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2018年4月1日(日)

2018焦点・論点

安倍内閣で広がり深まる貧困

都留文科大学名誉教授 後藤道夫さん

中間層が低所得層に落ちている 生活保護基準引き下げは むちゃ

 「貧困打開に向け『生活保障法』に」と提案した日本共産党の志位和夫委員長の質問(2月5日、衆院予算委員会)は大きな反響を呼びました。安倍内閣のもとで国民がおかれた貧困の状況はどうなったのか、都留文科大学名誉教授の後藤道夫さんに話を聞きました。(聞き手 内藤真己子)


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 ―安倍首相は、「相対的貧困率」が低下したので貧困が改善されたと言いますが、どうなのでしょうか。

 たしかに相対的貧困率そのものは、下がっています。しかし日本共産党の志位和夫委員長が国会で安倍首相をただしたように、物価の変動を考慮に入れた「貧困ライン」の実質値は下がり続けています。そのもとで相対的貧困率、すなわち「貧困ライン」に届かない人の割合が減っても貧困が改善したとは到底言えません。

 志位さんは安倍首相が「貧困率改善」の根拠にしている総務省の「全国消費実態調査」にもとづいて、貧困ラインの推移を明らかにしました。同調査より低所得者のサンプル数が多い厚生労働省の「国民生活基礎調査」でみても、貧困ラインの実質値は、1997年の130万円から2012年は111万円、さらに15年には106万円へ同様に大きく下がり続けています。

最低生活費以下拡大

 ―なぜ貧困ラインが下がってきているのでしょう。

 それは国民の所得分布が低い方に集まってきているからです。

 「国民生活基礎調査」による等価可処分所得の実質値の分布をみると、280万円未満の層は1997年の55・6%が、2012年65・7%、15年69%へと増えています。逆に280万~800万円未満の層は42・5%から33・4%、29・8%へ減っていて、中間層が低所得層に落ちているんですね。

 また、「相対的貧困率」は、「相対的低所得人口率」であって、本当に生活ができるかどうかの実質的な貧困率とは言えません。例えば15年の4人世帯の貧困ラインを計算してみると245万円になりますが、生活保護制度が定める生活保護基準の「最低生活費」の全国平均は327万円で、80万円以上の違いがあります。

 そこで「最低生活費」に満たない所得の人とその割合を調べてみました。12年の「最低生活費」を固定し物価上昇分を考慮すると、「最低生活費」に満たない所得の人は12年には23%で約2900万人、15年は24・3%で3000万人を超えました。貧困は拡大しています。

低所得層ほどひどい

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 ―安倍内閣のもとで貧困は改善するどころか、拡大しているということですね。

 その通りです。志位さんは質問で、所得が最も少ない10%の層(第1・十分位)の実質所得の上限値が、2009年の140万円から安倍内閣のもと、14年には134万円に下がっていることを「全国消費実態調査」にもとづいて明らかにされました。

 そこで私は、「国民生活基礎調査」の集計データから、1985年以降の下位10%~同40%各層の実質所得の上限値の推移を計算してみました。97年の値を100とすると、下位10%層では12年の79・8%が、15年には77・7%まで落ちています。他の所得層と比べ、落ち方が一番激しいです。最も所得の低い層が一番ひどい目にあっていることが分かります(グラフ1)。

 生活保護基準に満たない所得の人がこれだけ多くいるなかで、安倍内閣は、実質所得の落ち込みが一番激しい下位10%層の消費水準に合わせて生活保護基準を引き下げるといっています。およそむちゃな話だと思います。

子どもの貧困率は?

 ―安倍首相は、子どもの相対的貧困率が「大きく改善した」といっていますが、現状はどうですか。

 「子どもの相対的貧困率」が下がったのは事実です。その要因の一つは、先にみてきたように全国民共通の「貧困ライン」自身が下がったからです。

 それに加え、子どもがいる世帯の所得分布が低所得層を中心に少し上がったことがあります。「国民生活基礎調査」で、17歳以下の「子ども」の1人当たりの所得(等価可処分所得)の実質値の分布をみると、12年から15年にかけて、40万~120万円未満の層が減っています。一方で120万~160万円未満、180万~280万円未満の層は増えています。

 これは子を持つ低所得世帯が、夫の収入だけでは暮らせなくなり、母親が働きに出た結果と考えられます。実際、同じ調査で、乳幼児(未就学児)がいる世帯の母親の有業率を見ると、世帯所得200万~300万円層では12年に36・9%だったのが、15年には54・7%へと跳ね上がっています。

 インターネットに「保育園落ちた、日本死ね」と投稿され世の憤激を呼んだ背景にこういう状況があります。しかし母親が就業するための保育料など支出増は加味されていませんので、所得がわずかに増えても生活実態として貧困が改善されたかは分かりません。

結婚・子育てできぬ

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 また「子どもの貧困」以前に、そもそも、結婚・子育てが一定所得以上でないとできにくくなっています。40歳代男性が夫婦で子育てをしている割合は、95年の71%が15年には51%に減りました(「国勢調査」)。

 「就業構造基本調査」によって、40歳代の男性で、夫婦と子世帯の夫と、単身者や親元にいる独身者などとの勤労所得を比較したところ、所得300万円未満の割合が、夫婦と子世帯の夫では12・5%なのにたいし、単身者や独身者などは43・5%で、大きく違っていました。

 他方、子育てしている世帯の実質の平均可処分所得をみると、97年の624万円から15年には527万円へ、97万円も減少しています(「国民生活基礎調査」、グラフ2)。

 したがって、一定所得以上でないと結婚・子育てができにくくなっているとともに、子育てしている世帯の生活の困窮も同時に進行しているのが現状だと言えます。


 相対的貧困率 各世帯の収入から税金と社会保険料などを除いた手取りを「可処分所得」といいます。それを世帯人数の平方根で割って調整した国民一人ひとりの所得が「等価可処分所得」です。「等価可処分所得」を順に並べ、真ん中に来た値を「中心値」とし、その半分の値を「貧困ライン」と言います。このラインを下回る所得の人の割合が「相対的貧困率」です。


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