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2019年3月26日(火)

きょうの潮流

 3月26日は犀星(さいせい)忌。詩人・小説家の室生犀星(1889~1962)が亡くなった日です▼犀星の詩で最も親しまれているのは、〈ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの〉で始まる一編でしょう(「小景異情 その二」)。たとえ異郷で食い詰めても故郷は帰る所ではないと嘆き、〈ひとり都のゆふぐれに/ふるさとおもひ涙ぐむ〉と歌う、犀星23歳の作▼かつて故郷を離れ都会で働く日々に、この一節を口ずさみ懐かしい山河や家族の面影をしのんだ人もいるでしょう。しかし生母を知らず、養母に虐待され、小学校を退学して12歳で地方裁判所の給仕になった犀星にとって、故郷は優しいものではありませんでした▼つらい環境下、俳句に打ち込み自らを支えていた犀星が、文学を志して郷里金沢から上京したのは20歳の時。生活苦の中で詩作を続け、同時に30歳で自伝的小説「幼年時代」を発表します。それは暗い記憶を引きずり出し表現することで、過去を克服する作業だったのかもしれません▼晩年の詩に、一日の終わり12時の鐘を大きく打つ時計の描写から始まる「けふといふ日」があります。〈けふといふ日、/そんな日があつたか知らと、/どんなにけふが華かな日であつても、/人びとはさう言つてわすれて行く、/けふの去るのを停(と)めることが出来ない、/けふ一日だけでも好(よ)く生きなければならない。〉▼困難を乗り越え老大家となった犀星が伝えたかったことは、全力で今日という日を積み重ねる大切さです。


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