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2018年6月23日(土)

2018焦点・論点

男女共同参画 私はこう考える

山浦 善樹さん 最高裁元判事・弁護士

言葉のセクハラでも許されない

 国会議員や地方議員の選挙での男女の候補者数ができる限り同数となることを目指す「政治分野における男女共同参画推進法」が全会一致で成立しました。一方、財務省の事務次官のセクハラ事件など、社会や政治がセクハラ問題と、どう向き合うのか問われています。司法の分野で、セクハラ事件と向き合ってきた最高裁元判事の山浦善樹さん(弁護士)に聞きました。(武田恵子)


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(写真)やまうら・よしき 1946年生まれ。弁護士。2012年3月から16年7月までの4年4カ月に最高裁判所判事。在任中に、婚外子相続分差別の訴訟、夫婦別姓訴訟、再婚禁止期間の訴訟で違憲判断を示す。
撮影・橋爪拓治

 言葉によるセクハラでも許されないという判決を、最高裁が出したのは(判事在任中の)2015年2月です。判決は、セクハラと認定された具体的な言葉を一覧表にしています。例をあげると、男性従業員が、職場で1人で仕事をしていた女性従業員に対し、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」とか、「いくつになったん。もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」と言ったなどというものです。

 こういう言葉によるセクハラをした労働者の懲戒処分の有効性を問う裁判で、原審の大阪高裁は、労働者を救済する立場から企業側の敗訴判決をしました。これに対し、最高裁は、正面からセクハラ事件としてとらえ、労働者に対する処分を有効としました。言葉によるセクハラは身体的接触によるセクハラに比べて軽視される風潮がありますが、セクハラ被害を根絶しようという5人の裁判官全員一致の判断で、言葉によるセクハラでも見過ごすことはできないと社会に強いメッセージを送ることができました。

 セクハラは、被害者が内心で著しい不快感や嫌悪感・屈辱感を抱いても、仕事の上での人間関係の悪化を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗がしにくい。加害者は、それを知っていて、被害者の反応をうかがいながらエスカレートしていくので悪質なのです。

 財務省事務次官のセクハラ事件も、おそらくその例外ではないと思います。そして、財務省は、被害者に名乗り出るように言いましたが、名乗り出たら社会的に仕事ができなくなることを分かってのことだと思います。もともと多くの女性はそういう立場にあるのでセクハラの対象としてねらわれるのであって、おそらく反撃してこないだろうと計算してのことでしょう。セクハラは人権侵害であると同時に女性に対する差別です。

 では、セクハラを防止するには、どうしたらよいのでしょうか。根本的には社会的に弱い立場にある女性(男性)の弱みに付け込む行為を許さないという規範意識を育てることですが、かつて日本の大手自動車メーカー、三菱やトヨタが米国で経験したようなセクハラを起こした企業が巨額の賠償金を払わされるといったことも、社会的制裁として必要なのではないかと思います。

 政治分野での男女共同参画推進法が成立し、一歩前進ですが、大事なことは、社会的な発言をする立場にある者に、これに逆行するような言動を繰り返させないようにすることです。安倍首相の育児休暇にかかわる「3年間抱っこし放題」発言や、自民党の萩生田光一幹事長代行の「赤ちゃんはママがいいに決まっている」などの発言は、セクハラとは直接関係がないように見えますが、育児や子育ては女性の仕事と決めつける偏った考え方で、女性の社会進出に障害となっており、共通の問題があると思います。


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