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2014年6月27日(金)

神戸製鋼 「鉄鋼現場」の危機

重大事故3週で5件 死亡も

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 日本の産業の土台を支える鉄鋼業。1970年代から始まる採用抑制、バブル崩壊によるリストラで、いま安全・技術の継承が困難に陥っています。リストラの果てに、日本の「ものづくり力」が根底から揺らぎ始めています。


写真

(写真)神戸製鋼神戸製鉄所(峯松進撮影)

 5月7日、夜勤の疲労がピークに達する午前5時20分。神戸製鋼(神鋼)・神戸製鉄所で、21歳の青年労働者が一人で作業中に、作動する機械に体がはさまれる重大事故が発生。20日に息を引き取りました。

安全を犠牲

 そのわずか11日前、同じ職場で61歳の再雇用のベテランが機械の間に胸をはさまれて肋(ろっ)骨(こつ)が砕けて肺が損傷するという悲惨な事故がありました。これらを含め、鉄鋼事業部門で4月16日からの3週間で5件の重大災害が連続しています。

 神鋼は5月8日、鉄鋼事業部門安全非常事態宣言をだします。5月21日には、川崎博也社長が「災害連鎖の流れを断ち切る、実効性のある活動を展開するよう強く要請します」との声明を発表。青年労働者らに動揺と不安が広がり、退職者も出始めています。

 短期間に重大災害が連続する原因はどこにあるのでしょうか。

 一つは、安全対策の根本的な欠陥です。

 あるベテラン労働者は指摘します。「会社は、個人の注意力アップをよびかけますが、危険を危険と思えない労働者もいる。また人間はどんなに注意をしてもミスをするものです。事故を防止する設備対応が不可欠です」

 生産現場では、労働者が危険区域に入った場合、設備が自動的にストップするなど「フェールセーフ」「フールプルーフ」と呼ばれる安全設備・対策があります。しかし神鋼は、これまで重大事故が発生しても、「不安全行動の撲滅」を強調するだけで、これらコストがかかる安全対策を実施してきませんでした。

「止めるな」

 もう一つが、生産性向上が追求される過酷な実態です。現場では不良休止時間が大きな問題になっています。

 製鉄所のある工程では、複数の班が共同で一つの製造ラインを管理。ラインの一部で設備や操業のトラブルが発生すれば、復旧までライン全体の生産が休止します。この時間が不良休止時間です。

 不良休止時間は、神鋼加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の2013年上期で、月409時間と前期より悪化。神戸製鉄所では上期191時間で、前期76時間から2・5倍になりました。加古川製鉄所の不良休止時間の損失は約100億円とも指摘されます。

 会社が、不良休止時間の削減に躍起になり、「生産を止めるな」という圧力で、機械の停止をためらう雰囲気が広がっています。

 安全性も生産性も脅かされる背景には、新規採用抑制、80〜90年代のリストラでつくられた「M字型」年齢構成があります。

「M字型」にゆがんだ年齢構成

図

 グラフを見てください。神戸製鋼のある現場の勤続年数分布です。若手とベテランの人員構成が高く、中堅層が低くなる「M字型」を構成しています。

 「M字型」年齢構成がもたらしている問題とはどういうものか。

 神鋼のあるベテラン労働者は語ります。「現場では、15年かかってやっと自分の仕事がこなせるようになる。しかしベテランが減り、中堅層が少ないため、勤続10年未満の労働者が監督の最前線に立っています。そのためトラブルが起きてもすぐに解決できない。若い労働者に仕事を教える余裕もなく、安全や技術の伝承ができなくなっています」

 鉄は「産業の米」ともいわれ、建築や造船などに使われる厚板、自動車のボディーや家電などに使われる薄板、自動車のボルトや軸、バネなどに使われる線材など、各産業の材料を製造しています。

 神鋼は、高級鋼線材を得意とし、自動車のばね用線材で世界市場の約50%を占めています。阪神・淡路大震災で生産が休止したときには、世界の自動車産業が震え上がったといわれました。

 その線材を中心に、品質不良が増大しています。社内の品質検査で不良を見抜けず、納品した自動車メーカーから“基準に満たない”と、返却される事例まであるといいます。

 「かつて現場には品質を維持できる熟練労働者が多く、設備トラブルが起きたときにはすぐに対応できる技術者もいました。しかし、80〜90年代のリストラで、人減らしが強行され一人作業が増え、食事も満足にとれないほど忙しくなりました。熟練労働者が次々と出向させられ、現場からいなくなりました。その間、新規採用が抑制されたため、現在の年齢構成になりました。いま現場が劣化しています」(ベテラン労働者)

機械止まっても原因わからず

 とりわけ大きな影響を与えたのは人減らしのために設備保全の仕事が外注化されたことです。鉄鋼は有数の機械装置産業です。その設備に関する技術が社内に蓄積されなくなり、設備トラブルへの対応力が大きく落ちました。機械が停止しても原因がわからず、修復に手間取るということが常態化しています。この問題は、現場労働者が設備の特性や動きを十分に理解せず、危険を認識しきれずに作業に従事するという安全問題にも直結しています。

 リストラとあわせて、暗い影を落としているのが、「管理監督者」に適用される成果主義賃金制度の導入です。

 生産性を指標とする「成果」で賃金が決まるため、労働者が競争に追い立てられ、安全より生産優先を助長。また青年労働者には仕事が十分に教えられず、失敗をすれば個人の責任が追及されるという事態が横行しています。

 ここに追い打ちをかけるように、ベテラン労働者の退職時期が迫っています。

 加えて、60歳の定年退職後の継続雇用制度では、同じ仕事であっても賃金が半分以下になるため、ベテランの意欲を奪っています。あるベテラン労働者は、「必要不可欠の要員として現役と同じ交替勤務をしているが、体力的にきつい。同じ仕事なのに、賃金が半分になれば会社に残ることはできない」と話します。

「曲がり角」他社経営トップも

 「M字型」年齢構造の問題は、神鋼だけの問題ではありません。

 「効率化を追求する経営は曲がり角にきているのではないか。効率を犠牲にしてでも人材を育てる、技術を高めることが経営に求められている」

 「鉄鋼新聞」(3月25日付)によれば、JFEスチールの林田英治社長が3月、日本鉄鋼協会の特別講演会でこう語っています。

 あわせて、林田社長は、「現業系の監督者の急速な若返りが今の一番の課題」と指摘。設備保全について「コスト低減のために外注化を進めてきたが、JFEからの出向社員が退職するなど外注先でも世代交代が進んでいる」として、「(外注化を)少し逆戻りさせなければならないのではないか」と語ったとしています。

 生産性をあげながら、安全性を維持するためには、雇用、労働条件の改善が切実に求められています。

 しかし、安倍政権は「雇用改革」として、労働者派遣法の大改悪、「残業代ゼロ」「過労死促進」の「新しい労働時間制度」への改悪、解雇しやすく低賃金の「限定正社員」制度の導入などをねらっています。これらは、労働者を「使い捨て」にし、生産性、安全性、労働条件のすべてを根本から破壊するものです。

 鉄鋼生産という危険と隣り合わせの職場で、品質と安全を守っているのは、日夜額に汗して働く現場の労働者一人ひとりです。働く人を大切にすることこそ、経済成長と産業発展につながります。

 神鋼では、労働者が「安全を考える会」を発足させ、安全性の向上にむけた運動を始めています。現場労働者が安全・安心で働くことができる賃金・労働条件の確立が求められています。 (行沢寛史)


企業自らを弱体化

桜美林大学教授の吉田三千雄さん

 戦後日本鉄鋼業は日本経済の「発展」に基軸的な役割を果たし、かつて粗鋼生産において世界第1位の座にありました。今日でも高級鋼材を中心に高い輸出競争力を保有しているといえます。

 しかし1970年代後半以降は、内需低落のもと過剰生産能力の保有の中で、労働者削減を中心とする厳しい合理化と系列・下請け企業を巻き込んだコスト削減策の連続でした。

 「バブル」崩壊後、大規模高炉企業は今日の熟練労働者不足につながる正規従業員の大幅削減と、JFEスチール、新日鉄住金の成立という企業再編を進展させ、重大労災事故も頻発させました。

 経営者は「安全の基本動作ができていない」と労災事故の責任を労働者に転嫁するのではなく、事故に遭遇しやすい生産現場には、熟練労働の形成と継承を可能とするような計画的な正規労働者の配置をすべきです。短期的な利潤を求めた労働者削減は、長期的には自らの存立要因を弱体化させるでしょう。

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