2018年7月1日(日)
ロシア発鼓動
「日本の時間稼ぎ」再考
「行動規範」の原点に照らして
「勝つためにプレーしないのなら、相手をだまし、見ている人を欺き、自分自身にうそをついている」
ワールドカップ(W杯)ロシア大会グループリーグ第3戦のポーランド戦(28日)で、日本が見せた終盤の時間稼ぎに波紋が広がっています。この問題を改めて考えてみました。
「素直に喜べぬ」
「こういう場所(16強)に来たにもかかわらず、素直に喜べない状況をつくってしまったのは申し訳なかった」
試合から一夜明けた29日、西野朗監督は選手、スタッフ全員のミーティングの席で、ポーランド戦の時間稼ぎの決断をこうわびたといいます。
問題の場面は、0―1で迎えた後半の残り約10分間のこと。ベンチの指示の下、日本のDF同士で「時間稼ぎ」のボール回しを始め、会場は大きなブーイングに包まれました。
日本がこうした行為に出たのは後半29分、他会場でコロンビアがセネガルをリードし、このまま推移すれば、日本がわずかな差(警告の枚数などのフェアプレーポイント)で決勝トーナメントに進出できる状況となったからです。
しかし、ここにはいくつかの見過ごせない問題が浮かび上がってきます。
一つは、他の試合結果が動く可能性がある中、日本はこのままゲームを終わらせようとしたことです。これは結果がどう転ぶかわからない危険なかけです。セネガルが同点に追い付いていたら、日本は予選敗退となっていました。とても最善の策とも次善の策にもなりえないものです。日本があの時点でやるべきことは、もう一つの試合結果にかかわらず、自分たちの手でポーランドに追い付き、勝利を目指し、活路を開くことだったはずです。
西野監督は試合後、苦しい胸の内を吐露しています。
「間違いなく他力の選択をしたこと。負けている状況をキープしている自分、チームに納得がいかない」。監督自身もこの選択を「不本意」としていた部分があったというわけです。
スポーツの本質
もう一つのより本質的な問題は、これほどの極端な時間稼ぎをし、敗戦を受け入れるという姿勢が、スポーツのあり方にとって大きな問題を含んでいるということです。
国際サッカー連盟(FIFA)には、すべてのサッカー関係者に関わる「フットボール行動規範」があります。その最初にあるのが「勝つためにプレーする」です。
「勝利はあらゆる試合のプレーする目的です。負けを目指してはいけません。もしも勝つためにプレーしないのならば、あなたは相手をだまし、見ている人を欺き、そして自分自身にうそをついています。…全力を出さないことは、相手への侮辱です。試合終了の笛がなるまで、勝つためにプレーしなさい」
日本は残り10分あまり勝利を目指さず、16強入りを目指していました。しかし、それは「行動規範」の精神を踏みにじることになります。
スポーツはどんなときも全力をつくし、勝利を目指すことにその大きな意味、価値があります。それを全うしないことには、スポーツたりえないといってもいいのです。
「相手をだまし、見ている人を欺き、自分自身にうそをつく」。今回の16強入りに「もやもや感」が残るのは、日本のたたかいに、これに似た思いが湧いてくるからです。それは当事者である監督自身も感じていることです。
いま一度、この規範の原点に立ち返ったたたかいを強く望みます。(和泉民郎)