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2019年4月24日(水)

きょうの潮流

 朝鮮には「恨(ハン)の思想」があるそうです。ただの恨みではなく悲哀や無常観、悲惨な境遇から解き放たれたい。そんな思いが含意されています。この人の胸中は“恨の色”に染まっていたに違いありません▼1936年ベルリン五輪男子マラソンで優勝した孫基禎(ソン・キジョン)さん。日本の植民地時代に朝鮮で生まれ育ち、五輪には日本代表として出場を余儀なくされました。表彰式で手に持つ月桂樹で胸の「日の丸」をそっと隠し、うつむきつつ「君が代」を聞く。「耐えられない屈辱であった」と記しています▼一方、生涯の友となる日本人との出会いがありました。開会式で「朝鮮人の後ろを歩けるか」と声を荒らげた軍人選手。それを一喝した大島鎌吉選手らとの絆です。差別、抑圧を超えた友情は戦後、日韓のスポーツ界の礎となりました▼「スポーツの意義はその競技でトップに立つことではなく友情・信頼、相互の尊厳にある」。「恨」の思いを豊かに乗り越えた言葉。生きざまが4月に出版された『評伝 孫基禎 スポーツは国境を越えて心をつなぐ』(寺島善一著 社会評論社)に詳しい▼いま冷え込む日韓関係。多くは政治の責任です。スポーツが冷えた扉をどう開くか。昨年、平昌(ピョンチャン)五輪のスピードスケートで、小平奈緒、李相花(イ・サンファ)の両選手のレース後にみせた友情がヒントになる―。亡き孫さんが語りかけているようです▼植民地時代のメダルはいまだ日本のものと記録されています。過ちを正し、乗り越える戦後の宿題はここにもあります。


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