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2018年7月14日(土)

カジノ実施法案の参考人意見陳述 参院内閣委

 13日の参院内閣委員会の参考人質疑で、カジノ実施法案について意見陳述した静岡大学の鳥畑与一教授、阪南大学の桜田照雄教授の発言(要旨)は次の通りです。

本質はカジノ支援法案

静岡大学教授 鳥畑 与一さん

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(写真)鳥畑与一参考人(静岡大学人文社会科学部教授)=13日、参院内閣委

 カジノ実施法案は331項目もの政省令委任と、条文等にも書かれない「ルール」を忍び込ませたきわめて不透明な法案となっています。それはカジノ事業者に大きな自由を委ねるために意図的に作られた不透明さであり、この法案の本質は「カジノ支援法案」だと思わざるを得ません。

 カジノではなく統合型リゾート(IR)だと繰り返し強調されます。しかし本法案の最大争点が刑法の賭博禁止の違法性を阻却できるのか否かにあるように、本質は紛れもなくカジノを合法化し実施するための法という点にあります。

 政府は、カジノは大きな経済効果(公益性)を発揮するMICE(国際会議場などを併設する施設)等のIR施設を支える収益エンジンだとします。しかしその本質は、カジノ以外のIR施設で集客した客をカジノに誘導して、ギャンブル収益最大化を目指すビジネスモデルに他なりません。

 このIRカジノの集客力・消費力が大きいほど、地域社会は顧客の喪失、売上減少というリスクにさらされます。決して「公益性を発揮する施設」ではなく、地域社会の「公益性」を破壊するものなのです。

 カジノは、賭けを通じた消費力の移動でしかありません。同時にそれは胴元側であるカジノ事業者が確率的に確実に収益を実現するように設計されたものです。

 カジノのギャンブルは顧客が賭け行為を継続するほど胴元側が安定的収益を実現できます。無制限のもうけ金額と共に途中で辞めさせない仕組みの一つが、カジノによる「信用枠の設定」です。問題は、この信用枠設定が所得だけではなく、預貯金等の金融資産を担保として設定されており、そういう「資力」の返済能力を超えた負けで自己破産が急増していることです。信用枠設定は、決して世界標準ではありません。日本でもせめて日本人に対しては「特定貸し付け業務」は禁止するか、「貸金業法」の所得制限を適用すべきです。

 世界のMICE市場は、停滞するカジノ市場とは違い2023年には1・2兆ドルを超えると予想されています。そのほとんどはカジノに依存することなく高成長を遂げています。カジノ無しではMICEは無理だという虚構にとらわれることで、本来のMICE戦略展開の可能性を閉ざしているのではないでしょうか。本当にIR型カジノしか選択肢はないのか、その立法根拠はあるのか、慎重な調査と検討が必要です。

観光文化の土台損なう

阪南大学教授 桜田 照雄さん

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(写真)桜田照雄参考人(阪南大学教授)=13日、参院内閣委

 本法案によるカジノ合法化にあたっては、賭博を禁じる刑法の違法性阻却事由の一つ、「目的の公益性」が大きな論点です。本法案では、カジノ収益がIR(統合型リゾート)施設やMICE施設(国際会議場などを併設する施設)における「収益エンジン」だとの考えで、カジノ事業者の収益の30%が国と地方自治体に納付されることにより、「目的の公益性」は満たされると考えられているようです。

 収益70%はカジノ事業者のものとなります。事業者はカジノ税(納付金)を大きな負担と意識し、負担分をできるだけ軽くしようとするはずです。

 そのために、より大きな収益の獲得に駆り立てられる構図のもとで、「射幸心をあおる」ことなくして、カジノ業務が成り立たないということになってしまいます。これは明らかに「公序良俗に反するビジネス」であり、「目的の公益性」は果たされません。

 一連の業務から得られる利益が株主に配分されるので、この意味でも「私的な経済的利益の追求」と「目的の公益性」は両立しません。

 法務省が示した「違法性阻却の8要件」について、IR推進会議は「制度全体を総合的にみて判断されるべき」だとしました。要件の一つひとつを検証しない、「最初に答えありき」「決めつけ」に等しいものです。

 経団連やシンクタンクが想定する「カジノ開設の経済効果」では、いずれも「IRにかかる経済効果は、建設による経済効果と運営による経済効果」とされています。こうした「経済効果」、ひいては「経済政策」からカジノを観察することは、賭博という「カジノの本質」を覆い隠してしまいます。

 立法府が考えねばならないことは、カジノ事業者が数千億円もの収益を生み出していることではなく、スロットマシンを合わせれば1兆円を超える大金を一般の人々が賭博に投じていることです。

 日本社会がどう賭博に向き合うことになるのか、仮に違法性を阻却できないままに賭博を合法化すれば、深刻な社会問題を引き起こさないかという点こそ議論されるべきです。

 本法案が役立つといわれる観光振興では、「おもてなしの精神」が訪日外国人観光客の誘客を促進する「切り札」とされています。「おもてなし」、つまり「他人への思いやりの心」は、その人の誠実さのなかにこそ生まれます。「他人の不幸の上にわが身の幸福を築く」カジノの開設は、日本の観光文化と経済社会の土台を毀損(きそん)してしまいます。


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