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2014年10月17日(金)

2014 焦点・論点

温暖化対策COP21への課題

気候ネットワーク理事 平田仁子さん

政治的機運つくった国連サミット 日本政府の対応遅れ はっきり

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 国連本部で122カ国の首脳が参加して開かれた気候変動サミット(9月23日)は、温暖化ガスの二大排出国である米国と中国が2020年以降の枠組みづくりに意欲を示すなど、この問題を改めて国際政治の重要課題に押し上げる機会となりました。気候変動問題の国際交渉にくわしい気候ネットワーク理事の平田仁子さんに、今回のサミットの特徴と日本の抱える課題について聞きました。(聞き手・山沢猛)


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(写真)気候ネットワーク理事 平田仁子さん 撮影・佐藤光信

 ひらた・きみこ 1970年熊本県生まれ。98年から気候ネットワークに参加、同東京事務所長など歴任。現在、同理事。国際環境NGOのネットワーク・CAN(気候行動ネットワーク)理事。東京都環境審議会委員。編著に『原発も温暖化もない未来を創る』(コモンズ)など。

 ―日本のNGO(非政府組織)では唯一招待されて首脳会議を傍聴しました。全体の感想はどうですか。

 私がこれまで参加した気候変動の国際会議のなかで、もっとも前向きな雰囲気の会議でした。まず直前に、ニューヨークでの40万人を含む世界で50万人以上の一斉デモ「気候マーチ」に見られるように国際世論のうねりが起きたことです。それを受ける形で各国首脳が気候変動の問題を深刻だと受けとめて行動しようというメッセージを発しました。

 このサミットが前向きな政治的機運をつくったことは、温暖化ガス削減の新たな国際目標の合意をめざす来年12月のパリの会議(COP21)にむけて、ものすごく重要なことだったと思います。

特別の責任負う

 ―米国と中国が排出量削減で踏み込んだ発言をしたことが話題を呼びました。

 そうです。オバマ米大統領は自身の国連演説の直前に、中国代表の張高麗副首相と話し合い、「アメリカと中国という世界の二大排出国・経済国が特別の責任を負っている」ということを確認しあったとスピーチしました。これは非常に重要なシグナルです。

 これまでは「他の国がやらないから、われわれもやらない」という押し付け合いが続いてきました。それに対し「われわれこそがやらなくてはならない」というメッセージを二大排出国が出したのです。

 米国はさらに、来年の早い時期に自分たちの削減目標を出すといいました。一方、中国は経済成長とともに温暖化ガスの排出量が急速に増えているわけですが、今回公式には初めて、それをどこかで頭打ちにする、ピーク(最高)の年を発表するといいました。頭打ちとは排出の絶対量でどこかで削減に持っていくことを意味します。

 米中両国は、各国の約束の提示期限である来年3月までにそれぞれの削減目標を出すことを表明したのです。


写真

(写真)地球温暖化を止める対策を求めてデモ行進する人たち=9月21日、ニューヨーク(島田峰隆撮影)

ほぼ「ゼロ回答」

 ―安倍首相が出席しましたが、日本政府の態度はどうでしたか。

 安倍首相のスピーチはほぼ「ゼロ回答」です。自らが削減する心積もりはきちんと語られませんでした。

 一方、欧州連合(EU)はこれまで域内で着々と準備していて、40%削減の案を提示しています。

 日本の出遅れ感はあきらかで、これらの国とのギャップは誰の目にもはっきりと映りました。

 もう一つ注目されたのが、途上国の気候変動対策を支援するための基金「緑の気候基金」(グリーン・クライメット・ファンド、GCF)に複数の先進国から拠出表明が続いたことです。フランスを皮切りに資金供与の額が示され、韓国やメキシコなどかなりの国が表明しました。

 途上国支援のために2020年以降、毎年10兆円の資金を確保することを合意しています。資金問題は、途上国を含めた行動を引き起こす仕組みを機能させるために重要なものですから、前向きな動きでした。

 途上国には技術やインフラ面でやろうとしても十分な準備がありません。支援がないと自力ではむずかしいので、先進国の責任として十分な額の資金を拠出することが期待されています。

 しかし、安倍首相は演説で、基金への拠出は今後検討とのべ先送りすることを表明しました。「途上国支援」といいながらここでも中身はからっぽです。

図

 ―足元の国内でも動きがないのが日本ということですか。

 残念ながらそのとおりです。歴代の首相の所信表明等の中で気候変動・温暖化対策に関する発言をチェックしているのですが、第2次安倍政権になってからサミットに至るまで、気候変動問題には全く言及がありません。

 その背景には、アベノミクスで経済浮揚最優先のやり方をとっており、そのなかで電力、鉄鋼、化学、セメントなどエネルギー多消費産業を中心にした成長を今もなお柱にしていることがあります。経団連をはじめ産業界や経産省には、持続可能な新しい産業を本格的に育て産業構造を転換することへの抵抗感が強くあります。この状況を打開していくには、今の政治のあり方を変えることが必要だと思います。

リスク知る体制

 ―気候変動の影響をどうみていますか。日本の対応はどうあるべきでしょうか。

 認識する必要があるのは、将来の話ではなく、今生きている私たちがその影響を目にするところまで来ていることです。熱波、熱中症、デング熱とか、台風の強大化、集中豪雨、土砂災害、農漁業への影響などなどです。

 今日本で必要なのは、それらを気候変動のリスクとしてきちんと認識する仕組みだと思います。日本にとって気候変動のリスクが何なのか、どんな影響を及ぼすのかを、個別の事象にバラバラに対応するのではなく全体として把握する体制、制度が必要です。イギリスや米国では、リスクを把握する法律があり、地球規模での気候の変化が自国にもたらすリスクについて評価しています。

 こうした仕組みがあれば、日本にとっての気候変動のリスクが系統的にわかり、政府が横断的に対応する必要があることが把握できます。国内にも研究者は多くいるので、政治が踏み出せば実現する条件は十分にあります。

 ―政府は、原発が温暖化対策に有力だといって再稼働の理由にしていますが。

図

▲大口約140事業所が日本全体の半分の温暖化ガスを排出

 原発は気候変動対策には役に立ちません。実際に、原発事故の前までは温室効果ガスが増え続けてきました。それだけでなく原発推進が最優先にされてきたために、これまで再生可能エネルギーの普及も省エネ対策も二の次にされてきました。政府・財界や原子力ムラの人たちは再生エネ・省エネを回避する口実に、原発推進を使ってきたのです。

 原発は人間にとってリスクが大きく選択すべき技術ではありません。それを福島事故で身をもって知ったのですから、同じ過ちを繰り返してはなりません。

 日本は世界で5番目の排出国ですが、まるで「鎖国」をしているように、情報や問題意識が世界と共有されていません。世界共通の大きな危機に国際協力をして立ち向かわなければなりません。来年3月までに、排出量の削減と途上国の支援で具体的な目標・方針を示していく責任があります。


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