2016年2月19日(金)
きょうの潮流
業(ごう)病といわれながら懸命に生きた人たちを描かなければ―。宮崎駿監督は代表作の一つ「もののけ姫」をつくりながら、そんな思いに駆られていたといいます▼生きろと伝えたこのアニメ映画にはハンセン病患者を思わせる人びとが出てきます。宮崎さんは制作中、自宅近くの国立ハンセン病療養所多磨全生園を何度も訪問。衝撃を受けながら、「おろそかに生きてはいけない」と胸に。最近の講演で語っています▼かつて不治の病といわれ、たたりや天罰と恐れられたハンセン病。感染力は極めて弱く、戦後は薬で完治する病気になったにもかかわらず、20年前の「らい予防法」廃止まで国は強制隔離を続けました▼差別や偏見を助長し、社会に根付かせた国の誤った政策。一つ場所に閉じ込められた患者は断種や堕胎を強いられ、およそ人間の尊厳とはかけ離れた扱い。それは本人はもちろん、きずなを断ち切られた家族も苦しめてきました▼“うつるぞ、近寄るな、つきあうな。ハンセン病の家族がこの道を通ったから、別の道を行こう”。周りから忌み嫌われ、おびえながら生きてきた家族たち。その責任を国は認めよと、謝罪と損害賠償を求める集団訴訟を起こしました▼患者である親を憎んだ子。すでに離散し、声を上げられない家族も多い。そのなかで立ち上がった彼らは裁判を通して偏見や差別のない社会を訴えます。父親が患者だった原告の一人はいいます。「ずっと小さくなって生きてきたが、これからは隠れず生きていきたい」