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2015年2月3日(火)

日本人人質事件 政府の対応 検証を

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 過激組織「イスラム国」による湯川遥菜(はるな)さん、後藤健二さん2人の人質殺害事件は国内外に大きな衝撃を与えました。「イスラム国」は、日本人へのさらなるテロも予告しています。今後、同じような悲劇を繰り返さないためにも、日本政府の対応を冷静に検証することが必要です。(竹下岳)


図

昨年8、10月に把握

 湯川さんと後藤さんの殺害警告がインターネット上で確認されたのは、今年1月20日午後です。しかし、政府はすでに昨年、2人が拘束されていたことを把握していました。

 「イスラム国」関係者は昨年8月中旬、湯川さんをシリア北部アレッポで拘束したことを示す動画を流し、政府もこれを確認しています。安倍晋三首相は1月27日の衆院本会議の答弁で、昨年8月17日、官邸に情報連絡室を設置し、同年11月1日に後藤さんの件を連絡室に追加したと明らかにしました。また、菅義偉官房長官の説明によると、昨年10月末、後藤さんがシリア北部で行方不明になったとしています。(1月21日の記者会見)

 加えて、後藤さんの妻によれば、昨年11月から「イスラム国」によるとみられる脅迫メールが繰り返し送られていました。

 つまり、「イスラム国」による日本人人質事件は、昨年から数カ月にわたって続いていたのです。このことから、殺害警告が出された1月20日以降だけでなく、昨年8月中旬以降の全過程について、政府がどう対応したのか検証の対象にする必要があります。

「人命第一」だったか

 安倍晋三首相は殺害警告が出された1月20日、「人命第一」で対応するよう指示しました。しかし、昨年8月以降の対応を見ると、本当に「人命第一」だったのか、疑問が浮かび上がってきます。

 まず、政府は湯川さんが「イスラム国」に拘束された疑いを持っていながら、9月以降、米軍など「有志連合」による「イスラム国」への空爆への理解を繰り返し表明してきたことです。

 米軍が空爆を開始した昨年8月から9月にかけて、「イスラム国」は対抗措置として、米国人、英国人の人質を相次いで殺害しています。その最中に日本政府が空爆を後押しすれば、湯川さんらにも危害が及ぶ可能性は当然想定されたはずです。

「人道支援」といえるか

 さらに重大なのは、2人の拘束情報を把握していながら、安倍首相が今年1月16日から21日まで中東訪問に踏み切り、「イスラム国」への対抗姿勢を強調したことです。

 首相は1月17日、カイロで行った中東政策演説で「地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISIL(イスラム国)とたたかう周辺各国に総額で2億ドル程度、支援を約束します」と表明しました。

 「イスラム国」による後藤さん、湯川さん殺害警告の映像が確認されたのは、その3日後となる1月20日です。犯行声明では、首相の“2億ドル支援”を「イスラム国」攻撃のための戦費ととらえ、同額の2億ドルを2人の人質の身代金として要求しています。

 犯行声明が出された日、安倍首相は、パレスチナへの残虐行為を繰り返し、イスラム教徒を敵に回しているイスラエルに滞在していました。「イスラム国」は、このタイミングをとらえて首相演説を殺害警告の口実に用いたことは明らかです。

 首相は殺害警告後の記者会見で、2億ドルは「人道支援」だと説明しました。しかし、カイロ演説の該当部分に「人道支援」の文言は見当たりません。それどころか、「ISILの脅威を食い止めるため」だと述べています。(別項)

 これは、「人道支援」に関する国際原則に反します。外務省も「国際的に、人道支援の基本原則は、(1)人道原則(2)公平原則(3)中立原則(4)独立原則の4つが主であり、我が国もこれらの基本原則を尊重しつつ人道支援を実施しています」(同省ウェブサイト)と説明しており、「イスラム国」とたたかう国々への支援を「人道支援」だというのなら、政府方針にも反します。

 イスラム法学者の中田考・同志社大学元教授は、「イスラム国と周辺国との戦闘で発生した避難民への支援を本気で行うのなら、赤新月社(イスラム教国の赤十字社)を通じて行うべきだ」と指摘しています(1月22日、外国特派員協会での記者会見)。

不用意な対応

 これ以外にも、後藤さん、湯川さんが拘束されている最中に、「イスラム国」が米国などと同様に敵視しているイスラエルとの軍事協力強化(1月19日の共同報道発表)を打ち出すなど、不用意といわざるを得ない対応が見られます。これら全体をしっかり、検証すべきです。

 首相は2日の参院予算委員会で、一連の中東訪問について、「テロリストの意思をいちいち忖度(そんたく)しない」と釈明しました。これはあまりにも乱暴な発言といわざるをえません。


1月17日の安倍首相演説(抜粋)

 イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILとたたかう周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。


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