「しんぶん赤旗」
日本共産党
メール

申し込み記者募集・見学会主張とコラム電話相談キーワードPRグッズ
日本共産党しんぶん赤旗前頁に戻る

2017年1月30日(月)

2017焦点・論点

言葉の危機と時代

歌人・京都産業大学教授 永田和宏さん

「不時着」と言い換えるさむさ 言葉への慎み失った政治憂う

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 mixiチェック

 「朝日」歌壇の選者をつとめる歌人の永田和宏さん(京都産業大学総合生命科学部教授)が同紙の新春詠に寄せた短歌「不時着」の2首が話題を呼びました。永田さんに歌の背景などを聞きました。(山沢猛)


写真

(写真)ながた・かずひろ 1947年滋賀県生まれ。京都大学名誉教授。著書に『近代秀歌』『現代秀歌』(岩波新書)、近刊に『生命の内と外』(新潮選書)。
撮影・若林明

 ―「不時着」2首が鋭く、印象的でした。

あえて歌う

 新春詠というのは年の初めを賀するというのが慣習なのですが、今回はあえて、自分がいちばん危惧しているところを歌いました。

 不時着と言ひ替へられて海さむし言葉の危機が時代の危機だ

 Post−truth他所事(よそごと)ならず無表情に衝突と言ひて去りゆく女人

 歌としては、1首目で言うと「海さむし」というところに思いがありました。海に墜落し大破したのになんで不時着なんだ。こんな言い換えに見られる、時代のある種の寒さ、恐ろしさをどこかで出したかった。海さむし、という一句でかろうじて詩になった感じがします。2首目でいえば、自衛隊が派遣された南スーダンの状況を「衝突」だ、戦闘ではないと平然と言い換えることの怖さです。

 文化というのは言葉です。言葉はたんなる手段ではない。言葉にたいする慎みを失ったらこれはどうしょうもない。私は公の場で政治的な発言をしてこなかったのですが、3年前から、憲法がどうにでも解釈されてしまうことにすごく危惧を感じて、少し発言をするようになりました。

 「ポスト・トゥルース」(ポスト真実)は、トランプ現象でもあり、イギリスのEU離脱にさいして起きた意図的な言い換えなどを指した世界的な言葉ですが、怖いのは、日本の国内という気がします。「他所事ならず」というのは、現在の日本がそうだし、実は戦前の日本もそうだったわけですね。

戦前に学ぶ

 われわれが戦前から学ぶべきものはなんだったのか。言葉の怖さだったと思うのです。「鬼畜米英」とか「八紘一宇」とか、軍の撤退を「転進」と言い換えるとか。時の軍部、政府が悪いけれど、それをそのまま流したジャーナリズムにも責任がある、それを受け取ってだんだん自分のマインドを変えていく民衆の側にも問題があった。私はそう思います。

 ―日本共産党の志位委員長が「ポスト真実」にふれて、安倍内閣の支持率をささえる公然としたうそと偽りを明らかにしました。(4日の党旗開きあいさつ)

 私たちは言葉の言い換えやうそにたいして、いかに敏感になっていられるか、批判的に見ることができるかということはもっとも大切なことです。繰り返し聞かされるとそれが既成事実化するので、おかしいことはおかしいと、そのつど言っていかなければなりません。

軍学共同の怖さ

9条もつ日本こそモデル

 大学での軍学共同の問題は、いま私がもっとも危惧している問題です。日本の基礎研究費はどんどん少なくなってきています。サイエンス(自然科学)の基本には、まだわかっていないことを知るということがあると思うのですが、いま役に立つか立たないかという「出口志向」に研究費が傾いてきています。

軍事研究に

 そういうときに、政府が軍事研究の予算(「安全保障技術研究推進制度」)を増やしている。16年度の6億円に比べて17年度は110億円、18倍にも増やされました。いまのところ直接人を殺す研究ではありませんが、やりはじめたら境界がなくなってしまう。大学が軍事研究をやりはじめるようになることが怖い。日本学術会議は、軍事研究は一切しないと宣言したはずなのですが、それもいま揺らごうとしているように見える。とんでもないことです。

 この問題でも言葉を大切に考えたいと思います。軍学共同などとは言っていないのですね。いろんな省庁の研究費の一つがたまたま防衛省から出ていて、それは必ずしも武器の研究ではない、もっと基礎的な研究でいい、それを防衛省が使うという位置付けですが、これが軍事研究になっていくことは火を見るよりも明らかです。

 ―基礎研究に予算を使うことでは、国民の理解が大事ですね。

いまの射程

 そうです。社会に役に立つ研究ということは当然です。ただし、いま役に立つというときの「いま」の射程がすごく短くなっている。私たちは役に立たない研究をしている気はまったくない。いまは役に立たないけれども30年、50年後には役立つかもしれない、そういう研究がないとサイエンスは枯渇してしまいます。

 私は湯川秀樹先生の講義を受けましたが、印象に残っているのは「いま役に立つことなんて10年、20年たったら役に立たなくなる。だから、いま役に立つことだけやっていたら、いつもいつも泥縄式の研究しかやれなくなる」という話です。それはサイエンスをほんとうにだめにします。

 日本は毎年ノーベル賞をとっていますが、いまの受賞は20年、30年前の仕事です。目先の役に立つことだけやっていたらノーベル賞級の研究者など、将来出てきませんよ。

 軍事予算を増やし「事あらば」というやり方は、過激組織ISのテロが広がり、欧州が難民問題で揺らいだり、極右が台頭することをみても破たんしています。こういう時代には9条を持った日本みたいな行き方、ジャパンモデルをこそ、政府が世界に訴えるべきです。それとまったく逆の動きをしていては先がありません。


見本紙 購読 ページの上にもどる
日本共産党 (c)日本共産党中央委員会 ご利用にあたって