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2016年12月31日(土)

相模原事件「再発防止」報告書

事件性の検証は不十分障害への偏見助長にも

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 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で障害者が多数殺傷された事件を受けて、再発防止策を論議していた厚生労働省の検討会が報告書を出しました。容疑者が措置入院の退院後に事件を起こしたことから、「自治体が措置入院中と退院後の医療などの継続的な支援を進めるしくみをつくる」などを打ち出しています。関係者はどう受け止めているのでしょうか。(西口友紀恵)


写真

(写真)事件直後から多くの人がやまゆり園を訪れ、献花台に花をささげました=7月28日、相模原市

関係者に聞く

 容疑者は現在、精神鑑定中です。事件と措置入院歴の因果関係は不明です。

 精神障害者の家族らでつくる全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)の小幡恭弘事務局長は「犯行に至る背景など事件性についての検証が不十分です。報告書によって精神疾患ゆえに起きた事件との印象を世間に広く発信してしまうことに強い危機感をもっている」と話します。

 検討会は、精神科の医師らを中心に構成。10月に障害者団体など9団体からヒアリングを行いました。参加した小幡さんによると各団体から共通して「精神科医療や措置入院の検証に偏っている」「障害がある人への偏見が助長されないようにすべきだ」という意見が出されたといいます。

 「再発防止策」の具体的な内容は▽すべての措置入院患者にたいし入院中から都道府県や政令市が、病院職員ら関係者が参加する「調整会議」を開いて退院後支援計画を作成し、退院後も支援する▽患者が引っ越した場合はその自治体に支援計画を引き継ぐ―などです。

「監視」を想起

 日本精神保健福祉士協会は、措置入院制度の見直しは他の入院制度や地域生活支援体制の整備と一体的に検討されるべきだと指摘。「今回の提案は自傷他害の恐れがなくなっても、後々まで患者を追跡する方策に近い。支援という名の『監視』を想起させる」として、「本人の意思に基づかない医療や福祉の拡大流用への反対」を表明しています。

 早稲田大学の田中英樹教授(精神保健福祉士)は、「精神科医療に社会防衛的な期待をかけすぎていないか。極端な思想に偏った人の犯罪は、『見守り』や治療の枠組みでは防ぎえない。再発防止には司法の領域や警察なども含め総合的な検討が欠かせない」と強調します。

新しい視点を

 報告書は、退院後の支援の全体調整を自治体に委ね、その中心となるのは保健所です。長年、保健所に勤務した田中さんは「保健所は統廃合で半分近くに減らされ、保健師は業務の変化と多忙化で地域への訪問活動なども難しくなっている」と指摘。「専門職の人員増や予算などの裏付けがなければ絵に描いた餅だ」と話します。

 「未曽有の事件に対しては、旧態依然の検討スタイルではなく、新しい視点や発想を取り入れなければならない」と提起するのは、代々木病院の精神科医の伊勢田堯さん。「時代遅れの隔離収容型の精神保健医療福祉体制からの脱却が必要です。専門家と当事者が対等な立場で政策や治療・支援方法を決めるようにし、精神科病院も生まれ変わらなければいけない。手続き論で終わってはならない」と主張します。


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