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2016年2月4日(木)

2016 とくほう・特報

「要支援者外し」先行自治体で何が

サービス使えず重度化

介護保険“卒業”迫られ悲鳴

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 安倍自民・公明政権が2014年の国会で可決した「医療・介護総合法」にもとづき、要支援1、2の訪問介護と通所介護を保険から外し、市町村の「新総合事業」に丸投げする改悪が進んでいます。介護給付費の削減がねらいです。17年4月にはすべての自治体でスタートする予定ですが、先行自治体で矛盾があらわになっています。 (内藤真己子)


来春、全自治体で実施

三重・桑名市

 揖斐(いび)川の河口に面した三重県桑名市に1人で暮らすMさん(88)は要介護1。週5日通所介護に行っています。「おしゃべりして楽しいですよ。お風呂や送り迎えもあって、ありがたい」。ところがMさんは当初、通所介護を利用することができませんでした。

ボランティアで

 一昨年秋、初めて要支援1と認定されました。隣市から世話に通う長女は通所介護に行かせようと、市が委託する地域包括支援センターに相談に行きます。ところがセンターは「要支援者がすぐ通所介護を使うのは難しい」と言い、ボランティアによる「シルバーサロン」利用をすすめました。

 「パンフレットを渡されましたけど月1、2回だけなんです。送迎がないし使えないと思いました」と長女。介護サービスが利用できず3カ月が経過。引きこもったMさんの認知症が進みました。

 「このままではダメや」。自身も介護施設で働く長女は意を決し直接、通所介護事業所を訪ねて、事情を説明。ようやく利用につながりました。介護認定を受け直すと要介護1へ、2ランクも重くなっていました。「要支援と認定されているのにサービスを利用させないのはおかしい」。長女は憤ります。

自費利用が増加

 こんな「水際作戦」ともいえる事態を引き起こしているのが、同市で昨年4月から始まった新総合事業です。国から派遣された特命副市長が主導し、厚生労働省の指針に沿って計画されました。全国の自治体から視察が相次いでいます。

 そこでは「介護保険を『卒業』して地域活動に『デビュー』する」ことを目指した、「介護予防に資するケアマネジメント」が徹底されるのが特徴です。

 新規の要支援者が介護サービスを利用するには、市当局や介護関係者らが出席する「地域生活応援会議」での検討を経なければなりません。膨大な資料提出が必要で、ケアマネジャーや事業所には大きな負担です。ケアプランでは半年程度で介護サービスを「卒業」=中止し、ボランティアなどの「住民主体による支援」への移行が求められます。

 同市内にあるNPO法人・桑名の杜居宅介護支援事業所のケアマネジャー、中嶋恵子理事長(70)は証言します。「ケアプランで求められる介護サービスの目的が機能訓練に偏っています。訓練して介護サービスを『卒業』し『住民主体のサービス』に移行するよう厳しく点検されますが、実態にあいません」

 別の事業所のケアマネジャーが続けます。「受け皿となる『住民主体』のシルバーサロンは少ないです。入浴はおろか送迎すらないので通所介護の代わりになりません」。実際、市内の通所介護72カ所にたいし「住民主体」は28カ所。回数も月1、2回が現状です。そのため「月1万円払って週1回の通所介護を続けている」など、自費の介護サービス利用が増えています。

 同市はこれまでに28人が介護サービスを「卒業」したといいますが、その後の詳細は把握していません。住民主体サービスの担い手からは「認知症の要支援の方を受け入れましたが、無理でした。認知症や80歳以上の方は『卒業』の対象から外してほしい」と声があがります。

 総合事業実施から昨年11月までに同市の高齢者(65歳以上)が532人増えるなか、要支援・要介護の認定者は逆に201人も減りました。

 村瀬博三重短期大学非常勤講師は批判します。「『応援会議』のほか二重、三重の仕組みで要支援者が介護保険から排除されています。保険料を強制徴収しながらサービスを使わせない仕組みは保険原理にも反します。国家的詐欺といっていい」

図
(拡大図はこちら)

ヘルパー報酬23%減

「お話する時間もなくなった」

東京・国立市

写真

(写真)ヘルパーの岡田さんといっしょに掃除する93歳の栗田さん=東京都国立市

 東京郊外の国立市。1月中旬の朝、ホームヘルパーの岡田千奈美さんが雪道を自転車で急ぎます。都営住宅の3階で1人暮らしの栗田栄子さん(93)が待っていました。「お変わりありませんか」。健康状態を確認し掃除の準備をします。

 要支援1の栗田さんは週1回訪問介護を利用。「ヘルパーさんが掃除機をかけて、拭き掃除もしてくださるので助かっています」

 同市は昨年4月から要支援者の総合事業への移行を開始。「緩和した基準による訪問型サービス」を導入し、ヘルパーによる「生活援助」の時間を1回45分に15分短縮。報酬を23%カットしました。市内の全訪問介護事業所がこれに参入。総合事業の訪問介護の95%を占め、栗田さんも同サービスを受けています。

 たちまち40分が経過。「時間ですよ」、栗田さんがヘルパーの岡田さんに声をかけました。「お話しする時間がなくなりましたね」と栗田さん。岡田さんは実働時間が減り収入が落ちたと言います。

 ヘルパーを派遣する地域福祉サービス協会・コスモス国立の服部文恵管理者(63)は訴えます。「これまでヘルパーが要支援の方といっしょに家事をすることで重度化を防いできました。それなのに時間や単価を削るなんて『予算削減先にありき』。重度化する危険があります」

 総合事業への移行でコスモス国立の収益は減り、要支援者の受け入れを控えざるを得なくなっています。市当局も「『減収になる』と面と向かっていう事業者があることは否定できない」(高齢者支援課)と認めます。

 さらに同市は研修を受けた無資格者による生活援助を計画しています。報酬は49%減です。服部さんは言います。「今後認知症の方が急増します。生活が組み立てられなくなる初期の認知症の方に必要なのは、生活全体を見通すことができる有資格のヘルパーによる援助です。なくなれば地域で暮らせません」

安倍政権 要介護1・2外しも狙う

 自治体が介護サービスからの「卒業」や、基準緩和サービス導入に走るのは、国が総合事業費の伸び率を75歳以上の高齢者人口の伸び率(3〜4%)以内に抑え込むよう規制しているからです。2035年度には2600億円の介護給付費の大削減になります。

 改悪はこれにとどまりません。安倍政権は要介護1・2のサービスの保険外しまでねらっており、17年の通常国会への改悪案提出を計画しています。

 介護保険改悪に反対してきた大阪社会保障推進協議会の日下部雅喜介護保険対策委員は語ります。「さらなる改悪を止めるためにも国に総合事業の撤回を求めるとともに、自治体に『卒業』や『基準緩和サービス』の導入をさせないたたかいが大事です。国に総合事業費の上限撤廃を求めながら、当面、事業費が不足すれば自治体にも財源投入を迫っていく必要がある」


 要支援者の保険外し 介護保険の要介護認定は軽度な者から、要支援1、2、要介護1〜5に分かれます。改悪では、170万人の要支援者の5割以上が使う訪問介護と通所介護を保険から外し自治体に丸投げします。


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