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2017年5月11日(木)

2017とくほう・特報

大阪・大東に見る 改悪法案先取り

介護「卒業」 こもる日々

「自立支援」の名でサービス取り上げ

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 介護保険で、要支援1・2の人の訪問介護と通所介護を保険給付から外し、市町村事業に移す「総合事業」が段階的に始まり、今年度から全自治体でスタートしました。昨年度に始めた大阪府大東市(人口約12万人)では、「自立支援」に名を借りて利用者に介護サービスからの「卒業」=追い出し=を強要し、必要なサービスが削られる深刻な状況が生まれています。国会で審議中の介護保険法改悪案の“先取り”ともいえる事態です。

 (内藤真己子)


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(写真)通所介護や訪問介護が利用できなくなった男性(右)から、書類を見せてもらう日本共産党の新崎美枝大東市議(左)ら=大阪府大東市

 「保険料かけてきたのに介護サービスが使えへんようになった。民間保険やったら詐欺言われるんと違いまっか」。市内の古い公営住宅。エレベーターが止まらない2階の部屋で1人暮らしする男性(83)=要支援2=はいぶかります。

 大型トラック運転手時代に腰椎を骨折した事故がもとで、身体障害者手帳3級です。両足はしびれ、膝や腰に痛みがありコルセットが離せません。5年前に心筋梗塞で手術して以来、介護保険を使ってきました。通所介護に週2回行き、入浴して体操。訪問介護も週2回各1時間利用し、ヘルパーに調理や掃除を頼んでいました。

昨年度経費3割も削減

 ところが昨年、総合事業が始まるとこれらのサービスが次々中止になりました。「卒業」です。同市は、通所介護を「卒業」すると、町内会などが約100カ所で行う介護予防の「大東元気でまっせ体操」につなぐと言います。しかし男性は「外は100メートルも歩けないから、行かれへん」。

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(写真)予想を上回る参加申し込みで会場を変更して開かれた、総合事業1年を検証する集会=4月22日、大阪府大東市

 訪問介護は、週1回30分の住民による生活サポート事業に代わりました。「30分やから掃除だけ。料理はなしや」。配食弁当をとっても、ホームヘルパーの手料理を数少ない楽しみにしていた男性は残念そうです。

 ベッドでテレビを見て部屋にこもる日々。「時々足の力が抜けたようになる。弱ってきたと思いますわ」。不安をにじませます。

 同市の総合事業には介護給付と同じ基準の「現行相当」、無資格者による時間短縮・緩和型、住民主体の生活サポート事業のほか、介護予防体操などがあります。

 市は現行相当から緩和型への「移行」、さらに住民主体のサービスなどへの「卒業」を求めます。事業所向け研修会を頻繁に開催。そこでは週2回ヘルパーが掃除や洗濯を行う家事援助を続けるのは、「お世話型のケアマネジメント」で「×」と指導します。

 市が総合事業利用者のケアプランをすべてチェック。3カ月ごとに目標を設定し市が定めた条件が満たされるとケアマネが「卒業」を決めると言います。実際、訪問型サービスを利用している人(今年1月末現在)の約2割の数にあたる89人が昨年4月から今年1月末までに「卒業」、通所型サービスでは同じく約5割に上る125人が「卒業」させられています。

 そのテコになっているのが地域包括支援センターのつくる総合事業のケアプランへの報酬の加算です。「卒業」や「移行」の人数に応じて最大2倍まで加算が増額されます。日本共産党の新崎美枝市議は「総合事業のケアプランの委託単価は介護保険のよりも低いので、事業者は卒業させないと減収になる。事業所が市の言うことを聞かざるを得ない仕組みです」と語ります。

 例外を除き新規利用者も更新者も、要介護認定を受けないように誘導。要介護認定者は前年度より要支援1で30%、要支援2は27%も激減しました。「新規利用者が、(住民主体の)生活サポート事業や『元気でまっせ体操』にかなり行っている」(逢坂伸子同市高齢介護室課長参事)。このため昨年度の総合事業は、当初予算の34%を使い残す経費削減です。

利用認めず寝たきりに

 同市のケアプランチェックは総合事業だけでなく介護保険給付にも及んでいます。通所リハビリもそうです。

 要支援1と認定された70歳代の男性は、糖尿病による末梢(まっしょう)神経障害で歩行が困難でした。主治医である協立診療所の橘田亜由美医師(リハビリ専門医)は、通所リハビリの利用を勧め、家族がケアマネに希望を伝えました。しかし同市は通所リハの利用を認めず、介護予防体操と住宅改修による自宅での入浴を指示しました。

 男性は自分で体操することはなく、入浴も1回しかできませんでした。交渉してようやく4カ月後に通所リハビリの利用が認められたときは、さらに下肢は衰え、足の壊(え)疽(そ)が始まっていました。入院しましたが、寝たきりになりました。

 橘田医師は「専門医として指示した、患者に必要な介護保険下のリハビリを市が認めないことが、逆に患者さんの自立を妨げ重大な事態を招いた。介護保険のリハビリは生活の能力を維持するために継続が必要です。卒業を迫られると維持期のリハビリをどこですればいいのか、大いに疑問です」と語ります。

 同市は今年度から要介護1、2で訪問介護、通所介護を利用する全ケアプランもチェックする(同前)とし、被害の拡大が懸念されます。

 大東社会保障推進協議会は4月22日、総合事業1年を検証する集会を開き約200人が参加。株式会社の介護事業者も「行政に声を上げていきたい」と発言。「『自立支援』に名を借りたケアプランへの締め付け・『卒業』強制を行わないこと」などの要望を決議し、市に申し入れることを決めました。

交付金増減市町村競争

 こうした市町村を介護サービス取り上げへと駆り立てる「保険者機能の抜本強化」の仕組みが、介護保険法改悪案に盛り込まれています。市町村が「自立支援・重度化防止」や介護給付費適正化の施策や目標を決め、国は「要介護状態の維持・改善度合い」などの結果に応じ、交付金を増減させます。

 「自立支援」に名を借りた介護サービス取り上げは、安倍晋三首相が政府の未来投資会議で、「本人が望む限り介護が要らない状態までの回復をできる限り目指していく」(昨年11月)と表明したことの具体化です。塩崎恭久厚生労働相も、同法案審議で「(介護保険の)究極の目標は自立」(3月31日)と明言しています。

 大阪社保協介護保険対策委員の日下部雅喜さんは「介護保険法は1条で、介護が必要な状態になっても尊厳を保持し、能力に応じ自立した生活を営めるよう必要な給付を行うことをその目的としています。安倍内閣の卒業型自立支援はこの理念にも反する」と指摘。「法案が通れば大東市のような介護サービス取り上げが全国に広がる。法案は撤回するべきだ」と語ります。


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