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2018年12月30日(日)

主張

スポーツ界の1年

相次ぐ不祥事は変革への萌芽

 この1年、スポーツ界は不祥事に揺れました。

 レスリングの伊調馨(かおり)選手をめぐる代表監督のパワハラに始まり、「悪質タックル」を生んだ日本大学アメリカンフットボール部の暴力的な指導。ボクシング連盟前会長が試合の判定をゆがめた“奈良判定”に加え、角界の暴力など、いまだその揺れが収まらないのが実態です。

指導者意識の転換が必要

 “震源”には二つの要素があります。一つは指導者のあり方の問題。もう一つは、スポーツ団体の組織運営の未熟さです。

 日本オリンピック委員会(JOC)など5団体は5年前、「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を出しました。

 「フェアプレーの精神やヒューマニティーの尊重を根幹とするスポーツの価値とそれらを否定する暴力とは互いに相いれない」と、一掃への決意を固めました。

 当時JOC専務理事で現在、日本トップリーグ連携機構の市原則之専務理事は本紙の取材に、「残念ながら私たちはこの問題を克服できていません。スポーツ界の暴力は軍隊的な指導のなごりです。しかし、選手の人権を認めないところにスポーツ指導は成り立たない。指導者の意識の転換を図らないといけません」と語りました。

 染みついた体質の一掃には長期の取り組みが必要でしょう。選手の人権を柱にすえ、科学的で合理的な方法論を身に付けた指導者の養成が決定的です。

 米大学バスケットボールのある名コーチは、選手にたいする働きかけについて、「強さではなく優しさで、恐怖心ではなく誇りで」と説いています。優れた指導者を輩出するため、養成事業の質を高め、規模を抜本的に拡大することが重要です。そのための財政的な措置については、国が支えることが不可欠です。

 スポーツ団体の運営の改善も大事な側面です。

 スポーツ界の役員の多くは競技OBが担っています。しかし、その道の専門家が、組織運営やマネジメント能力があるとは限りません。組織原則や運営の民主的なルールの確立は最低限の責務です。

 JOCなど統括団体を中心とし、スポーツ団体が主体的に規範を定め、成功している団体に学び、外部人材を招くなどオープンな組織改革が求められます。

 21日、スポーツ庁が打ち出した不祥事防止策はスポーツ団体に「にらみを利かせる」(鈴木大地スポーツ庁長官)ものにすぎません。

 しかも国が行動規範の「ガバナンス・コード」を定め、スポーツ団体の審査に関与する形となります。これでは国がスポーツ団体の運営に介入する危険が生まれ、その自立が損なわれる可能性があります。

上から押さえるのでなく

 相次ぐ不祥事は、変革の“陣痛”でもあります。選手らが勇気をもって告発に踏み切っているのは、その注目される兆候です。暴力指導を許さない人権感覚、組織不正をただすフェアな意識など改革の萌芽がここにあります。

 これを真の変革につなげるために、上から“押さえつける”対策ではなく、スポーツ界を挙げた幅広い議論が、何物にもかえがたい着実な一歩となります。


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