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2018年12月17日(月)

シリーズ検証 日米地位協定

賠償金支払い拒む米軍

爆音訴訟の250億円 踏み倒しか

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(写真)窓枠落下事故を起こした直後にも米海兵隊普天間基地から離陸し住宅密集地の上を飛行するCH53E=昨年12月、沖縄県宜野湾市

 米軍機の爆音被害に対して住民が起こした訴訟で確定した賠償金のうち、米側が負担すべき金額約250億円が支払われていない可能性があります。

 防衛省によれば、これまでに在日米軍基地や日米共同使用基地の騒音訴訟で確定した賠償金の総額は約260億円(図)で、遅延損害金を含めて約330億円にのぼります。

 米軍関係者による事件・事故などの被害に対する民事請求権を定めた日米地位協定18条は、訓練など「公務中」の米軍が第三者に損害を与えた場合、賠償額の75%を米国が、25%を日本が負担すると規定しています(同条5項e)。この規定に基づけば、米側の分担は約248億円になります。

 これに関して政府は、騒音訴訟の賠償金額の負担配分について、日米両政府の立場が異なっているとの見解を示し、「米軍の航空機は日米安保条約の目的達成のために所要の活動を行っている。このような活動を通じて発生した騒音問題は…賠償すべきものではないとの立場を(米国は)とっている」(岸田文雄外相、2017年3月23日の参院外交防衛委員会)と述べ、米側が負担を拒んでいることを明らかにしました。

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 “日本を守るためだから我慢しろ”というごう慢な態度です。

 そもそも、米軍側に100%責任がある事故でも日本側が4分の1もの負担を強いられること自体が不当な規定です。しかし、外務省の機密文書「日米地位協定の考え方」は、「安保条約の運用との関連で生じたもの」であるから日本が一部負担すべきだとしています。米軍が「安保のためだ」として賠償金の支払いを拒んでいる根本には、こうした日本側の弱腰の姿勢があるのです。

 防衛省資料によれば、1952~2016年度までの米軍の「公務上」の事故は約5万件で死者は521人に達します。騒音訴訟の賠償金を除く賠償金額は約92億円です。

 地位協定の規定では、日本側が賠償額を決定し、米側に請求します。しかし、支払い期限は「できるだけ速やかに」としているだけで、具体的な期日はありません。このため、被害者がいつ補償を受け取れるのか、見通しがたたない実態があります。

第18条 裁判たたかい成果も

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(写真)住宅密集地の上をわが物顔で飛ぶ米海兵隊普天間基地のMV22オスプレイ=沖縄県宜野湾市

 昨年10月11日、沖縄県東村高江で農業を営む西銘晃さんが所有する牧草地に、米軍CH53Eヘリが不時着し炎上。米軍は事故現場を囲い込み、勝手に土壌を持ち去り、西銘さんに大きな被害を与えました。しかし、作物の補償について西銘さんは「(日米両政府は)栽培期間1年を経過した収量から算定する。つまり、(最低でも)来年4月以降になります」と語り、見通しがたっていないことを明らかにしました。

 米軍三沢基地(青森県三沢市)のF16戦闘機が今年2月20日、燃料タンク2本を同県東北町の小川原湖(おがわらこ)に投棄しました。小川原湖漁協は9月、事故によって1カ月の間全面禁漁に追い込まれたとして9323万円の損害賠償を日米両国に求める方針を決定。請求を受けた政府が米側と協議をして賠償額が決まりますが、米側がどこまで補償を認めるか不透明です。同漁協は、東北防衛局や米側の対応について「説明はまだない」としています。

「公務外」に多発

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 米軍の「公務外」での事件・事故に関してはどうか。防衛省の資料によれば件数が1952~2017年までで16万件を超え、「公務中」の約3倍超です。死者は572人にのぼります(表)。強盗、殺人、強姦(ごうかん)といった凶悪犯罪はほぼ「公務外」に発生しています。

 しかし、日米地位協定18条6項によれば、米側が支払うのはあくまで「慰謝料」であり、支払いの有無も米側が決定することになっています。そのため、多くの被害者が泣き寝入りを強いられています。

 こうした被害者に対する救済制度として、1996年、米国政府が被害者や遺族に対し裁判所の判決で確定した損害賠償金を支払わない場合、日本政府がその差額を補てんする「SACO見舞金」が設立されました。

 しかし、実績額は17年度までで15件、約4億7000万円にとどまります。さらに、判決で課せられる年5%の遅延損害金が含まれないなど、問題点も指摘されています。

泣き寝入りせず

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(写真)米兵犯罪被害で示談見舞金の調印式を終えて会見する(右3人目から左へ)山崎氏、中村弁護士ら=2017年11月17日、横浜市中区

 こうした中、泣き寝入りせずに裁判をたたかった事例もあります。06年1月3日早朝に神奈川県横須賀市で前日から飲酒していた米兵による凄惨(せいさん)な暴行で妻を殺された山崎正則さんが起こした裁判です。

 山崎さんは賠償だけでなく、米軍、日本政府の責任を追及して訴訟を継続。昨年11月、判決額6573万9824円のうち、米国から2791万4458円、SACO見舞金から3782万5366円を受け取ることで最終決着しました。

 裁判を担当した中村晋輔弁護士は「米軍の『公務外』の事件でも、米軍の上司の監督責任が及ぶということを勝ち取った。『公務外だから米軍も日本政府にも責任はなく、関係ない』と言えなくなったので、この裁判の意義は大きい」と語ります。

 示談に伴う免責の対象から日本政府が除外されるという成果もありました。中村氏は、18条6項の仕組みが「米側が見舞金を支払うかどうか、日本政府が法的責任を負わない仕組みになっていることが一番の問題」と指摘。「言葉では『被害者に寄り添う』と言っているが、米側の意向をただ伝えているだけだ。被害者側に立ち、被害の救済に向けて米側に言うべきことを言うべきだ」

地位協定18条ポイント

 ▼米軍関係者による「公務中」の事件・事故に伴う損害賠償額は、日本側が25%負担し、米側が75%負担する。

 ▼「公務外」の場合、米側が慰謝料を支払うが、支払いの有無は米側が決定する。


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