2019年4月5日(金)
きょうの潮流
改元の騒ぎのなかで日本最古の歌集に光が当たっています。書店では万葉集関連の本の問い合わせが相次ぎ、関心が高まっているそうです▼奈良時代に編さんされたという万葉集は皇族や貴族だけでなく、防人(さきもり)や農民まで幅ひろい階層の歌が収められています。730年の春、歌人で大宰府の長官だった大伴旅人(おおとものたびと)が催した梅を詠み比べる宴が「令和」の典拠になりました▼〈初春の令月にして、気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ〉。引用元とされた「梅花の歌三十二首」の序文です。安倍首相は国書からとったと強調していますが、中国の漢籍をふまえて書かれたことが定説になっています▼この宴で披露された歌のなかで出色と評されたのが山上憶良(やまのうえのおくら)の作品でした。〈春さればまづ咲く宿の梅の花独り見つつや春日暮(はるひくら)さむ〉。春になると最初に咲く梅の花を一人で見て春の日をすごすなど、どうしてできようか。妻を失って間もない旅人の孤独な心境もくんだ一首といわれます▼憶良といえば「貧窮問答の歌」が有名です。律令体制のもとで徴税や強制労働に苦しむ民の貧しさと悲痛な叫び。それを主題にした歌には人間の平等を根底にした主張があったと(北山茂夫著『万葉群像』)▼〈かくばかり 術なきものか 世間の道〉。国家権力による抑圧と貧困に嘆き悲しむ人びと。憶良の時代、天皇の国家にあって、民衆は無権利な存在でした。しかし今の世に、たとえ天皇や元号が代わっても生活に変わりはありません。社会をつくるのは、わたしたち主権者です。








