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2019年1月4日(金)

21世紀、世界と東アジアの平和と展望

ベトナム外交学院 志位委員長の講演

 2018年12月19日、日本共産党の志位和夫委員長が、ベトナム・ハノイ市のベトナム外交学院で行った講演と質疑を紹介します。講演会の冒頭、レ・ハイ・ビン外交学院副院長があいさつ。「今日は、日本共産党の志位和夫委員長にお越しいただきました。日本共産党は1922年に創立され、日本政治において重要な役割を果たしています。衆議院、参議院で議席をもち、開かれた外交路線をとっています。ベトナム共産党と日本共産党の交流には長い歴史があります。本格的な交流は1960年代からです。1966年、日本共産党の提唱でベトナム戦争に反対する国際統一戦線がつくられました。ベトナム国民はこれを忘れることはありません」とのべました。続いて志位委員長が講演と質疑を行いました。


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(写真)外交学院の学生を前に講演する志位委員長=2018年12月19日、ハノイ(面川誠撮影)

半世紀以上におよぶ友好と連帯の歴史

 (ベトナム語で)みなさん、こんにちは(拍手)。私は、日本共産党委員長の志位和夫です。(大きな拍手)

 今日はこのような場を設けていただいて、心から感謝します。

 今回のベトナム訪問は、私にとって5年ぶり、3回目の訪問になります。ベトナムの未来を担う若いみなさんの前でお話しできることを楽しみにしてまいりました。

 私は、いま64歳ですが、私たちの世代の日本共産党員にとって、ベトナムとは青春そのものです。私たちが青年の時期に、米国によるベトナム侵略戦争に反対する連帯のたたかいが、日本でも大きく燃え広がりました。私自身もそのたたかいに参加し、みんなで「自由ベトナム行進曲」を歌ったことを、胸を熱くして思い出します。みなさん、この曲をご存じですか。(「知っています」の答え。学生の手拍子とともに「自由ベトナム行進曲」を歌う。大きな拍手)

 日本とベトナム両共産党の本格的な交流は、1966年、抗米救国戦争への連帯のたたかいの中から始まりました。戦時下のハノイで両党の最高指導部が、5日間、のべ30時間にわたる会談を行いました。ホー・チ・ミン主席も会談に出席しました。この歴史的会談で、両党間の深い相互理解が達成され、ベトナム侵略戦争に反対する国際統一戦線をつくることで強固な一致がえられました。

 それ以降、両党は半世紀以上に及ぶ友好と連帯の歴史を持ちます。

 昨日(12月18日)、私は、グエン・フー・チョン書記長・国家主席と会談し、核兵器禁止条約の早期発効、東アジアでの平和構築など、世界とアジアの平和のために両党が協力していくことを確認し、両党関係をさらに新しい高みに引き上げることで合意したことを、大きな喜びをもってみなさんにお伝えしたいと思います。

 今日は「21世紀、世界と東アジアの平和の展望」と題してお話をさせていただきます。21世紀の世界を全体としてどうとらえるか、東アジアにおいてどうやって平和を築いていくかについて、私たちが理論と実践を通じて考えていることをお話ししたいと思います。どうか最後までよろしくお願いします。(拍手)

20世紀の「世界の構造変化」とベトナム革命の世界史的意義

 私たち日本共産党は、2004年の第23回党大会で綱領改定を行いましたが、そこで世界論についてもまとまった見方を打ち出しました。私たちの世界論を一言でいうならば、20世紀に進行した人類史の巨大な変化の分析にたって、21世紀の世界の発展的な展望をとらえる。ここに特徴があります。

 20世紀とはどんな世紀だったでしょうか。この世紀を振り返って「戦争と抑圧の暗い世紀だった」という見方もあります。たしかに、2度にわたる世界大戦をはじめ、一瞬一瞬の出来事だけを見たら、苦難の連続の世紀だったともいえるでしょう。ベトナムのみなさんは、自由と独立を手にしましたが、それに至る過程ではたいへんな犠牲を払いました。しかし、歴史とはダイナミックな歩みをするものです。100年というスケールで見ますと、20世紀は、諸国民の努力と苦闘を通じて、また多大な犠牲を払いながらも、人類史のうえでもかつてない巨大な変化が進行した世紀となりました。

 その最大の変化は何でしょうか。多くの民族を抑圧の鎖のもとにおいた植民地体制が完全に崩壊し、民族自決権が世界公認の原理となり、100を超える国ぐにが新たに政治的独立をかちとって主権国家となった。ここにこそ20世紀の最大の変化があると、私たちは考えています。

 20世紀に、国際政治において「独立国」とみなされた国の数がどのように変わったでしょうか。19世紀の終わり、1899年に、オランダのハーグで「万国平和会議」とよばれた国際会議が開かれています。戦争に関する重要な国際協定を定めた国際会議でしたが、そこに招待された国は、「万国平和会議」といいながら全世界でわずか26カ国でした。そのうち20カ国は欧米諸国が占め、広大なアジア・アフリカ・ラテンアメリカのほとんどは、植民地・従属国として国際政治の枠外におかれていました。これが20世紀初頭の世界の姿だったのです。

 この植民地体制が、20世紀、とくに第2次世界大戦後、音をたてて崩壊しました。今日、国連加盟国は193カ国となっています。つまり、「独立国」として国際的に認められた国の数は、26カ国から193カ国へと、7倍にもなりました。私たちはこれを「世界の構造変化」と呼んでいます。まさに世界の「構造」が根底から変わったというべき巨大な進歩が、20世紀に進行しました。

 そして私が強調したいのは、ベトナム人民の闘争が、「世界の構造変化」を促進するうえで、世界史的貢献をしているということです。第2次世界大戦後の植民地体制の崩壊の序曲となったのは、1945年8月のベトナムの独立革命でした。ここベトナムから始まった植民地支配の崩壊の波が、アジアを覆い、そしてアフリカを覆いました。さらに、フランスとアメリカという二つの帝国主義に打ち勝ったベトナム人民のたたかいが、世界の平和と進歩の促進に果たした役割は、文字通り世界史的意義を持つものだと、私たちは考えています。私たち日本の平和・進歩勢力は、ベトナムの自由と独立をたたかいとったベトナム人民の英雄的なたたかいに、いまも強い信頼と尊敬の気持ちを持っていることを、若いみなさんにお伝えしたいと思います。

「核兵器のない世界」を目指す動きと、そこに現れた21世紀の世界の特徴

 それでは21世紀の今の世界をどうとらえるか。私は、20世紀に進行した「世界の構造変化」が、世界の平和と進歩を促進する力として、生きた力を発揮しだした。ここに今日の世界の特徴があると考えています。

 それが最も鮮やかに現れているのが「核兵器のない世界」を目指す動きです。2017年7月、国連会議で、人類の歴史上初めて、核兵器禁止条約が採択されました。この条約は核兵器の非人道性を厳しく告発し、それを全面的に法的に禁止する内容となりました。核兵器に「悪の烙印(らくいん)」が押されました。人類にとって歴史的な壮挙です。

 私たちは唯一の戦争被爆国――広島・長崎の言語に絶する地獄を体験した国で活動する政党として、この条約の成立を心から喜んでいます。

 私は、2017年の3月と7月に、この国連会議に、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の一員として参加し、公式に発言する機会がありました。そこで私が実感したことを、みなさんにお話ししたいと思います。

 私が、この会議に出席して、一番強く実感したことは、国際政治における「主役」が、一部の大国から、多数の国ぐにの政府と市民社会に交代したということです。

 これまでの核兵器交渉といえば、米国と旧ソ連など核保有大国が「主役」で、その内容は核兵器廃絶ではなく、核戦力を維持し、核兵器を「管理」するというものでした。

 ところが、今回の国連会議では、核兵器禁止が正面からの主題となり、多数の国ぐにと市民社会が「主役」となりました。条約に賛成した国は122カ国と国連加盟国の63%に及びました。それ以外の国からも、広島・長崎の被爆者をはじめ100以上の市民社会代表が参加しました。諸政府と市民社会を合わせれば地球儀を網羅する代表が一堂に会しました。まさに「主役交代」であります。

 そこに現れた世界は、一言でいって、国の大小で序列のない世界です。私たちは、ベトナムとキューバの国連大使と緊密な協力関係をつくることができました。国連会議で、この二つの国が果たした役割は、大きなものがありました。ベトナムは、この条約に「核兵器の使用の威嚇を禁止する」という文言を盛り込むことを主張し、それは盛り込まれることになりました。「核抑止力」論を否定するきわめて重要な条項となりました。

 会議を成功に導いた議長は、エレン・ホワイトさんというコスタリカの素晴らしい女性外交官です。さらにオーストリア、アイルランドなど「小さな国」が大きな役割を果たし、世界の信頼と尊敬を集めていたことが印象的でした。

 一握りの大国が国際政治を牛耳っていた時代は終わりを告げつつあります。今の世界で大事なことは軍事力ではありません。経済力でもありません。国の大小でもありません。小さな国でも、世界の道理に立った行動をしている国は尊敬されます。大きな国でも、世界の道理に背いている国は軽蔑されることになります。大きな国に媚(こ)びへつらっている国は、一番軽蔑されます。

 私は、世界のすべての国ぐに、そして市民社会――すなわち世界の民衆が、対等・平等の資格で世界政治の「主役」となる新しい時代が到来していると考えています。私は、それをニューヨークで目のあたりにして、心躍る気持ちでした。

核兵器禁止条約の署名、批准をすすめ早期発効を

 この問題での目下の最大の課題は、核兵器禁止条約への署名、批准を進め、条約を早期に発効させることです。条約の署名国は現在69カ国、批准は19カ国ですが、ベトナムが10番目の批准国になったことはたいへんに心強いことです。

 今年(2018年)の国連総会では、12月5日、ベトナムが共同提案国となった「核兵器禁止条約」と銘打った決議案が、賛成126カ国で採択されました。核兵器禁止条約への署名や批准をできるだけ早く行うことを求める実効性の高い決議です。注目すべきは、賛成が昨年の国連会議での122カ国より前進したことです。アメリカをはじめとする核保有大国からの激しい圧力や妨害にもかかわらず、禁止条約への支持はほとんど切り崩されておらず、新しい陣地を広げていることは、うれしいことではないでしょうか。

 国連総会で、非同盟諸国が提案した包括的核兵器条約――核兵器の禁止から廃絶までを包括的に規定し、核兵器廃絶の検証措置を定める条約――の「早急な交渉開始」を求めた決議案が、賛成143カ国で採択されたことも重要です。

 この問題で、日本とベトナムの平和運動は連帯を発展させてきました。広島・長崎での原水爆禁止世界大会には、ベトナムの国家元首からの連帯のメッセージが寄せられ、ベトナムの平和委員会が参加し、熱い連帯を寄せていただいています。みなさんもぜひ、8月6日、9日には、広島・長崎へおいでください。私たちは熱烈に歓迎します。(拍手)

 ベトナム平和委員会は、被爆者のみなさんが呼び掛けているヒバクシャ国際署名の取り組みを、数百万を目標に取り組んでいると聞きました。これほど進んだ協力関係は、世界でも他にないものです。日本の運動にとっての大きな激励であり、この場を借りて心から感謝を申し上げたいと思います。(拍手)

 私たちは唯一の戦争被爆国・日本で活動する共産党です。ベトナムは米国による侵略戦争の最中に、何度も核兵器使用の危険にさらされるとともに、枯れ葉剤という残酷な大量破壊兵器による苦しみを、身をもって体験した国です。私は、2007年にベトナムを初めて訪問したさい、ホーチミン市にうかがい、枯れ葉剤の被害にあった子どもたちの治療を行っているツズー病院を訪問しました。枯れ葉剤がベトナムに及ぼした傷痕を胸に深く刻みました。日本とベトナムの両国民、両共産党が、「核兵器のない世界」をめざして、さらに協力関係を発展させることを、願ってやみません。ともに力を合わせて、「核兵器のない世界」に進もうではありませんか。(拍手)

朝鮮半島の非核化と平和への動きと、根本に働いている力

 ここで北東アジアに目を向けていただきたいと思います。

 この間、朝鮮半島では平和の激動ともいうべき情勢の変化が起こりました。南北首脳会談、史上初の米朝首脳会談が行われ、新しい米朝関係の確立、朝鮮半島の非核化と平和体制の構築が確認されました。

 この問題で日本共産党が一貫してとってきた立場は次のようなものです。「北朝鮮の核開発には断固反対するが、破滅をもたらす戦争だけは起こしてはならない。対話による平和的解決が唯一の解決の道だ」。これが私たちの一貫した主張です。この立場に立って、わが党は情勢の節々で関係国への働きかけを行ってきました。そして南北・米朝首脳会談に対して、わが党は「心から歓迎する」と表明しました。

 みなさんはこのプロセスの前途について、どうお考えでしょうか。うまくいかないだろうという否定的・懐疑的な見方もあると思います。たしかに合意を実行するうえでは、さまざまな乗り越えるべき困難があります。しかし、私は、このプロセスが成功をおさめる希望はあると考えています。

 朝鮮半島の非核化に関する過去2回の合意は、どれも実務者レベルの合意でした。しかし今回は、史上初の首脳間の合意です。トランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、世界に対して公約したものです。ですから、それは簡単には逆戻りしない重みをもっていると考えます。

 私が、何より重要だと考えているのは、南北・米朝の首脳会談によって、朝鮮半島の人々、北東アジアの人々、そして全世界の人々が、戦争の脅威、核戦争の脅威から抜け出す扉が開かれたということです。

 私は、今回のベトナム訪問に先立って、先週末(12月13~14日)、日韓・韓日議員連盟合同総会に出席するため韓国・ソウルを訪問しました。多くの韓国の国会議員のみなさんと懇談する機会がありました。韓国の国会議員のみなさんからは、南北・米朝関係の前途については希望と懸念が入り混じる見方が出されましたが、「戦争の危険が遠のき、平和への大転換が起こった」ことへの喜びが、共通して語られたことが印象的でした。ある韓国の国会議員が私にこう言いました。「この時計の針を逆に巻き戻すことは、韓国国民の誰も望んでいない」。昨年、朝鮮半島を覆った一触即発の危機を想起すれば、情勢の前向きの大変動が起こっていることは誰も否定できないことであり、それは万人が歓迎していることではないでしょうか。

 それでは、朝鮮半島の平和の激動をつくりだした根本に働いている力は何でしょうか。たまたまトランプ氏と金正恩氏という異色の個性をもった2人がいたからでしょうか。私はそれだけではないと思います。私は、いま進展している激動の根本に働いている力は、戦争に反対し、平和を願う各国の民衆の力だと考えています。

 今日の平和の流れをつくりだすうえで、韓国の文在寅政権が果たしている役割は大きなものがあります。それでは、なぜ文在寅政権があのような外交的イニシアチブを発揮できたのでしょうか。私は「キャンドル革命」がつくりだした政権というところにその力の源があると思います。みなさんもニュースでご覧になったと思います。キャンドルを持った何百万人もの民衆が韓国全土で立ち上がり、文在寅政権をつくりました。

 それでは、韓国の民衆が「キャンドル革命」に託した願いは何だったのでしょうか。腐敗した政治を変革したいということはあったでしょうが、それだけではありませんでした。私は先日、韓国の李洙勲(イ・スフン)駐日大使と懇談する機会がありました。大使は「キャンドル革命」の意義について、次のように語りました。「『キャンドル革命』の中には平和に対する希望、渇望が深く流れていたのです」。納得のいく言葉でした。朝鮮半島で絶対に戦争だけは起こしてはならない。平和への渇望があの革命を起こしたのです。

 韓国だけではありません。世界各国の戦争に反対し、平和を求める民衆の力がこの変化をつくったと思います。北朝鮮制裁の累次の安保理決議では、すべて「対話による平和的解決」への努力を加盟国に義務付けています。これこそが世界の多数の国ぐにの声です。その意味で、朝鮮半島における平和の激動の根本にも、さきほどお話しした「世界の構造変化」が横たわっていることを強調したいと思います。

 来年(2019年)初めには第2回米朝首脳会談が行われると言われています。この平和のプロセスが成功を収めれば、世界史の一大転換点となると思います。私たちは、このプロセスを成功させるには、朝鮮半島の非核化と平和体制の構築を、一体的かつ段階的に進めることが最も合理的だと考え、こうした立場で前途を開いてほしいと関係国に要請してきました。関係国が、「約束対約束、行動対行動」の原則に立ち、相互不信を解消し、信頼醸成を図りながら、困難を乗り越え、成功を収めることを願ってやみません。そして、この平和のプロセスが成功を収めるよう、全世界が力を合わせることが強く求められていることを、私は強調したいと思います。

「北東アジア平和協力構想」―戦争のない東アジアをつくろう

 その先の展望についてお話ししたいと思います。米朝、南北の関係が、敵対から平和へと進展していけば、次に問題になってくるのは、北東アジア地域の平和体制をどうするか――多国間の安全保障のメカニズムをどう構築するか、ということになるでしょう。

 その具体的な姿として、日本共産党は、2014年の第26回党大会で、「北東アジア平和協力構想」を提唱しています。この構想は、その前の年――2013年に私がベトナムとインドネシアを訪問するなど、ASEAN(東南アジア諸国連合)の取り組みを学び、そこからヒントを得て提唱したものです。

 ASEANでは、TAC(東南アジア友好協力条約)を締結し、あらゆる紛争問題を平和的な話し合いで解決する域内のルールを確立し、それを実践するとともに、域外にも平和協力の輪を広げています。人類の社会から紛争をなくすことはできない。しかし紛争を戦争にしないことは、人類の英知によってできる。これがASEANの精神ではないでしょうか。それはまた、日本国憲法9条の精神でもあります。ASEANの取り組みに学んで、北東アジアにも同じような平和の地域協力の枠組みをつくろう。これが私たちの提唱する「北東アジア平和協力構想」です。いかがでしょうか。(拍手)

 その一番の中核的な考えは、北東アジア規模でのTAC(友好協力条約)を結ぶ――6カ国協議を構成している6カ国でTACを結ぶということです。その土台はすでに存在しています。2005年の「6カ国協議の共同声明」には、朝鮮半島の非核化をはじめ懸案事項を解決したその先には、6カ国協議の枠組みを地域の平和協力の枠組みに発展させるという合意があります。また、東アジア首脳会議(EAS)が2011年に採択した「バリ原則」首脳宣言の内容は、TACとほぼ同じ内容です。つまり政治宣言の形では、EASとしてすでにTACの内容を合意しており、それを条約にすればいい。私は、開始された朝鮮半島の平和のプロセスが成功を収めれば、「北東アジア平和協力構想」の方向が実現する可能性は大いにあると考えています。昨日の会談で、グエン・フー・チョン書記長は、わが党の「北東アジア平和協力構想」について、「支持する」と表明されました。私たちにとってたいへん心強いことです。

 北東アジアで平和と友好の関係を築くためには、過去の日本による侵略戦争と植民地支配への反省が避けて通れません。12月14日、私は、日韓議員連盟の一員として、韓国の大統領府(青瓦台)を訪問し、文在寅大統領と会談しました。いま日韓両国間では、過去の日本による朝鮮半島の植民地支配と結びついた強制労働が大きな問題となっています。その解決の道を話し合い、文大統領との間で前向きの一致点が確認できました。この地域に心通う友好の関係を築くためには、日本の過去の過ちによる被害者の名誉と尊厳を回復するための誠実な取り組みを行うことが不可欠です。

 日本共産党は、1922年の党創立から日本の敗戦の1945年までの時期――天皇制の専制政治が日本を覆っていた暗い時代に、日本軍国主義による侵略戦争と植民地支配に命がけで反対を貫いて不屈にたたかった政党です。ベトナムでも日本軍によって200万の人民が餓死するという痛ましいことが起こりました。私は、歴史問題に誠実な態度を取ることが、日本とアジア各国の本当の友情をつくる道だと確信しています。

 北東アジアに地域の平和協力の枠組みがつくられれば、ASEANの取り組みと合わせて、東アジア全体を戦争の心配のない平和な地域にしていくことができます。戦争の心配のない東アジアをつくろう。この点で力を合わせようではありませんか。(拍手)

ASEANが、「自主独立」「団結・統一」を堅持して進むことを強く願う

 ASEANについて言及しましたが、「世界の構造変化」が21世紀の世界につくりだした希望ある変化は、世界各地で軍事同盟に代わって、外部に仮想敵をもうけず、紛争の平和的解決に徹する平和の地域共同体がつくられていることにあります。

 最後に、ASEANの前途についての私たちの認識を述べたいと思います。

 私は、世界で最も進んだ、また成功した地域の平和協力の枠組みが、ASEANだと考えています。ASEANの生命力は、あらゆる紛争を平和的に解決する立場を堅持するとともに、ASEANの中心性――大国の介入を許さず、一方の側につかず、自主独立を貫いてきたことにあると思います。

 この地域には南シナ海問題など困難な課題が存在し、大国が関与を増大させ、加盟10カ国に分断をもたらす動きもあります。しかし、ASEANは困難な課題に対して、忍耐を発揮して、団結を守り、状況を切り開いています。

 2016年7月、常設仲裁裁判所は南シナ海水域に対する中国の独自の権利主張を、国際法上「根拠がない」と退け、紛争の平和的解決を促す裁定を下しました。この裁定を受け、16年9月、ASEAN首脳会議は、「国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法の普遍的に認められた原則に従い、武力の行使と威嚇に訴えることのない、法的・外交的プロセスの全面尊重を含む紛争の平和的解決への共通の誓約」を確認しました。この原則は2018年11月、シンガポールでのASEAN首脳会議でも再確認されました。わが党は、ASEANのこの声明を強く支持し、この方向で事態が打開されることを願っています。

 昨日、私は、グエン・フー・チョン書記長との会談で、書記長が2017年8月のインドネシアでの講演で、「ASEANが重要な役割を維持するための最大の教訓は、『自主独立』と『団結・統一』の堅持である」と語ったことを、印象深く読んだと話しました。ベトナムの同志は、ホー・チ・ミン主席の次の言葉を語りました。「団結、団結、大団結。成功、成功、大成功」。(拍手)

 ASEANが困難を乗り越え、「自主独立」と「団結・統一」を堅持し、平和の地域共同体として発展すること、そうした発展をかちとるうえでベトナムがさらに大きな役割を果たすことを願ってやみません。

 「核兵器のない世界」、戦争のない東アジアの実現に向けて、日本とベトナムの両国国民、日本共産党とベトナム共産党との平和の連帯がさらに発展することを心から願い、結びとしたいと思います。

 (ベトナム語で)未来は若者のものです。ありがとうございました。(大きな拍手)

質疑応答

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(写真)志位委員長に質問する外交学院の学生=2018年12月19日、ハノイ(面川誠撮影)

 ビン副院長 志位和夫委員長の世界と地域の諸問題に関する貴重な講演を聞かせていただきました。東南アジアとASEANに関する日本共産党の立場についても、お話を聞かせていただきました。そして、日本共産党とベトナム共産党の歴史的な関係についても言及していただきました。

 それでは質疑応答に移りたいと思います。志位同志は青年・学生の気持ちもよく分かる方なので、難しい質問でも構いません。

社会主義革命の展望は―すべての人間の自由で全面的な発展を保障する社会を目指す

 質問 日本における社会主義革命の展望について教えてください。

 志位 私たちは、日本でまず取り組むべき変革は、第一に、アメリカに対する従属をなくし、対等・平等・友好の日米関係をつくる。第二に、財界や大企業の横暴を抑え、国民の暮らしを守るルールある経済社会をつくる。この二つの変革を行う民主主義革命が当面の課題だと考えています。

 その先に国民多数の合意で社会主義への変革に進むことを考えています。私たちが目指す社会主義・共産主義の社会――未来社会のいちばんの目標は、すべての人間の自由で全面的な発展を保障するというところにあります。そのいちばんのカギは、労働時間をうんと短くすることです。搾取する人がいなくなれば、みんなが働くようになりますね。そうなれば、労働時間はぐんと短くなります。そして、繰り返しの恐慌をはじめ、資本主義につきもののいろいろな浪費をなくせば、もっと短くなるでしょう。生産手段を社会全体のものにすること――生産手段の社会化は、そうした社会に進む手段です。

 私たちの先輩であるマルクスは、労働時間の短縮のなかに未来社会のいちばんの魅力を見いだしました。私は、日本のような発達した資本主義国で社会主義に進めば、労働時間が1日3時間や4時間ですむような社会になることも可能だと考えています。

 みなさんは労働時間がうんと短くなったら、自由な時間を何に使いますか。自由な時間ですから、何に使ってもいいんです。遊びに使ってもいい。恋愛に使うことはもちろんいい。しかし、自由な時間がたくさんあれば、自分の中に眠っている能力を発展させる、能力を高めることをみんながやるようになるでしょう。

 人間一人ひとりは、みんな素晴らしい潜在的な力、可能性を持っています。ある人は科学者の才能があるかもしれない。ある人は芸術家の才能があるかもしれない。ある人はアスリートの才能があるかもしれない。みんな素晴らしい潜在的な可能性を持っています。

 しかし資本主義の下では、それが埋もれたままになってしまって、発揮されないまま生涯を閉じるという場合が多いのです。マルクスの未来社会論は、労働時間を抜本的に短縮することで、すべての人間が自分の中に眠っている能力を存分に自由に発展させる。そのことによって社会全体が素晴らしい発展をとげる。それがさらに労働時間を短縮することにつながる。これを未来社会論のいちばんの特質にしました。

 ベトナムでは市場経済を通じて社会主義に進むというドイモイ(刷新)の道を歩んでいます。私たちは、これは合理的な道だと考えています。日本でも、わが党は、市場経済を通じて社会主義に進むという方針をとることを綱領に書いています。そうしてつくられた未来社会のいちばんの特質は、すべての人間の自由で全面的な発展です。ベトナムがそういう方向に進むことを願っています。日本も負けないようにがんばります。(拍手)

日本の労働者階級の生活改善の政策は―長時間労働、「使い捨て」労働を是正する

 質問 日本の労働者階級の生活改善について、日本共産党はどのような政策を持っていますか。

 志位 日本は発達した資本主義国です。みなさんの日本に対するイメージはどうでしょうか。明るいイメージですか。(学生が次々と「明るい」と答える)

 明るいところも、もちろんあります。ただ、さまざまな異常な問題もあります。日本の労働者階級の最大の問題は長時間労働です。月に80時間を超える残業を強いられ、体を壊して亡くなる「過労死」という問題が社会の一大問題になって、なかなか解決しません。日本の労働者の年間労働時間はおよそ2000時間です。ドイツ・フランスはおよそ1500時間で、ドイツ・フランスに比べて500時間も長い。私たちは法的規制によって、残業時間の上限を定め、「過労死」をなくし、長時間労働を是正するという取り組みに力を入れています。

 それから日本では、正社員から非正規社員への移し替えが大規模にやられています。若者の2人に1人は、派遣社員とか契約社員など、いつでも首切りができる「使い捨て」の非正規雇用で苦しんでいます。この問題点をただし、正社員が当たり前の社会をつくるために、私たちは力をつくしています。

 それに加えて、いま日本で問題になっていることをお伝えしたいと思います。ベトナムから技能実習生として日本に来られた若い方々の労働条件がひどく悪いという問題です。希望に燃えて日本に来られた若いみなさんが、失望や絶望したりするのは、あってはならないことです。これは日本の政党の責任として、ベトナムから日本に働きに来られる若い方々の権利を守るために力をつくすことをお約束したいと思います。マルクスが言ったように、「万国の労働者よ 団結せよ」の精神でがんばりたいと思います。(拍手)

日本の軍事力強化をどう考える―「海外で戦争をする国」にしてはならない

 質問 最近、日米同盟関係の強化をはじめ日本は軍事力を強化していると思いますが、日本共産党はどのように考えていますか。

 志位 たいへん大事な質問です。私たちは、今の政権が行っている軍事同盟・軍事力強化の方針に断固反対です。とりわけ2015年につくられた安保法制――私たちは戦争法と呼んでいます――に強く反対してきました。これは日本が集団的自衛権行使に踏み切るというたいへん重大な政策の大転換です。私たちはこれに強く反対し、市民運動のみなさんとともに、戦争する国づくりに反対する統一戦線をつくっています。

 いま焦点になっているのは、日本の憲法9条を変えていいのかという問題です。日本の自衛隊は、第2次世界大戦後、一人の外国人も殺していませんし、一人の戦死者も出していません。それは「戦争をしない」「軍隊を持たない」と決めた憲法9条があったからです。憲法9条のおかげで、日本はそういう歴史をつくってきたのです。この条文があったから、米国によるベトナム侵略戦争のさいにも、日本は米軍がベトナムに出撃する前線基地にはされましたが、日本の自衛隊がベトナムにいって戦争に参加することはできませんでした。

 みなさんは、日本がこの憲法9条を変えて、「海外で戦争をする国」になることを望みますか。(多くの学生が首を横に振る)

 私たちは決してそういう道を選んではならないと考えます。日本共産党は96年の歴史で反戦平和をずっと貫いてきました。そういう立場で今後もがんばることをここでお約束したいと思います。(拍手)

ベトナム人労働者の権利―劣悪な実態をただすしっかりしたルールをつくりたい

 質問 日本に住むベトナム人労働者の権利を守るために、日本共産党はどのような政策を持っていますか。

 志位 日本で働く少なくないベトナム人労働者の権利が、侵害されているという実態があります。とくに技能実習生という制度は大きな問題があります。最近の国会でも大問題になりました。技能実習生のなかで苦しい労働に耐えかねて失踪する方が後を絶ちません。年間で7000人もの方が失踪しています。

 この失踪した方の状況を、私たち野党がくわしく調べてみますと、なんと67%の方が最低賃金以下の低賃金で働かされていたことがわかりました。絶対にあってはならないことです。私たちは、技能実習制度については、廃止も含めて、抜本的に見直していくことを求めます。またすべての労働者を守るためのしっかりした規制――ルールをつくっていくことを求めます。その大原則はベトナムから来て働いている方も、日本の労働者も、同じ条件で働ける状態をつくることです。

 劣悪な実態をつくりだしている責任は日本側にあります。私たちは日本の政党の責任として、この現状を改善するためにがんばりたいと思います。ベトナムの若い方が日本に来て、さまざまな知識や技能を身につけて、国に帰って「良かったな」と思えるような、身につけた知識や技能がみなさんの国の発展に生かせるような、そういう受け入れをやらなければいけません。

 昨日、グエン・フー・チョン書記長とも、この問題について協力して現状を改善していこうということを話し合いました。私は、日本の政党として、責任をもってこの問題に取り組むことをお約束したいと思います。(拍手)

学生へのアドバイスを――若いときに古典を読んでほしい

 ビン副院長 志位和夫委員長、日本共産党の同志のみなさま。本日、地域と世界の平和について日本共産党の立場をお聞かせいただきました。地域と世界の平和についての深い知識だけでなく、ベトナム共産党と日本共産党の共同の立場についても実感することができました。

 志位委員長の「自由ベトナム行進曲」を聞くことができて、深い感銘を受けました。それでは、感謝の意を込めてみんなで歌いましょう。(全員で合唱、大きな拍手)

 最後に、学生に対するアドバイスをひとことお願いします。日本共産党委員長としてだけでなく、(大学の)元青年同盟の責任者としてのアドバイスをお願いします。

 志位 それでは、一つだけ、みなさんにこの場で述べたいことがあります。みなさんは、将来、外交官として活躍される方が多いと聞きました。ほかの分野で、さまざまなリーダーとして活躍される方も多いでしょう。私がみなさんにアドバイスの言葉として一つおくるとすれば、若いときに古典を読んでほしいということです。私たちは、とくに、マルクス、エンゲルスの古典の学習を重視しています。

 みなさんの中でマルクスの『資本論』を読んだ方、手をあげていただけますか。たくさんいますね。マルクスの『資本論』は、私も何度も読みましたし、草稿も読みました。そこにはくめどもくみつくせない人類の知的な達成があります。いま読んでも本当にみずみずしい力があります。ただ、ああいう厚い本を読むのは若いときにかぎります。ぜひ挑戦してください。理論を深いところからつかむことは、みなさんの生涯を豊かにすると思います。(大きな拍手)

 ビン副院長 ありがとうございます。志位和夫委員長、代表団のみなさまに感謝の拍手を送りましょう。(大きな拍手)


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