2015年11月26日(木)
杭打ち偽装 コスト優先・安全軽視…
浮かび上がる業界体質
杭(くい)打ちデータ偽装問題をめぐり、建設行政の規制緩和を調べてみると、コスト優先のための安全軽視や業界の構造的体質が浮かびあがってきました。
現在、杭打ちの大臣認定工法は500件。建設現場の関係者は「現場の施工管理を軽くする制度だ。わけの分からぬ工法を使ったら確認が難しい。大臣認定された工法なら信頼できるとなる。工程を短縮するメリットがある」と話します。
大臣認定工法ではない工法は、現場ごとの載荷(さいか)試験が必要です。試験には多くの時間と費用がかかるため、ほとんどが自社試験です。
一方、2000年の建築基準法改悪では、杭の先端支持力係数を規定していた条項が廃止され、支持力(杭が支えることができる荷重)を自由に設定できるように緩和されました。大きな支持力を持つダイナウィング工法もその一つです。
杭の支持力を高め杭の強度を増し、杭の本数を減らし半径を小さくするなど、基礎躯体(くたい)工事全体における大幅なコストダウンを可能にしました。
建設当時はリーマン・ショックの直前で公共投資が減り、鋼材価格が暴騰するなど、建設業界は、投資減とコスト高の二重苦のなかで可能な限り大きな利益をあげることが求められていました。
前出の現場関係者は「大臣認定だと耐力確認とか書類作成が省略できる。省力化やコスト削減にもつながるが競争力も高まる。安全性をおろそかにしてまでやるものじゃない。国は業者を性善説的に見過ぎていないか」と警告します。
販売主・元請け 責任重大
杭打ち工事データ偽装の発端となった横浜市のマンションの販売主は三井不動産レジデンシャル、設計・施工・管理は三井住友建設。1次下請けの日立ハイテクノロジーズと2次下請けの旭化成建材が、基礎杭の工事を担当しました。
同マンション販売後、基礎杭の支持層(固い地盤)未達と支持層への根入れ不足が発覚。施工データにかかわるデータ偽装問題で、旭化成建材が非難の矢面に立ってきました。
建設業界の重層下請け構造も偽装発覚を困難にし責任の所在を不明確にしています。しかし、販売主、元請けの責任は重大です。三井不動産レジは同社ホームページで「建設における全ての工程において、施工会社などの検査だけにたよることのない、社員自らによる徹底したチェックを行っています」と徹底的な品質管理を掲げています。
6日に決算会見の場で謝罪した親会社の三井不動産。「どう現場にかかわっていたのか」との本紙の問い合わせに、「全部ではないが試験杭の立ち会いは行っている」「定められた資料を提出してもらいチェックしている」と答えました。
元請けの三井住友建設も11日、決算発表の席上、住民へのおわびを表明。一方で旭化成建材に対しては「信頼していたが、裏切られた」と強調しました。
そもそも横浜の地盤の最初のボーリング調査が不十分でした。支持層に届かないところは深さ16メートルでしたが、三井住友建設は、14メートルと想定していました。同社は「急激に(支持層が)へこんでいるだろうと思われる。想定できなかった」といい、ボーリング調査の数も公表しません。販売主、元請け、1次下請けに対して「きちんと説明の記者会見を開くべき」との声が上がっています。
1次下請けの日立ハイテクノロジーズは「工程の進ちょく確認、安全管理、元請け、2次下請けとの調整をしていた」とし「工事材料の商社なので工事はできない。工事のほうは旭化成建材にお願いしている」と話します。
旭化成建材が過去約10年間に手がけた3052件中、調査で確認できた2864件のうち、38都道府県の360件の施工データで偽装が判明し、かかわった現場代理人は61人。そのほとんどが杭打ち業者からの「出向」社員だといいます。
問われる行政
自治体の公共工事に携わる建設労働者は「元請けさんが最初から出てこないと。下請けの責任が広くなれば元請けがきちんと技術管理しないといけない。杭は直接見ることはできない。三井さんや日立さんの責任が一番問題だ」と話します。
販売主、元請け、下請けなどは原因と責任の究明をしっかりし全容を公表すべきです。同時に国民のいのちと安全を守るため、チェックすべき国土交通省など行政の責任も問われます。