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2018年12月14日(金)

きょうの潮流

 寄り添ってきた作家を亡くすことは、己の一部を喪失するような感があります。1年前に急逝した葉室麟さんもそうでした▼「時代小説は日本人の心の故郷」と歴史に舞台をもとめ、人の生とは、愛とは、絆とは、を問い続けました。権謀うずまくなか、正しきことは美しいと、清冽(せいれつ)な生き方を貫こうとする姿。映す世に違いはあれど、それは今に生きる私たちの心奥を静かに打ちます▼最後の長編小説と銘打たれた『影ぞ恋しき』は3部作の最終巻。ここでも、政争に巻き込まれながら、いとしきものや正義のための生き方が全編に通されています。和歌に託された思いや忠臣蔵のその後を背景にして▼きょうは討ち入りの日です。315年前の元禄15年12月14日、大石内蔵助をはじめ四十七士の赤穂浪士が、切腹に処せられた藩主・浅野内匠頭の敵として吉良上野介を討ちとりました。赤穂事件ともいわれ、兵庫・赤穂市では115回目となる義士祭が開かれます▼命をかけて主君への忠義を貫き、権力による不公平をただしたとされる忠臣蔵は、これまで数多くの題材にされてきました。しかし葉室さんは、小説のなかで一方を悪人とは描かず、政の犠牲にされた双方の内実に迫っています▼「命の軽視ではなく、大切さを伝えたくて書いている」。生前、本紙日曜版にそう語っていた葉室さん。潔く正しく生きようとしながら、もがき苦しむ人びと。政とは何か、なぜ民に幸せをもたらす政が行われないのか。その姿は今に訴えかけています。


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