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2016年3月23日(水)

2016焦点・論点

保育園の待機児問題 解決に何が必要か

元帝京大学教授・保育研究所所長 村山 祐一 さん

安心して通える認可園の増設を 保育士確保へ国の基準改善こそ

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 「保育園落ちた」の匿名ブログが一つのきっかけになり、社会問題となっている保育所の待機児童問題。政府の政策や待機児問題と深くかかわる保育士の処遇の問題点について、元帝京大学教授の村山祐一氏(保育学)に聞きました。(若林明)


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むらやま・ゆういち 1942年生まれ。元帝京大学教授。保育研究所所長。『たのしい保育園に入りたい!』など著書多数。

 ―待機児童問題が起こる原因をどう見ていますか。

 政府が待機児童解消を政策に掲げてからすでに20年以上がたちます。しかし、問題は解決されず、むしろ深刻化しています。児童福祉法24条には、両親の就労などによって「保育を必要とする」状態にある乳幼児について、保護者が選択した保育所へ入所させ、保育を提供することを市町村に義務付けています。どこの保育所にするかの親の選択権も認められています。待機児童問題は法律に反した異常な状態です。

 待機児童問題は地域によって深刻さに差があります。大都市圏でもっとも深刻です。例えば東京都では、1995〜2013年に、認可保育所の普及率(保育該当年齢児童数に占める認可保育所利用者数の割合)は23・4%から31・2%に増えてきています。それでも全国平均の35%よりも低くなっています。人口増加、女性の社会進出にともなう保育需要の増加にくらべて、保育園を増やすペースが遅いのです。

地域の視点大事

 ―問題解決にむけての課題は。

 大事なことは、地域で子どもたちが安心して通える場所、安心して子どもを預けられる場所としての認可保育所をどの地域に何カ所つくるかという視点を持つことです。特に各地の小学校区との関連で保育所をどう位置づけるか、そして保育所にはどんな質が求められるかという中長期的な視点を持つことが必要です。国や一部の自治体には、この考え方が抜け落ちています。

 東京都内では、認可保育所に申し込んでも入所できない乳幼児が2万人を超える状況なのに、公立保育所の統廃合を進めている自治体が少なくありません。一部自治体は公立保育所を全廃しようとしています。待機児童解消にまったく逆行しています。公立の乳児の定員を増やすとか、増築するとかできることはあるはずです。

 4月入園を目前にして緊急の対応で保育所を増やす、定員を増やすことが必要です。すでに公立の園があるわけですからそこを充実させるべきです。

 これまで、国は「待機児ゼロ」など人数の目標を示し「規制緩和」を進めたため、一部自治体では子どもたちを、小規模でも何でも入ればいいという考え方も見られます。小規模保育施設は、3歳未満児のみが対象です。3歳になれば新たに保育所を探さないといけません。しかし、東京都などでは現在「3歳の壁」が問題になっていて、小規模施設に入っている子どもが入れるだけの保育所はありません。

 3歳児未満の待機児とその後の安定した保育を行うには、認可保育所をふやすことです。小規模保育所が不要というのではありませんが、やはり補助的な役割を担う施設です。

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(写真)街頭で待機児童解決を求める親=20日、新宿西口駅頭

国が人件費抑制

 ―保育所が増えない原因は「保育士不足」といわれていますが。

 いま保育所を増やすうえで最も大きな問題になっているのは、「保育士不足」です。

 「保育士不足」といいますが、保育士の資格を持った人はたくさんいます。処遇の悪さから保育士職が敬遠され、保育士の確保が困難になっているのです。地方自治体が、保育士の資格を持っていても保育士として働いていない人によびかけて研修を行うと、60人ぐらいが集まりますが、実際に就職が決まる人は3、4人という話です。原因は保育士の劣悪な処遇です。

 すでに政府も認めているように保育士の賃金は、平均年収で全産業の平均年収より166万円少ない、322万円と大変低い水準にあります。2000年以降十数年間、保育士の賃金はまったく改善されていません。

 国が教育・保育給付をおこなうために算定する費用額を公定価格といいます。国は公定価格に計算される保育士の給与の基準額を増やしていません。国自身が人件費を安く押さえて保育制度を運営しているといえます。

 労働の過酷さも保育士の確保が困難な理由です。保育士の義務となっている保育計画の作成や保育の準備、記録のまとめ、「園だより」の作成、打ち合わせ会議などの仕事の時間はカウントされていません。多くの保育士がサービス残業や持ち帰り残業を強いられています。

 幼稚園の場合、保育時間は4時間になっています。実際は6時間ぐらいやっていますが、少なくとも2、3時間は余裕があります。直接的な子どもへの対応以外の労働を基準額に反映しています。さらに保育士には完全週休2日制も夏休み等もきちんと保障されていません。保育所の労働が「きつい」というのは、こういう構造的なサービス残業を強いられるからです。

 保育士に専門職としてふさわしい条件を保障するためには財源保障が必要であり、その基準である公定価格の改善が必要です。

地域の核になる

 ―保育所をつくることは地域にとってどんな意味がありますか。

 保育所は地域をつくるという意識を若い親たちに芽生えさせる場所です。保育所に迎えにきたり行事にかかわる中で、親同士が友だちになったりしていきます。学校と同じように地域の核になりうるのが保育所です。

 健全な地域をつくっていくために、次世代を担う子どもたちが安心して乳幼児期を過ごし、小学校に入学していけるようになることが求められます。地域の住民がそういうイメージを持つことができれば、その地域にとどまって長く生活しようと考えます。

 「地域創生」だとか、「1億総活躍」を言うのであれば、保育士の処遇を改善し、認可保育園を中心にした信頼できる保育施設を増やすことです。


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