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2014年9月13日(土)

2014 焦点・論点

籾井会長の罷免求める元職員に聞く

NHKは政府広報じゃない

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 NHKの役割を理解していない籾井(もみい)勝人会長に対し、退職者1500人以上が罷免を求めています(8月21日に記者会見)。特に問われたのが政権との関係。会見では、公共放送を政府の宣伝機関とみなすかのような会長発言に怒りが噴出しました。NHKでアナウンサーと記者を務めた2人に聞きました。


職責理解しない発言

元社会部記者・盛岡放送局長 大治 浩之輔さん

写真

(写真) おおはる・こうのすけ 1962年入局。67年社会部。ロッキード事件など政治腐敗事件と公害環境問題を柱に取材。水俣病事件は81年まで継続取材、ドキュメンタリー「埋もれた報告」(76年)は芸術祭大賞。90年盛岡放送局長。92年定年退職。99年までNHK出版・編集局長。NPO法人マスコミ市民理事長。

 報道の基本は、事実を伝えるのが第一の役割です。第二の役割は事実についての多角的な検証です。放送の場合は公共の電波を使っているため、論説に関して政治的公平性が求められますが、公平=中立ではありません。緻密な取材と論理で組み立てれば、十分な問題提起ができます。

報道の責務とは

 籾井会長は「政府が右と言ったら左と言うわけにいかない」と言った。事実の伝達としてはその通りです。しかし検証の結果、異なる事実や疑問が出てきたら、当然それを伝えるのが報道の責務です。ところが籾井会長は、特定秘密保護法について「決まったからしょうがない」とのべ、検証という考えがない。

 放送法第1条は「放送の不偏不党」「表現の自由の確保」をうたい、「健全な民主主義の発達に資する」ことが「放送に携わる者の職責」だと言っている。NHKが政府の広報機関であるかのような発言はこの職責を理解していない。NHKトップの資格はありません。

 私は1935年生まれ。終戦時は10歳で、「撃ちてしやまん(敵を滅ぼすまで攻撃し続ける)」の軍国少年でした。それだけに8月15日の敗戦は、少年ながら衝撃を持って受け止めました。

 中1で『あたらしい憲法のはなし』を読み、平和主義、民主主義の“新憲法感覚”が心にしみこみました。NHKに入局してからも、内心で“ジャーナリストは人権闘争の戦士だ”と思っていた。それは時代の共通感覚でした。

 私は72年から水俣病を取材してきました。化学工業会社チッソによる海の水銀汚染が原因でしたが、政府による対策も被害の調査もありませんでした。

 行政文書を基に経緯を調べ、元熊本県知事や厚生省の元局長を追いかけ、取材を積み重ねた結果、行政の怠慢が被害を広げたことを明らかにしました。76年にドキュメンタリーを放送した後、水俣病患者による国家賠償訴訟が提起されました。

 憲法に民主主義とあっても、紙の上に書かれているだけでは意味がない。水俣病の被害者は自ら立ち上がりたたかうことで人権回復の道を切り開いた。言論・表現の自由もしかりです。

 現場の感覚で言うと、会長が誰であろうと番組づくりへの姿勢は変わりません。8月のドキュメンタリーや連続テレビ小説では戦争の悲惨さが描かれました。ただ、会長が言論表現の自由をしっかりと理解し「自分たちの味方だ」と信頼できるときと、「識見もなく信頼できない」と感じるときでは、当然、現場への影響は違います。

国民世論に目を

 もう一つ、日本の政治ジャーナリズムは「政局報道」だという批判があります。例えば、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認。国会レベルでは安倍首相が支配しているように見えるかもしれない。しかし、この問題には安倍政権対国民世論という重大側面があって、政局レベルとは次元の違う強い政権批判が沸騰しています。政治家取材専門の政治記者は、気をつけないとそこを見失ってしまう。

 現場は一枚岩というわけではない。甲論乙駁(こうろんおつばく)があります。だからこそ、番組に対する批判、激励、共感、視聴者の声を届けてほしい。市民とのつながりをNHKに求める運動が必要で、放送に関心を持って反応することが最初の一歩だと思います。

 (聞き手・和田肇)

 (写真・後藤淳)


現役の声を代弁して

元アナウンサー 村上 信夫さん

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(写真) むらかみ・のぶお 1953年生まれ。元エグゼクティブアナウンサー。2001年から11年にわたり「ラジオビタミン」「鎌田實いのちの対話」などでNHKラジオの「声」として活躍。現在は全国で講演、月刊『清流』での対談をおこなう。ホームページhttp//murakaminobuo.com

 2年半前にNHKを退職してから、前の会社のことをとやかく言うのは避けてきました。悪口みたいなものですから、言いたくなかったのです。

黙っていられぬ

 情けないですよね、前にいた会社のトップに「辞めてください」と退職した人間が言うのは。でも黙っていられなくなりました。

 NHKにいた時は、「偏らない」ことを教えられてきたのです。情報を均等に伝えて、あとは視聴者に判断を求めてきたはずなのに、今回の会長の発言はなんなのってことです。「政府が右と言ったら左と言うわけにいかない」では、大本営発表・大政翼賛になってしまいます。ただでさえ世の中がそういう風潮になりつつあるのに…。

 会長には、自分が「公」の人だということを考えてもらわないといけません。何も考えずに乱暴な言葉で、ぼくらが学んできたことと全然違うことを就任会見で言うのを聞いていると、事前にNHKのことを何も調べていないように思えます。

 今回の辞任要求賛同者には、多岐にわたる番組作りの分野で志を持って番組を作ってきた人の名前があがっています。「見過ごさない」という人が多くいてうれしくなりました。そこで山根基世元アナウンス室長に連絡したら、協力を求められて辞任を求める記者会見に出席の運びとなりました。

 私が声を上げたのは講演会での反応が大きかったこともあります。

 籾井会長の発言をめぐって「今のNHKはちょっと気にかかりますよね」と話したら、すごい拍手が起きました。私一人の思いでなかったのだと確信しました。視聴者も、NHKへの期待感があったからこそ失望していたのです。

スタッフの抵抗

 職員で会長と同じ考えの人は皆無だと思いますよ。ロッキード事件関連番組お蔵入りの時には、日放労(NHK労組)が立ち上がって72時間の言論ストをやりましたが、今現場はそういう状況ではない。1977年にNHKに入った時は、嬉(うれ)しく楽しく番組を作っていました。今はおおらかさがなくなってきているように感じます。でも声を上げないと何も始まらない。現役職員が伝えられない思いをぼくらが代弁しているんです。

 朝ドラ「花子とアン」に、政府、軍部が当時のNHKラジオで戦意高揚のために雄たけびを上げる場面がありましたね。ああいうことがまた起こるかもしれないと思うとすごく怖い。「正しくない情報を伝えることはもうあってはならない」と考える制作スタッフのささやかな抵抗かもしれません。

 集団的自衛権も秘密保護法も、いいと思っている人は自分の周りに一人もいません。反対反対と声高に言うのではなく、講演会などで、平和をテーマにした絵本や詩を意識的に紹介するようにしています。

 今、「ことばを武器にではなく、楽器にする方法を伝授」をキャッチフレーズに、全国各地で言葉の大切さを「ことば磨き塾」や講演で伝えています。35年間NHKで培ってきた言葉で、社会にお返しするのが使命だと感じて始めました。

 二宮尊徳がいう「積小為大(せきしょういだい)」のように、小さなことを積み重ねなければ大きなことはできない。水に石を投げれば波紋が広がるように。

 (聞き手・森保和史)

 (写真・吉武克郎)


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