しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年1月1日(火)

日曜版新年合併号 新春特別インタビュー 安倍政権どう倒す

志位さんに早野さん直撃

統一地方選・参院選 「本気の共闘」と共産党躍進で

 2019年は統一地方選、参院選の年です。政治コラムニストで元朝日新聞編集委員の早野透さんが昨年を振り返りながら、安倍政治をどうみるのか、「本気の共闘」とは何か、さらには資本主義のあり方まで日本共産党の志位和夫委員長にズバリ聞きました。新春特別インタビューです。

写真

(写真)志位和夫委員長・早野透さん(政治コラムニスト・元朝日新聞編集委員)

撮影・野間あきら記者

 早野 あけましておめでとうございます。

 志位 おめでとうございます。

 早野 昨年、何と言ってもすばらしかったのは、沖縄の知事選です。翁長雄志前知事が亡くなり、そのあとを継いで「辺野古米軍新基地反対」の玉城デニーさんが知事になった。これは志位さんの胸にどう刻まれていますか。うれしかったでしょう。

 志位 うれしかったですね。昨年の「党旗開き」で「今年は絶対に負けられないたたかいが二つある」と訴えました。一つは、沖縄県知事選で必ず勝利を勝ち取ること。もう一つは、安倍政権による憲法9条改定を許さないことです。

 知事選は8万票差をつけ、知事選史上最多得票で圧勝しました。明確な対立軸を示し、立場の違いを超えて心一つに結束すれば、安倍政権がどんな強権をふるって襲いかかってきてもはね返せるということを証明しました。

 憲法をめぐるたたかいでも、昨年の臨時国会で、自民党改憲案を提案するという安倍(晋三)首相の狙いを許しませんでした。

 早野 臨時国会閉会後の記者会見で、安倍さんは、悔しそうでしたね。(笑)

 志位 そうでしたね(笑)。改憲案の提案を許さなかったのは、安倍9条改憲反対の3000万人署名運動などの世論の高まりと、国会で野党がしっかり共闘したからです。

 2017年の総選挙で、改憲を公言する共闘破壊の逆流が突然出てきました。それに対して、共産党は“共闘の旗”を断固として掲げ、候補者を降ろして共闘を実現するという対応もやりました。選挙の結果、共闘勢力が議席を増やしました。いまふりかえると、あの対応がなかったならば国会は真っ暗闇になり、9条改憲が通されていた危険もあったと思います。

 早野 国会のなかに、その共闘が生きていると。突き詰めていえば、それが安倍さんの改憲阻止につながっているということなんですね。

 志位 そうです。昨年は「二つのたたかい」で勝利しました。今年の政治対決は、安倍9条改憲の是非、消費税10%増税の是非を軸に展開すると思います。そして今年は統一地方選と参院選があります。「本気の共闘」と日本共産党の躍進で、破綻した安倍政権を一日も早く終わらせたい。全国が沖縄のようにたたかおうと呼びかけたいですね。

沖縄勝利なのに土砂投入なぜ 早野

追い込まれているのは政府 亀井静香さんも米軍基地は不要 志位

写真

(写真)沖縄県知事選で当確が決まりカチャーシーを支援者とともに踊るデニー氏=2018年9月30日、那覇市

 早野 昨年の沖縄県知事選で玉城デニー知事が登場したにもかかわらず、辺野古では土砂投入が行われました。選挙で勝ったのに、なぜこうなるのでしょうか。沖縄に心を寄せる本土の人たちもみんなそう思っています。

 志位 絶対に許せない。安倍政権は“強権をふるえば諦めるだろう”と土砂投入を始めましたが、沖縄県民の怒りはますます燃え広がるに違いありません。実は展望がないのは政府の方なんですよ。

 辺野古米軍新基地の計画は、辺野古崎という岬の南側と北側の両方を埋め立てる巨大基地の計画です。

 強権的に埋め立てを開始しても、せいぜい埋め立てられるのは南側の浅瀬の部分だけ。問題は大浦湾側の深場の部分です。ここが超軟弱地盤だということが明らかになりました。マヨネーズのような状態で(笑)、40メートルぐらい堆積物が積み重なっている。護岸の土台になるケーソンと呼ばれるコンクリート製の巨大な箱を落としたら、ずぶずぶと沈み、傾いてしまいます。(笑)

地図:辺野古

 早野 マヨネーズを固めるのはちょっと難しいですなあ。(笑)

 志位 大規模な地盤改良工事が必要で、それをやるためには知事から設計変更の承認を得る必要があります。デニー知事が承認しなかったら、埋め立て自体ができない。追い詰められているのは、政府の方なんですよ。

 早野 なるほど。あんな美しい場所を埋め立てること自体が人間のおごりです。だから天が、地盤を軟弱なマヨネーズ状にして(笑)、「おまえたちそんなことをやっていいのか」と怒っている。自然と人間の共生を「軍事」がかき乱すべきじゃないんです。

 志位 大浦湾の「美(ちゅ)ら海」が怒っている(笑)。同時に、米軍普天間基地(宜野湾市)をどうするかは緊急課題です。

 私は昨年、米軍ヘリの部品が落下した普天間第二小学校や緑ケ丘保育園を訪問しました。いまだに米軍ヘリが上空を飛び、子どもたちが授業中に避難する異常なことが起こっています。普天間基地は一刻も早く撤去するしかありません。その際、無条件の撤去を迫るたたかいが大事です。

 政府も「撤去する」といいますが、それは移設条件付きです。この土俵に乗ると、“移設先が見つかるまで基地は置いておく”ということになります。

 亡くなった翁長前知事はよく“あの土地にはもともと住宅も学校も役場もあった。それを米軍が無法に強奪した。土地を返してもらうことについて沖縄から対案を示す必要はない”と言っていました。

写真

 早野 まったくその通り。軍事基地は根本的に不必要だという歴史的な状況に、早くもっていきたいですなあ。

安保廃棄でも

 志位 最近、自民党政調会長も務めた亀井静香さんと『月刊日本』(18年12月号)という雑誌で対談しました。普天間基地は返すのが当たり前だという話をしたら、亀井さんはこう言いました。「普天間だけじゃなく、横田基地や岩国基地も問題です。あれはアメリカのためにあるのであって、日本のためにあるのではない。…そんな基地は引き上げてもらわなきゃならない…米軍基地が引き上げたって、日本は痛くも痒(かゆ)くもない」

 そのあと亀井さんが何と言われるかと思ったら、「日米安保(条約)だっていらない」と発言された。「冷戦時代は終わっているんだから。いまはどの国とも仲良くしようという時代になっているのだから、軍事同盟は有害なだけだ」と。保守の重鎮が私に面と向かって“安保条約廃棄”をズバリ言う。

 早野 亀井さんは冗談めかして言うけど、わりと本質的で簡明な思想を持っているからね。

 志位 保守の方でも、日米安保条約の“売国的”な実態をそんなふうにみているんだな、と新鮮な驚きでした。

 早野 保守の真髄はそういう思想であっておかしくないはずなんですよね。

「本気の共闘」の「本気」とは 早野

“お互いさまの精神”が一番力でる 志位

 早野 沖縄県知事選で玉城知事を応援したのは5野党1会派でした。今年は統一地方選、参院選があります。県知事選の構図が次のステップになっていくのでしょうか。

 志位 今年の参院選は、13年の参院選で当選した人たちの改選です。13年の参院選は“自民圧勝”だった選挙で、全国で32ある1人区に自民党現職が31人もいるんです。今年の参院選1人区で沖縄のような「本気の共闘」が実現すれば、大変動を起こすことができる。そうなれば、そのうねりは複数区や比例区にも波及するでしょう。非改選議席を含めた参院全体で「自公とその補完勢力」を少数に追い込み、与野党逆転をかちとる。そのぐらいの構えで野党はたたかう必要があるんじゃないですか。

 早野 志位さんは盛んに「本気の共闘」といっています。これまでも「本気」だったと思うんだけれども、それをもう一つ乗り越えていく「本気」というのはどういうことなのでしょうか。

共通政策の旗

 志位 私たちは、「本気の共闘」にするうえで3点が大切だと言っています。

 一つは、豊かで魅力ある共通公約をつくることです。「安保法制廃止と立憲主義回復」「安倍政権のもとでの9条改憲を許さない」「10月からの消費税10%増税に反対する」「アベノミクスによる格差と貧困をただす」「強権的な沖縄の辺野古新基地建設は認めない」「原発ゼロの社会をめざす」―こうした政策はかなり野党間で一致してきている。みんなで議論すれば、共通公約の旗を立てることができます。

 二つ目は、お互いに譲り合い、相互推薦・相互支援の共闘を行うことです。16年の参院選、17年の総選挙では、共産党が一方的に候補者を降ろすという対応を行って共闘が実現しました。しかし本来、選挙というのは相互に支援しあってこそ一番力がでます。選挙の共闘は“お互いさまの精神”でやる。これは相手の政党にも考えてほしい点です。

 三つ目は、政権の問題での前向きの合意です。野党は安倍政権打倒で一致していますが、倒した後にどうするのか、国民は政権構想を知りたいと思うんです。

 早野 当然そうでしょうね。それが見えてこないと「投票しよう」という行動にはつながってこない。

 志位 私たちは、先ほどお話ししたいくつかの緊急の課題を実行する「野党連合政権」をつくろうと呼びかけています。不一致点はお互いに持ち込まず、一致する大義のもとに政権を構成する。政権をつくってこそ政治を本格的に変えることができるわけですから、野党は答えを持っておく必要があります。

 この3点で野党が合意できたら、強力な共闘になると思います。国民も「一票入れに行ってみようか」と動きだしますよ。それに向けて、最大限努力していきたい。

 早野 なるほど。政治をずっとみてきていますが、政党間の共闘というのはなかなか大変なことです。でも早く、野党がそういう間柄になってほしいなあ。

うんざりの安倍政権どうみる 早野

うそと隠ぺい 根っこに戦争法強行慣らされたり、無関心が一番危ない 志位

写真:志位委員長

 早野 安倍政権は思いのほか強大です。しかし国民の中には「もううんざりだ」という気持ちもあります。志位さんは安倍政治の本質をどうみていますか。

 志位 うそと隠ぺいの政治です。私は、その根っこにあるのは、集団的自衛権の行使容認の閣議決定(14年)と、それを具体化した安保法制=戦争法(15年)の強行だと思います。

 安倍政権は戦後60年余り続けてきた“憲法9条のもとでは集団的自衛権の行使はできない”という歴代政権の憲法解釈を、一夜にして百八十度変えてしまった。憲法解釈の改ざんという最悪の改ざんをやったのです。

 そうなると、安倍政権にとって「森友」公文書の改ざんぐらいはお茶の子さいさいとなった。私は今の日本の政治のモラルハザード(倫理観の喪失)の大きな契機になったのが、立憲主義を破壊した安保法制=戦争法の強行だったと思っています。

 早野 なるほど、そこに根っこがあるのか。政治の根本の精神が崩れたというわけですな。

 志位 そうです。そういう意味でも、安保法制を廃止し立憲主義と民主主義を回復することは日本の政治を立て直すうえで、緊急の根本課題だと思います。

 昨年12月、米下院司法委員会で米連邦捜査局(FBI)前長官のジェームズ・コミー氏が「大統領のウソや司法への攻撃に無感覚になってはいけない」と発言しました。コミー氏は、米大統領選(16年)にロシアが関与した疑惑の捜査中にトランプ大統領から解任された人物です。

 彼はこう言っています。「大統領がウソをついたり、法の支配を攻撃したりしていることに対し、全ての人々の感覚が一定程度、まひしてきている。あるべきことではない」「無関心でいるのではなく、皆が声を上げていかなければならない。黙っていれば、それを恥じる時がやってくるだろう」(18年12月9日、朝日新聞デジタル版)

 これは日本の政治にとっても大事な警鐘だと思います。

 早野 そうですね。心にとめなくちゃいけないな。

 志位 安倍首相はうそを言い続け、麻生(太郎副総理)さんも年中、暴言を吐いています。

 早野 なんか慣れちゃった。(笑)

 志位 それが危ない(笑)。うそをつき、暴言を吐く。それを批判しても、またやる。そのうち「ああ、またか」と慣らされる。ここに陥ってはいけない。

 ナチスのヒトラーが権力を握り独裁になっていくとき、批判した人々、嫌悪した人々もいたが、総じてドイツ国民は無関心だったという指摘があります。迫害されたユダヤ人は人口の1%ぐらいでしたから、多くの国民は「自分には関係ない」と無関心でいた。そのうち独裁が進み、あっという間に自分も巻き込まれていったという歴史の教訓があります。

 “無関心になってはいけない”というコミー氏の警告は大事です。国民を無関心にさせようとする安倍政権の思惑にはまっちゃいけない。真実を語り続け、声を上げ続けていくことが大事だと思います。

南北、米朝 平和の胎動に遅れる日本 早野

その通り、9条生かした平和協力構想提唱 志位

 早野 安倍さんは「戦争」というものを頭に置いて、それを中心に国家をつくっていくという姿勢が感じられます。しかし、いま朝鮮半島は対決から対話に向かっています。南北首脳会談が3回あり、あのトランプ米大統領も初の米朝首脳会談にのぞんだ。日本は世界の時勢に遅れているのではないか。一人で力んでいるうちに、世界の平和への胎動が、日本を通り越していくのではないかと心配するんですけど、志位さん、どうでしょうか。

 志位 本当にその通りだと思います。

 これまで安倍首相が、安保法制、憲法9条改定、辺野古新基地建設などを進める最大の口実にしてきたのは“北朝鮮の脅威”でした。ところが状況が変わったわけです。米朝首脳会談では、新しい米朝関係、朝鮮半島の非核化と平和体制の構築が確認された。歴史的な出来事です。

 昨年12月13日~14日に、日韓・韓日議員連盟合同総会に出席するため韓国を訪問し、韓国の国会議員と交流する機会がありました。南北・米朝関係の前途については希望と懸念が入り混じる見方が聞かれましたが、「戦争の危険が遠のき平和への大転換が起こった」ことについては喜びが共通して語られたことが印象的でした。

 前途には困難もたくさんあるでしょうが、首脳間で非核化と平和体制の構築で合意したのは初めてであり、全世界にそのことを公約したのですから、困難をのりこえて進んでほしい。これが成功すれば世界史的な大転換になる。その時に、安倍首相は何をやっているんだってことになりますね。

 早野 そうですね。あのトランプさんに先を越されちゃうんだからなあ。(笑)

 志位 本当にそうですよ(笑)。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、素晴らしい外交的イニシアチブ(主導権)を発揮していると思います。

ろうそく革命

 早野 文大統領は「キャンドル革命」で誕生し、民衆の支えの中で動いている。それが朝鮮半島情勢の大きな変化につながっていると考えると、日本のわれわれ民衆もボヤボヤしていていいのかという反省もあります。

 志位 いまおっしゃった“民衆の力が背景にある”という点はまさにそのとおりです。昨年、駐日韓国大使の李洙勲(イ・スフン)さんと懇談したとき、李大使は私にこう言いました。「『キャンドル革命』のなかには平和に対する希望、平和への渇望が深く流れていたのです」

 韓国では2代続いた保守政権のもと北朝鮮との緊張が高まり、核開発がどんどん進んだ。これではいけない。主導的に平和をつくっていこうという思いが、「キャンドル革命」にはあったとおっしゃっていました。

 日本も「南北と米朝が頑張ってくれ」と傍観しているのではなく、「朝鮮半島の非核化と平和の流れを成功させ、北東アジア地域を戦争の心配のない平和な地域にしよう」という運動をどんどん起こしていく必要があると思います。

 早野 そういう意味で言えば、やはり憲法9条の大切さを感じます。

 志位 私たちは憲法9条を生かした「北東アジア平和協力構想」を提唱しています。

 簡単にいいますと、東南アジア諸国連合(ASEAN)が取り組んでいる「平和の地域共同体」=あらゆる紛争を平和的な話し合いで解決する枠組みを、北東アジアにも広げようという構想です。

 「構想」を関係各国に説明すると、多くの賛同の声が返ってきます。国会で安倍首相に提案したこともあります。実際にASEANが取り組んでいることですから、さすがに「反対だ」とは言えませんでした。

 早野 なるほど、憲法9条を現実の国際政治にどう生かしていくのか。理想論ではなく、ASEANの先例もある。憲法9条をもつ日本ならやれるはずです。

 志位 朝鮮半島が対決から対話へと大きく動くもとで、「構想」は現実性を帯びてきたと思います。

安倍さんの改憲に不安広がる 早野

戦争止めてきた9条立ち枯れに 手を緩めず政権ごと葬りたい 志位

写真

(写真)憲法9条守れと、プラカードでアピールする5・3憲法集会参加者=2018年5月3日、東京都江東区

 早野 安倍さんの頭の中にいま一番あるのは改憲ですな。9条に「自衛隊」を書き込むと言っていますが、そうなると自衛隊はどうなるのか。不安が広がるばかりなんですがね。

 志位 安倍さんは、憲法に「自衛隊」と書くだけで、何も変わらないという。しかし、どうしても変わってしまうんですよ。

 今の憲法にはもちろん自衛隊の記述は一切ない。一方、9条2項で戦力の保持が禁止されています。すると9条2項との関係で、なぜ自衛隊が合憲かの「説明責任」が政府に出てきます。

 政府は、自衛隊は違憲の戦力にはあたらず、日本を守るための「最小限度の実力組織」だと説明してきた。そこから▽武力行使のための海外派兵はできない▽集団的自衛権は行使できない▽武力行使を任務とする国連軍には参加できない―と説明してこざるをえませんでした。

 早野 そういうことですよね。


 志位 安倍政権は、憲法解釈を変え、安保法制を強行成立させ、集団的自衛権の一部を行使可能にしました。それでも武力行使を目的にした海外派兵―たとえばアフガニスタン戦争に戦闘部隊を派兵するようなことはできないというのが建前なんです。

 早野 さすがにできない。

 志位 9条は生きている。生きて戦争を食い止めているんです。

 ここに自衛隊を書いてしまうと、さきほど言ったような説明を政府がやる必要がなくなります。「説明責任」から「解放」されることになる。そうすると何でもできるようになってしまう。

 法律の世界では「後法優越の原則」といい、前法と後法とで矛盾することが規定されていれば、後からつくられた法を優先する、といわれます。

 早野 自衛隊を設置するという、後でつくられた条項の方が優先すると。

 志位 (戦力不保持をうたった)9条2項が残っても、立ち枯れになって、空文化=死文化してしまいます。

 早野 立ち枯れですか。

 志位 しかも自民党大会に出された素案というのは、9条の1項、2項に加え「前条の規定は……自衛の措置をとることを妨げず」として「自衛隊を保持する」と明記するものとなっています。

 早野 そうなると2項の制約が自衛隊に及ばなくなる。

 志位 そうです。自衛隊の海外での武力行使が自由勝手にできるようになります。自衛隊を単に書くだけではない。9条の全面破壊なのです。

 早野 昨年の臨時国会が終わって安倍さんは、憲法審査会に自民党憲法改正案の提案ができなかった、とやや呆然(ぼうぜん)とした顔で言っていました。その姿を見て、「安倍さんも国民の気持ちが肌でしみじみわかれば来年もできないな」と。甘いけれどそんな希望も抱いたんですが、だめですか。

 志位 「国民の気持ちが肌でしみじみわかる」ようなお人ではない。(笑)

 憲法審査会に提案できなかったのは、安倍首相の手法があまりに常軌を逸していたからだと思うんです。自衛隊の幹部の前で、首相として、改憲の号令をかけました。憲法99条の憲法尊重・擁護義務違反です。臨時国会の所信表明演説で“憲法審査会に各党が改憲案を出していくことが国会議員の責任だ”と号令をかけました。行政府の長が立法府の審議に介入・干渉するのは三権分立違反です。こういうやり方に批判が広がった。

 首相は改憲に向け、下村(博文)氏を自民党憲法改正推進本部長に据えるなど側近の「改憲タカ派」を要所、要所に据えました。

 早野 野党が憲法審査会の開催を拒否していると、下村さんは「職場放棄だ」と言っていましたね。

 志位 それが強い批判を招いた。新藤義孝氏を衆院憲法審の筆頭理事に据え、官邸の指示で、憲法審を、与野党の合意のないまま一方的に開催したことも強い批判を招きました。結局、こういうことがすべて裏目に出て失敗した。それでも安倍首相は決して野望を捨てていません。

 早野 やっぱりあきらめてないか。

 志位 安倍首相には「戦後初めて改憲を実現した総理になりたい」という個人的な野望もあるでしょう。より本質的に言えば、安保法制をつくってみたが、これだけでは「戦争する国」は完成しない。本当の「戦争する国」をつくりたい。これが改憲への暴走の根本にあると思います。

 ここで絶対に手を緩めるわけにはいきません。今年を、この策動を安倍政権もろとも葬り去る年にしていきたいですね。

2島返還で日ロ平和条約と言うが 早野

ロシアに全面屈服 非常に危険 志位

地図:北方領土問題

 早野 日ロ領土問題では、歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島を返してもらって平和条約を結ぶということが出ていますね。

 志位 昨年11月の日ロ首脳会談後、安倍首相は、「日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速させることで一致した」と言いだしました。私は、これは非常に危ないと思います。

 1956年の日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を引き渡すと書いてあります。2島の返還だけで平和条約を結んでしまうのではないか。これが私の強い危惧です。平和条約を結ぶと、どんな留保条件をつけようとも、事実上の国境線画定になります。その先の領土要求はできなくなります。

 早野 択捉(えとろふ)、国後(くなしり)は返ってこない。

 志位 交渉の対象にならなくなる。日ソ共同宣言のときも、当時の自民党政府は平和条約を結びませんでした。もし2島で平和条約を結ぶという方針に舵(かじ)を切りかえたら、自民党は自らの立場を自己否定し、ロシア側に全面屈服することになります。

 早野 「2島先行」はまずいと。

 志位 そうではありません。

 歯舞群島と色丹島は北海道の一部ですから、「2島先行返還」はありうることです。ただその場合は、中間的な友好条約と結びつけて処理すべきです。平和条約は領土問題が最終的な解決に至った段階で結ぶ。この原則を絶対に堅持すべきです。

領土問題 共産党の真剣さ知った 早野

愛国者の党 60年前からソ連と交渉 志位

 早野 国後、択捉はどうするんですか。

 志位 日ロ領土問題の根本にメスを入れる交渉がどうしても必要です。45年のヤルタ会談でソ連のスターリンは、対日参戦の条件として樺太南部の「返還」、「千島列島の引き渡し」などを要求しました。米英側が認め、ヤルタ協定に書き込まれました。これを「根拠」にスターリンは千島列島を占領した。ついでに北海道の一部である歯舞群島と色丹島まで占領してしまった。そしてヤルタ協定に拘束されて、日本政府は、サンフランシスコ平和条約で、千島列島を放棄してしまいました。

 早野 サンフランシスコ平和条約は1951年ですね。

 志位 第2次世界大戦のさい、連合国は、「領土不拡大」―戦勝国も領土を拡大しないことを、戦後処理の原則とすることを、くりかえし宣言しています。

 日ロ両国政府間の平和的な領土交渉の到達点は、1875年の樺太・千島交換条約にあります。この時に南千島の国後島・択捉島だけでなく、得撫(うるっぷ)から占守(しゅむしゅ)までの北千島を含めて千島列島全体が日本領と平和的に確定しました。日露戦争で奪った樺太南部は返還することが必要ですが、平和的に確定した千島列島を「引き渡す」いわれはない。この取り決め自体が「領土不拡大」の原則に背く不公正なものだったのです。

 こうした戦後処理の不公正を正面からただし、南千島も北千島もすべて日本の領土だという交渉を正面からやらないといけない。そうしてこそ国後、択捉が返ってくる道が初めて開かれてくるのです。

 早野 なるほど。

 志位 ところが、日本政府は、そういう理が通った交渉を一度もやらないで、世界に通用しない「国後島、択捉島は千島にあらず。だから返せ」という主張をしてきました。

 サンフランシスコ平和条約の受諾演説で吉田茂首相は国後島、択捉島2島を「千島南部」と明言しています。日本が放棄した千島列島に国後島、択捉島が含まれるという演説をしているのです。後になって言い分を変えても、成り立つものではありません。

 早野 そいつはなかなか大変なことですな。

 志位 日本共産党は、ソ連共産党があった時に、くりかえし領土交渉をやっているんですよ。

 早野 そうなんですか。

 志位 最初は1959年です。日本共産党はサンフランシスコ条約に反対した党ですから、それに縛られない立場で、宮本顕治書記長(当時)が、択捉、国後の返還を正面から迫りました。ソ連側は“独立・平和・中立の日本になったあかつきには、南千島列島の返還問題を検討する可能性が生まれる”といいました。

 79年に宮本委員長(当時)がブレジネフ書記長と会談したときの発言録を見ると、半分ぐらいは領土問題です。とことん理詰めで追い詰め、最後はソ連側が領土問題で答えられなくなった。

 そういう交渉を日本政府は1回もやっていません。戦後処理の不公正に正面から迫る交渉をすれば、全く違う活路が出てくる。現に日本共産党はやってきました。

 早野 共産党が領土問題に力を入れているということは初めて知りました。おもしろいなあ。主権を大事にしているのだなあ。

 志位 愛国者の党ですから。(笑)

怒りの「消費税10%革命」を 早野

大企業、富裕層優遇是正で財源つくれる 志位

写真

(写真)「10%は中止を」と宣伝する「消費税10%ストップ!ネット」などの人たち=2018年12月24日、東京・新宿駅西口

 早野 次に暮らしの問題です。安倍政権は今年10月から消費税率を10%に引き上げます。1000円に対し消費税が百円玉一つ。これまでと違い、国民もずしりと重く感じると思うんですよね。

 志位 消費税率を10%に引き上げてどうなるか。一言でいって、かつて失敗した道をもっとひどい形で繰り返すことになります。14年の8%への引き上げを契機に家計消費は落ち込み、ひと月たりとも増税前を上回ったことがありません。2人以上世帯の実質家計消費は、増税前と比べ最近1年間で25万円も減っています。

 政府は、増税の影響は一時的といいますが、2%上がったら5兆円が毎年取られます。一時的なわけがない。これだけ消費と暮らしが痛んでいるときに10%にすれば、日本経済を破壊することになります。

 この問題で内閣官房参与の藤井聡・京都大学大学院教授が「しんぶん赤旗」日曜版(18年11月18日号)に出てくれました。

 早野 1面に出ていましたね。

 志位 藤井さんは「栄養失調で苦しむ子どもにさらに絶食を強いるようなもの」「貧困と格差を拡大し、経済を破壊する」と言っています。内閣官房参与という政権の「ブレーン」役からの厳しい批判です。

 政府は、「ポイント還元」とか「プレミアム商品券」とかいろんなこといいだしています。でもすべてが一時的です。しかし増税の影響は永久に続く。焼け石に水です。一部を戻すくらいなら初めから増税しなければいい。

 早野 消費者は本気で怒っていかないと。それをどう政治の変革につなげていくのか。「10%革命」というのが起きないかな。

 志位 本当にそうですよね。日本共産党は「消費税にたよらない別の道」という財源提案をしています。まずは富裕層と大企業への優遇税制をやめる。法人税の実質負担率は中小企業が18%で、優遇税制のおかげで大企業の方が10%と低い。この前、テレビ番組でジャーナリストの田原総一朗さんにこの話をしたら驚いて、「ここにいる人(出演者)みんな知らないよ」と(笑)。もっと知らせていかねば(笑)。中小企業なみに大企業が払えば4兆円出てきます。富裕層への優遇税制を是正すると1・2兆円。合わせて5・2兆円。消費税2%分が出てくるじゃないですか。

 さらに下げすぎた法人税や所得税・住民税の最高税率を元に戻す。軍事費や原発推進予算や大型開発の見直しをする。歳入・歳出の改革で当面17兆円くらいつくれるとみています。

 早野 そういう政権になってほしいね。

原発輸出が失敗した理由は 早野

高コスト、撤退決断し再生エネに転換を 志位

 早野 原発の問題です。日本はトルコへの原発輸出で失敗しましたね。

 志位 調べてみたら、失敗だらけなんです。まず東芝の子会社が米国に輸出しようとして経営破綻。ベトナム、台湾、リトアニアへは凍結・中止。インドとは原子力協定を結びましたが、前に進まないので失敗に近い。トルコへの輸出も失敗。日立が英国に売り込もうとしていますが、これも失敗しそうです。

 早野 なぜなんだろう。

 志位 理由は簡単で、東京電力福島第1原発事故があって、原発を売り込むとき、いろんな安全対策をやらなくてはならなくなりました。コストが高くなり、商売として成り立たなくなりました。

 早野 高くて買えないということですな。

 志位 世界は、福島原発事故で原発の危険性を見ています。そしてコストが高くて輸出ができない。それなのに日本国内ではコストが安いとウソをつき、再稼働する。輸出もできないものを国内で動かすなんて。デタラメです。

 早野 自然エネルギーを再評価し、もう文明の転換をしなくちゃいけないな。

 志位 再生可能エネルギーは地域密着型ですから、雇用効果もある。一極集中でないから災害にも強い。いいことずくめです。普及すればするほど供給も安定するんですよ。

 発電量に占める再生可能エネルギーの割合の目標は米カリフォルニア州が30年までに50%。ドイツも30年までに50%。日本は30年度までに22~24%。志が低いのは原発と石炭火力にしがみついているからです。原発ゼロを決断することが、再生可能エネルギーの飛躍的普及につながります。

 早野 僕なんかの年齢になってくると、生きている間ではなくて、50年後はどうなるかを考えるんです。その時に相変わらず原発とか石油とかいっていられないと思う。やはり自然エネルギーを本気でつくっていく。そのなかで、人間が調和していく。今が切り替え時だと思うんです。

どうなっている資本主義 早野

世界でも社会主義の新しい流れが 志位

 早野 日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者が逮捕・起訴されました。日本の資本主義は一体どうなっているのでしょうか。

 志位 有価証券報告書に報酬を過少記載し、隠していたというのが逮捕容疑ですよね。司法の厳正な裁きを求めたいと思いますが、その問題を別にしても、10億~20億円もの所得をゴーン容疑者に保障する一方で、日産は工場閉鎖、派遣切りなどで約4万人もの働く人の首を切っています。こんなことが企業の社会的責任にてらして許されるか。資本主義のあり方が根本から問われていると思います。

 早野 かつてマルクスやエンゲルスが資本主義の“悪”をえぐり出しましたが、それを見るような光景ですよね。

 志位 資本主義の先進国の中でも貧富の格差がどんどん広がっています。資本主義では抜け出すことのできない病です。

 マルクスは『資本論』で、資本の蓄積が進むと、一方に「富の蓄積」、他方に「貧困の蓄積」という富と貧困の二極分化が進むと指摘しました。それが日本でも世界でも今起こっています。最近、おやっと思う方からもマルクスのことを言われるんですよ。

意外な人から

 ラジオ番組で対談した橋本五郎さん(読売新聞特別編集委員)が“貧困と格差の問題をみると、マルクスは今に生きているんじゃないかと思うんですよ”と言うんです。

 亀井静香さんも若い頃にマルクスを読んだそうで、“マルクスの『資本論』は賛成だ”というんです。

 早野 そこに今の世の中を根本的に変えていく手だてがあるんじゃないかと。

 志位 資本主義が最も発達している米国の最近の世論調査で面白いなと思ったのは、「資本主義と社会主義のどっちに好意的ですか」という設問にたいして、18歳から29歳では、「資本主義」が45%、「社会主義」が51%。社会主義のほうに好意的なんです。

 早野 そういう答えもあるんですか。

 志位 英国の世論調査会社による調査でも「全面的な社会主義政府が実現したら、イギリスはよくなるかどうか」と聞いたら、「よくなる」が43%、「悪くなる」は36%なんですよ。

 米国でも昨年の中間選挙で、バーニー・サンダース氏のような民主的社会主義者を自称するグループが躍進しました。「資本主義でいいのか」という問いかけは世界でも広がっていると感じます。

 早野 社会主義は死んでいない。

 志位 新しい流れになってきている。

 早野 読売の論客も亀井さんも。

 志位 そうなんですよ。(笑)

今年の選挙どうのぞみますか 早野

自力をつけ大いに楽しくたたかいたい 志位

写真

(写真)「サポーターまつり」で参加者の求めにピアノを演奏する志位和夫委員長=2018年10月28日、東京都港区

 早野 さて今年の参院選です。一つの勝負は32の1人区だと思います。志位さんのイニシアチブでどこまで共闘が進むのか。

 志位 まずは無条件で具体化のための率直な話し合いをしていきたい。同時に、共産党が「比例を軸」に躍進しないといけません。

 早野 共産党は党勢の(前回参院選時比)3割増(以上)とおっしゃっていますね。

 志位 私たちは選挙で勝とうと思ったら、まだ自力が足りないと思っています。党員と「しんぶん赤旗」読者を参院選までに前回より3割以上増やしてたたかおうと決意しています。

 同時に、「ちょっと共産党を応援してみよう」という方とも一緒に選挙をやっていこうということで、JCPサポーター制度をつくりました。10月に「サポーターまつり」もやりました。大いに楽しく選挙をたたかっていきたい。

 早野 私もサポーターまつりに行きました。ほんわか共産党ね。気持ちが自然になじむ、力まないで共産党を支援する気持ちにさせてもらえるといいな。

 志位 サポーターまつりのとき、私は二つのことを言ったんです。一つは、「ちょっとを集めて政治を変えよう」。一人ひとりがやれることは「ちょっと」でも、集めたら大きな流れになると。

 もう一つは「双方向でやりましょう」。共産党が得意なことも不得意なこともある。お互いにコミュニケーションを取りながらやっていきましょうと。

 早野 ところですばらしいピアノでしたな。(笑)

 志位 お恥ずかしい。(笑)

 早野 普段から練習している?

 志位 ちょっとです。(笑)

 早野 あの時の曲はなんでした?

 志位 ショパンの「別れのワルツ」です。

 早野 共産党は現実政党であるけれども、僕らの世代にとってはロマンの政党でもある。ピアノを聴きながら、そう思いました。ありがとうございました。

 志位 どうもありがとうございました。


pageup