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2015年12月26日(土)

日航、不当解雇から5年

パイロット不足 現場疲弊

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 日本航空でパイロットと客室乗務員の165人が不当に解雇された2010年12月31日から、まもなく5年となります。この間、日航は史上最高水準の利益を上げ続ける一方、職場では大量の自主退職者が発生して、労働者が疲弊を深めています。日航の職場実態と、空の安全を守るために争議解決を目指す労働組合や解雇撤回原告団(パイロット・山口宏弥団長、客室乗務員・内田妙子団長)の運動を追いました。 (田代正則)


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(写真)解雇争議解決を求めて座り込む日航労働者と支援者たち=8日、国土交通省前

 日本航空乗員組合には、勤務の過酷さを訴える組合員のパイロットの声が、2日に1回は届きます。これまで、国際線の長距離路線を往復したあとは、3日間休みになるか、最低でも2日間休んで3日目は午後からの出勤になっていました。時差ぼけや疲労を回復させるためです。

 ところが、「やむをえない場合」だけとされていた3日目の午前中から勤務を入れられる事例が相次ぎ、体調を整えるには厳しいといいます。

 日本航空の営業利益は、今年度上半期だけで1199億円にのぼり、通期見通しを1720億円から2040億円へと上方修正しました。解雇強行直後に記録した11年度の2049億円という史上最高益の更新を視野にいれた勢いです。

 利益だけをみれば絶好調の日航ですが、人員不足で足もとがゆらいでいます。

 夏のお盆時期は、多くの人が帰省や旅行で移動するため、航空会社にとって、かきいれ時です。ところが、日航の国内線臨時便は昨年8月8日〜17日は53便だったのに、今年8月7日〜16日はわずか4便にとどまりました。ライバル全日空が昨年同時期に55便、今年42便だったことをみても、極端な落ち込みです。

 日航の報告書によると、運航乗務員(パイロット)数は2015年3月末で1860人。解雇強行から今年6月末までに184人ものパイロットが他社に転職しました。中小航空会社をつくれる規模の退職者です。

 日航は、2020年東京オリンピックのオフィシャルパートナー企業となって、事業拡大を目指そうにも、目の前の運航維持が大変な実態です。

空の安全 ベテランの経験必要

解雇者の職場復帰 来年こそ

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(写真)客室乗務員の正社員化を実現した日に、2016年こそ解雇事件も解決しようと決意する日航労働者たち=15日、東京・日航本社前

 6月29日、日航の社内文書で、教官などを務める機長の教育・訓練業務や地上業務を削減するという通達が出されました。安全性向上に関わる教育訓練まで削減されました。

 前年を上回るペースで機長が自主退職し、このままでは多くのパイロットが年間乗務時間を超過する見通しになったため、教官も乗務に組み込もうという措置でした。

乗務時間ぎりぎり

 それでも年末には、年間乗務時間ぎりぎりのパイロットが多数にのぼります。

 日航では、パイロットは月95時間、年900時間(月あたり平均75時間)が乗務できる上限です。日航乗員組合によれば、主力機のボーイング777型機に乗務するパイロットで、役職についていない56人のうち、11月末までに、残りの乗務可能時間が95時間を下回ったのが34人(60・7%)、75時間を下回ったのが31人(55・3%)です。12月にはフルに乗務できません。

 11月、副操縦士から機長に昇格するステップである「見極め」を受ける予定が延期になった人が、乗員組合が把握しただけで5人いました。乗員組合は教官が足りないのではないかと会社に問い合わせています。

 日航は、14年からパイロット候補生の採用を始めましたが、訓練を終えて乗務可能になるまでに4〜5年かかります。

 30代の若手副操縦士がつぶやきます。「解雇されたベテランパイロットたちが戻ってきてくれれば、楽になるんですけど」

3人に1人が新人

 日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)は11月9日、植木義晴社長の出席した会社との年末交渉で、不安全事例の職場への情報開示が遅いことをただしました。

 航空の現場で安全トラブルや不手際が起こった場合、すばやく情報を職場に開示して教訓化することが、同様のトラブルを防いだり、速やかに対処することにつながります。CCUは、会社の情報開示が5月以降に滞っており、CCUが指摘してからやっと周知文書がでてくると批判しています。

 交渉で事例にあげたのは、乗客の座席に設置しているモニターから白煙が発生し、客室乗務員が消火器で消し止めた機内火災です。10月に起こり、情報開示までに1カ月かかりました。

 その文書では、火災現場で、客室乗務員が電源を遮断することに気づかなかったと対応を指摘しました。CCUは、そもそも火災対応を記述したマニュアルで、電源遮断についての記述が分かりにくいことを問題視し、マニュアルを改訂するよう会社に要請しました。

 50代の客室乗務員は「私たちやその上の解雇された世代は、火災のときには電源を切ることが身に染み付いています。3人に1人が新人になって、経験の伝承がうまくいっていないことも問題ではないでしょうか」と話します。

現場から悲鳴が…

 15年3月末時点で、客室乗務員は6200人です。2010年末の解雇強行後、すでに2300人を新規採用して、年間600人近くが退職していく悪循環です。先輩が新人を十分にみる余裕がない、勤務や休日がひんぱんに変更になる、など現場から悲鳴があがっています。

 日航乗員組合も10月21日の団体交渉で、客室乗務員やグランドハンドリング(空港周りの地上業務)などあらゆる職場で不安全事例が起きていることを指摘し、「どの職場も人が足りなくて大変だと言っている。安全に影響を及ぼしていると思わないのか」とただしました。人財本部長は「そういう職場があると思います」と認めざるを得ませんでした。

 CCUや日航乗員組合は、一致して、解雇者の職場復帰を議題とした協議を開始するよう、会社に要求しています。

安全優先の職場を

 日航解雇撤回裁判は、2月に解雇を有効とした東京高裁判決を確定させた上告不受理の不当な最高裁決定が出されました。しかし、4月、国会で塩崎恭久厚労相が「話し合いが行われるよう注視する」と発言。6月には、解雇の過程で会社管財人・企業再生支援機構の幹部が労働組合のストライキ権確立に向けた投票を妨害する不当労働行為が東京高裁判決で認定されました。

 11月、国際労働機関(ILO)から日本政府と日航に対して、復職協議を求める3度目の勧告が出されました。裁判所が、解雇時点にさかのぼって解雇無効の決定を出さなくても、経済的理由による整理解雇の場合は業績改善によって再雇用(職場復帰)させるというのがILOの国際労働基準です。

 12月15日、日航は、CCUが20年来要求してきた全客室乗務員の正社員化を行うと発表しました。2年前に正社員化した全日空との客室乗務員獲得競争で遅れないため、という理由もあります。それほど人員不足の解決が急がれています。

 日航解雇撤回原告団と労働組合、支援共闘会議は、2016年こそ解雇事件を解決し、安全最優先の日航を実現しようと決意しています。


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