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2016年6月4日(土)

2016とくほう・特報

「1億総活躍」 現場からの批判

保育は人格の土台つくる仕事 “国基準 大幅底上げを”

安倍政権の賃上げ「低すぎ」

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 ゼロ歳から就学前まで子どもを保育し、仕事と子育ての両立を支える保育園。全産業平均に比べ月額10万円も低い保育士の賃金引き上げは待機児童対策に欠かせません。安倍政権が2日、「1億総活躍プラン」で提示したのはわずか月6000円の賃上げ。保育士の賃金はどうあるべきなのか、現場の声を聞きました。(武田恵子)


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(写真)メニューはドーナツ、バナナ、牛乳。うれしいおやつの時間です(写真はいずれも子すずめ保育園提供)

 茨城県龍ケ崎市に住む増田真澄さん(51)は隣県の千葉県松戸市にある私立の認可保育園で働く保育士です。園は朝7時から夕方7時までの開所時間にあわせて、早番(午前7時から午後3時半)、中番(同9時から5時半)、遅番(同10時半から7時)のシフトを組んでいます。早番の日、増田さんは朝5時半過ぎに自宅をでます。遅番の日の帰宅は8時半を過ぎます。

 同じ園に29年勤務し最初の9年は独身。「花嫁修業と思った就職先」が「生涯の仕事」へと変化したのは、子どもたちの笑顔に加え、働くママの面をあげた姿と子育てに協力的なパパとの出会いでした。

昇級11年目まで

 「でもね、正直いって保育士の賃金は低すぎる。もうやっていけないと思ったときがありました」。増田さんの賃金は額面で32万円弱。うち7万円余りが公私間格差を是正する市の独自の人件費補助です。合わせても手取りは24万円程度。「もう続けられないかも」と思ったのは、この補助の仕組みの見直しが提示された、昨年4月の政府による子ども・子育て支援新制度の実施時です。

 現場では市の人件費補助が大幅に減らされるのではないのか、不安が広がりました。関係者の運動があって今年度から復活し、昨年度についても手当てがされ、増田さんの「退職の不安」は、秘め事に終わりました。

 しかし、「保育士の賃金の国の基準そのものが低すぎる問題は全く解決していない。6000円では話にならない」と増田さん。

 保育士の低賃金は、国の基準によるものです。認可保育園の運営費(公定価格)を算出するさい、賃金の上昇分は勤続11年で止まります。「女性は結婚して家庭に入るもの、夫が稼ぎ、妻はこづかい程度に働く―。国の基準はこういう発想から抜け出ていない」と批判します。

 大学に通う2人の子どもの学費は合わせて年160万円。「子育ての出費がかさむ時期に昇給が止まる。保育士に必要な経験の積みかさねが無視されている」。増田さんは唇をかみしめます。

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(写真)1・2歳児とわらべうたを歌います

独自に人員配置

 勤務している認可保育園「子すずめ保育園」は、120人の定員に140人の子どもが利用しています。園長の伊藤未来さん(52)は、「国が公定価格を算出するさいに含まれる職員配置人数は17人ですが、現場で必要な保育士の人数は21人。他に朝と夕方にパートの保育士が2人」と説明します。給食の人員配置も国の基準は調理員2人ですが、園では栄養士2人、調理師1人の3人を置いています。「近年アレルギーのある子どもによりきめ細かな対応が必要になっています」

 国の基準では、現場の実態に合わないのです。本来必要な人員はわずかな市の加算で補っているのが現状です。

 園が努力しているのが、職員同士のコミュニケーション。園児の給食後、1時間の休憩が取れるようなシステムを作っています。「乳幼児期は、子どもの人格形成の基礎として大切な時期。保育士が安定して仕事ができるように国の基準の大幅な底上げが必要です」と伊藤さんは力を込めます。

目玉の“企業主導型”

命危うくしかねない

 「1億総活躍プラン」で、安倍政権が待機児童対策の目玉にしているのが、保育士の配置を減らす「企業主導型保育事業」です。認可外施設で、資格のある保育士は、保育に従事する人の半数いればよいとしています。社会保障にくわしい京都華頂大学教授の藤井伸(のぶ)生(お)さんは、「企業型保育の拡大は保育の質を下げ、子どもの命を危うくしかねない。待機児童対策は認可保育園を増やして対応すべきです」と指摘します。

 今年3月、東京の事業所内保育所(認可外施設)で死亡事故が起きました。1歳2カ月の子どもがうつぶせ寝で一人だけ部屋におかれ、犠牲になりました。

 内閣府によると、昨年1年間に保育施設の事故で亡くなった乳幼児は14人。うち認可外施設が9人。藤井さんによると、園児1人当たりの死亡事故の割合は、保育士が職員の3分の1でよいとされる認可外施設が認可保育所の54倍になるといいます。

 京都市内の保育所で非正規で働く北垣光代さんは、もともと正規の保育士として公立病院に併設された施設で34年間働いてきました。5年前、病院の独立行政法人化に伴い、保育所が民間委託され、会社は保育士を全員1年契約の非正規雇用にしました。4年後、委託先が変わり、北垣さんたちベテラン保育士の雇用が継続されませんでした。

 「保育士の労働条件の切り下げで犠牲になるのは子どもたち。国や自治体は率先して、公的保育を守るべきではないですか」。北垣さんは、全国福祉保育労働組合や京都医療労働組合連合会の仲間とともに保育と雇用を守れとたたかいを続けます。

野党の共同提案と日本共産党の緊急提言

 保育士不足を解消するため、共産、民進、生活、社民の野党4党は保育士の賃金を月額5万円引き上げる保育士処遇改善法案を衆院に共同提出しました。日本共産党は緊急提言で、野党4党案の成立とさらに毎年1万円ずつ上げて10万円の引き上げ、保育士配置基準の引き上げ、非正規職員の正規化で労働条件の改善を掲げています。


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