスタンブールはクルド、アラブ、アルメニアなどトルコ人以外の諸民族や諸宗教が混在する都市でもあります。宗教や民族の枠を超え、「エルドアン政治の打破こそが各コミュニティーの利益につながる」、だからこそ野党共同で与党に打撃を与えようとの訴えに共感が広がったといいます。

■「政治は変えられる」

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(写真)ゼラル・イェルリカヤ氏

 カプラン氏は、国内数千万人を数え、イスタンブール市民の2割以上ともいわれるクルド人が、今回の選挙を自分たちだけでなく、トルコ国民全体の利益として考える機会になったといいます。宗教者に対しても信教の自由を訴えて野党共同の必要を理解してもらう努力を追求しました。カプラン氏は選挙勝利で党員や支持者が「政治を変えることができる」との確信を深めたと語ります。

 クルド人が多く居住する南東部の市長選では、HDPはクルド人諸政党と共同し独自候補を擁立して奮戦。候補者を立てた15市のうち11市で勝利し、この地域の地盤を再び強固にしました。選挙中、アンカラ在住で学生のクルド人女性ゼラル・イェルリカヤ中央評議会委員(24)は現地で活動し、ソーシャル・メディアの普及が不十分ななかで戸別訪問や小集会で直接対話しHDP候補者への支持を訴えました。

 ゼラルさんは「クルド人だけでなくトルコ国民はエルドアン政権から政治的圧力に加えて経済的、社会的抑圧を受けている。エルドアン政権退陣の要求はますます強くなるだろう」と語りました。


 公正発展党(AKP) 2001年、当時イスタンブール市長を務めていたエルドアン現大統領らを中心に立ち上げ。イスラム主義政党の美徳党の流れをくみます。02年の総選挙でイスラム主義的主張を抑えて中道右派を標榜して第1党となり、単独与党に。翌03年にエルドアン氏は首相に就任し、以後、同党の政権が継続。

 国民民主主義党(HDP) トルコ国内の左翼勢力やクルド人政党、人権擁護運動や女性運動などの民主主義をもとめる勢力が2012年に結成。6万人以上の党員を擁し、18年の総選挙では国会(定数600)のうち67議席を得て第3党(野党第2党)に。エルドアン政権の弾圧で、「テロ組織とのつながり」を理由に1万人近い党員が逮捕され、デミルタシュ前共同党首も拘束中。

 共和人民党(CHP) トルコ初代大統領ケマル・アタテュルクによって1923年に世俗主義を掲げる「人民党」として設立。80年の軍のクーデターで解党しますが、2000年代に党勢を回復し、現在、野党第1党。中道左派政党といわれ、社会主義インターナショナルにも加盟。


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