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2017年12月17日(日)

2017とくほう・特報

「見えない公害」 アスベスト

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 建物の耐火、断熱材として長年使われてきたアスベスト(石綿)。ところが、体内に取り込むと長い潜伏期間をへて中皮腫や肺がんといった病気になる「見えない公害」です。近年被害は建設現場から地域住民へと広がっています。市民ができるリスク対応策とともに、働く人や国民の健康対策を後回しにした国と企業の社会的責任を考えました。(阿部活士)


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(写真)外山さん(左端)の案内で、横須賀市内にある工場団地のアスベスト建材を調べる大山県議(右から3人目)ら参加者

身近にあるリスク

28年ピークに解体工事が本格化

禁止遅すぎた

 高度経済成長期の1960年代から輸入が本格化したアスベスト。世界では国際労働機関(ILO)や世界保健機関(WHO)がアスベストの発がん性を指摘・警告した(72年)時期にも国やアスベスト建材企業は、その事実を知りながら大量に使用し続けました。日本がやっと石綿使用を禁止したのは2006年になってからです。

 約1000万トンの輸入アスベストの約7割が建材に使用されてきました。どれぐらいのアスベスト含有の建物があり、除去対策をとったのか。

 国土交通省によると、除去対策を優先させたホテルや物販店などの大規模建築物では約4000棟の除去作業が残っています。小規模建築物については、業界が自主規制した1989年以前の約130万棟の5%ほどが含有すると推定しますが、「全国的な対策状況について網羅的な把握ができていない」というお粗末さです。

 2028年をピークにアスベスト含有建物の解体工事が本格化します。環境省はことし4月「ガイドライン」をホームページに公開しました。建物解体などによる石綿飛散のリスクと防止対策について、工事発注者や施工業者、地方自治体が共有し、周辺住民の不安や問い合わせにこたえる必要があるとしています。良い工事掲示と悪い工事掲示の例を示しています。

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(写真)ルーペで拡大した青石綿

少ない専門家

 しかし、肝心のアスベストを調査する専門家(建築物石綿含有建材調査者=建材調査者)は745人しか養成されていません。

 「アスベストを使ったマンションでも日常生活は大丈夫です。解体やリフォーム・改修の際に適切な措置をとらないと、石綿が飛散し吸入するおそれがあります。工事の掲示をチェックするなど市民の役割が重要です」

 こう話すのは「建材調査者」で、東京労働安全衛生センターの外山尚紀さんです。外山さんは、中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉冬史事務局長らと協力して「見えない危険・アスベストを知るワークショップ」を各地で開いています。

飛散防止急げ

 取材したのは、先月神奈川県横須賀市で開かれたワークショップ。参加者は十数人で、地元の横須賀市議や日本共産党の井坂新哉、大山奈々子両県議も参加しました。

 外山さんの講義をうけて、市内の工場団地を現地調査しました。

 「屋根は波形スレートだとダメね。ここも外壁に吹き付け石綿が使われているわ」。参加者からため息がもれます。井坂県議は「アスベスト建物が多いのに驚いた。県議会でも対策をどうするか取り上げたい」と話します。

 永倉さんは、宮城や熊本の被災地でアスベスト飛散状況を調べてきました。「大地震に見舞われると地域全体が解体現場になると想定したほうがいい。行政が日常的にアスベスト建物を把握して、震災時に飛散させない対処方法も事前に考えておく必要がある」とアドバイスします。

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(写真)使い込んだ工具を手に、宮大工が夢だったと語る高橋さん

“生活も奪われた”

裁判に訴え勝利した被害者の思い

 アスベスト含有建材は建築・建設現場で加工・切断したため、被害が大工、左官、内装工、配管工など作業従事者に集中しました。

夢見た宮大工

 神奈川県平塚市に住む高橋静男さんも、その一人です。手作業が大好きで高校生のときに牛舎を自分でつくりました。高校卒業後上京し1970年から大工職人として働いてきました。腕を磨いて宮大工になって祭りの神輿(みこし)をつくるのが夢でした。

 病気ひとつしたことがない自慢の体。異変に気がついたのは、87年。風邪をひいていなくてもせき込みました。94年に息苦しくて倒れました。アスベストのせいです。

 「仕事をしたくてもできない体にされた。当たり前の生活も奪われました」と怒ります。

 いまでは、家のなかも出歩くときも24時間酸素ボンベがなければ倒れてしまいます。夜熟睡したことはありません。毎晩のどに痰(たん)がからんで痰を出そうと咳をきり、明け方にはティッシュ箱1箱が空になるほどです。

「もうけ優先」

 高橋さんは、労災の専門病院で知り合った仲間と「神奈川アスベスト肺患者同盟」を2006年につくりました。「アスベストは大企業のもうけ優先がもたらした時限爆弾だ」「被害救済と解体・除去は国と原因大企業の責任だ」と大書きしたニュースを毎月発行してきました。

 「首都圏建設アスベスト訴訟」をおこし、統一原告団の副団長(第1陣)として「国とアスベスト建材企業は、人の命よりも経済や会社の利益を優先させてきた。謝罪し、償い、再発防止策をつくれ」と訴えてきました。

 東京高裁は、国と建材メーカー4社の賠償責任を認める判決(10月27日)を出しました。判決は国の責任について「広汎かつ重大な健康被害のリスクが生じていることを把握しえた」のに、「規制・監督権限の不行使は許容される限度を逸脱していた」と断じました。

政治的解決を

 アスベスト被害者の全面救済にむけて一歩踏み出す判決をうけ、日本共産党国会議員団建設アスベストプロジェクトチームが高橋さんら原告と弁護団とさっそく懇談しました。

 チーム責任者の高橋千鶴子衆院議員は「これ以上、国による解決の引き延ばしは許せません。裁判をおこさなくても救済される制度の創設など政治的解決をすすめるために全力をあげます」と表明します。


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