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2014年7月28日(月)

2014 とくほう・特報

新薬試験 カネがゆがめた

不正論文使い販売急増

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 日本での患者数が4000万人以上と推計される高血圧症の治療薬をめぐって、研究者に組織的に働きかけ自社の製品が優れているかのように臨床試験結果を都合よく宣伝に利用する不正が相次ぎ発覚しました。国民の保険料と税金である医療費を食い物にした不正が起きた構図をたどってみました。

  (矢野昌弘)


降圧剤バブルに群がる製薬企業

 問題の二つの薬は、武田薬品工業「ブロプレス」とノバルティスファーマ社「ディオバン」。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB剤)という同じ系統の降圧剤です。7製品が競合し、売り上げ1位がブロプレスで、2位がディオバンです。

 ARB剤は、近年、日本の医療用医薬品市場で5000億円超を売り上げてきました。ARB剤が登場した1998年以降、製薬業界は“ARBバブル”といえる様相を呈してきました。

図

 “バブル”の“種”は「類似薬効比較方式」という薬価の仕組み()の一つです。

 この方式は、例えば新製品Bに保険薬価をつける場合、すでに販売中の同じ効果のAの1日あたりの薬価を参考にします。1日に3錠服用するAの1錠あたりの薬価は100円。1日当たりの薬価は300円になります。Bは1日2錠の服用でいいので、1錠あたり150円になります。

 ある社の新製品に高い薬価がつけば、4、5番手と遅れた他社にも、高い薬価が約束されるため類似薬を出していきます。ひとたび高薬価がつけば、企業が群がる構図です。

 さらに、新薬の特許期間中は、安価な後発医薬品(ジェネリック)が参入できません。高薬価の独占市場が保障されているのです。

 薬剤師で薬価問題に詳しい全日本民医連の東久保隆理事は、こう指摘します。

 「高い薬価が保障されているから、“営業力”で、医師と病院を囲い込めば“ぬれ手でアワ”で儲(もう)かる仕組み。特許期間にいかに儲けるかとなり、行き過ぎた売り込みを生みがちになる」

糖尿病定義変え有利な結果導く

図

 高値・独占市場にあるARB剤の“バブル”は、臨床試験の“成果”を使った宣伝で、さらにふくれあがりました。

 99年に販売開始した武田のブロプレスは、京都大学が2001年から高血圧症患者約4700人を対象に「CASE―J」試験を行いました。

 試験は、当時の降圧剤市場で大きなシェアがあった「カルシウム拮抗薬」と比較して、脳卒中などの予防効果を調べたもの。

 ところが、当初のデータ解析では、ブロプレスに有利な結果が出ません。

 そこで武田と京大は、糖尿病の予防効果があるとする結果を導くために、糖尿病の新規発症について、どういった事例を数えるか定義を変更しました。

 定義を変えて、有利な結果を得た武田は「糖尿病の新規発症は、(ブロプレスで)発症リスクが36%低下した」とする結果を06年に発表したのです。

 さらに武田は、正式な論文で使わなかった試験データを宣伝に使用。あたかも他の製品より脳卒中などの予防効果が優れているように見えるグラフを用いました。

 こうした宣伝や論文によって、ブロプレスの売り上げは、07年度に前年度比6%増の1371億円と押し上げました。

 一方、ノバ社のディオバンの国内販売は2000年からです。

 武田を追うように、ノバ社は02年から東京慈恵会医科大学で臨床試験を開始。その後、滋賀医大や京都府立医大、千葉大、名古屋大も続きました。

 ディオバンの03年度の売り上げは、580億円。ところが、慈恵医大が英医学誌『ランセット』に論文を掲載した07年度に、前年の20%増の1000億円を売り上げます。

 ARB剤は、こうした試験の“誇大成果”を使った宣伝で、日本での高血圧治療の主流薬におどり出たのです。

 しかし、昨年5月、京都府立医大の臨床試験で、ノバ社の元社員がデータを不正に操作したことが発覚。名古屋大を除く4大学が論文を撤回する事態となりました。今年6月、元社員が薬事法違反での逮捕にまで発展しました。

ひも付き寄付で企業の意向反映

 ディオバンの事件では、臨床試験を行った5大学に、ノバ社が総額11億3290万円の寄付をしたことが問題になりました。

 京大は臨床試験に関連して、武田から37億5000万円の寄付を受けていました。

 同社の調査報告でも「武田薬品の寄付は、実質的には試験と紐(ひも)ついており、…武田薬品の意向が反映され、あるいは、受け入れられやすくなる素地を作った」と指摘。公正であるはずの試験がゆがめられたことを認めています。

 薬害オンブズパースン会議事務局長の水口真寿美(みなぐちますみ)弁護士は「武田の報告書でも、医師主導で行う臨床試験の独立性が明らかに損なわれていたことがわかります。『お金を出したのだから、企業が中身に関与するのが当然』といわんばかり。この問題の本質的な深刻さを大学も製薬業界もどれだけ受け止めているのか」と指摘します。

グラフ

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