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2013年5月31日(金)

「無国籍企業」のために国民に犠牲強いるのは筋違いです

神戸女学院大学名誉教授 内田 樹さんに聞く

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 安倍政権の経済政策「アベノミクス」と多国籍企業やナショナリズムについて、神戸女学院大学名誉教授の内田樹(うちだたつる)さんに聞きました。 聞き手 渡辺健


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(写真)うちだ・たつる 1950年生まれ。専門はフランス現代思想。合気道7段の武道家。「朝日」5月8日付のオピニオン欄への寄稿「壊れゆく日本という国」で「『企業利益は国の利益』国民に犠牲を迫る詭弁(きべん) 政権与党が後押し」と論じ話題に。日本共産党の志位和夫委員長も第7回中央委員会総会の結語で紹介。

危険すぎる「アベノミクス」

 私は経済の専門家ではありませんが、「アベノミクス」の先行きは暗いと思います。国民に「景気がよくなった」と思わせて株を買わせる、消費行動に走らせる。「景気がよくなる」と国民が信じれば景気がよくなるという人間心理に頼った政策です。実体経済は少しもよくなったわけではありません。賃金も上がらないし、企業は設備投資を手控えたままです。

 「アベノミクス」に限らず、世界経済は今あまりに変数が増えすぎている。ヘッジファンド(投機的基金)などによる投機的なふるまいで、株が乱高下し、為替が変動し、通貨危機になる。市場における投資家の行動は予測不能です。彼らは市場が荒れ、大きな値動きをするときに利益を上げる。彼らは経済活動の安定より、急成長や急落を好ましいと思っている。だから、そうなるように仕掛けてきます。

 「アベノミクス」はそういう投資家の射幸心(しゃこうしん)に乗って、意図的にバブルを引き起こそうとしているハイリスクな政策です。自分たちでコントロールできないプレーヤーに一国の経済を委ねてしまうことに私は強い不安を感じます。

「日本の企業」と名乗るが…

 それに「アベノミクス」は国際競争力のあるセクターに資源を集中して、グローバル化した企業が世界市場でトップシェアを獲得することに全国民が貢献すべきだという考え方をしています。企業の収益を上げるために国民はどこまで犠牲を払えるのかを問いつめてきている。しかし、国民は企業の収益増のためにそれほどの負担に耐える必要があるのか。グローバル化した企業はもはや「無国籍企業」であって「日本の企業」ではありません。

 アップルの租税回避が問題になりました。740億ドルという海外の売り上げをアイルランドの子会社に移して、アメリカへの納税を回避したことをとがめられて、米上院の公聴会にCEO(最高経営責任者)が召喚されました。

 多国籍企業は、最も人件費が安いところで人を雇い、最も製造コストの安いところ、公害規制のゆるいところで操業して、法人税率が一番低いところで納税する。企業の論理からすれば、きわめて合理的で当然のことです。

 しかし、そのグローバル企業の経営者たちが、国民国家に対して企業に都合のいいように、国民国家の制度を改変せよと要求するのは筋違いです。金もうけするのは、彼らの自由です。勝手にやってくださって構わない。けれど、自分たちは「日本の企業」であるから、国民国家の成員たちは企業活動を支援しなければならないという言い分は通りません。教育政策やエネルギー政策や果ては外交や財政や憲法にまで「無国籍」の集団が口出しするのはことの筋目が違います。

 国民に向かっては「あなたがたはグローバル企業のためにどれほどの犠牲を払う覚悟があるのか」と詰め寄るくせに、自分たちの企業利益を国民国家に還流することについては、何も約束しない。

 こんな不条理がまかり通るのは、そういう企業体が「日本の企業」だと名乗り、あたかも日本を代表して、中国や韓国と経済戦争をたたかっているかのような外見を作り出して、それを国民に信じ込ませているからです。

 実際には、大飯原発再稼働のときに明らかになったように、グローバル企業は、人件費が高い、電力料金が高い、法人税率が高いと文句をつけて、要求が通らなければ「海外に生産拠点を移す」と脅しています。その理由が「経済戦争に勝つために」です。でも、実際にたたかっているのは国同士ではなく、民間企業です。経営者も株主も従業員も日本人ではなく、生産拠点も日本ではなく、納税先も日本ではない企業を国民が支援する理由はありません。だから、グローバル企業は「日本の企業」という偽りの名乗りを手放さないのです。

利用されるナショナリズム

 先の総選挙では維新の会は「最低賃金制度の廃止」を公約に掲げました(批判を受けてすぐに引っ込めましたが)。大阪の最低賃金は時給800円です。橋下代表はこれを廃止すれば雇用が増える。3人で分ければ雇用が3倍になると述べました。800円を3人で割れば時給270円です。たしかにそこまで賃金を下げれば、人件費コスト競争で中国やインドネシアにも勝てるかもしれません。グローバル企業が「雇用の創出」と言っているのは要するに日本人労働者の賃金をアジアの途上国並みに下げろということです。日本の労働者が貧困化することは、長期的には内需の崩壊を招くわけですけれど、短期的には企業の収益を高める。

 多国籍企業と国民国家は今や利益相反しています。この論理矛盾を糊塗(こと)するためにナショナリズムが道具的に利用されている。安倍自民党がことさらに中国・韓国との対立感情を煽(あお)っているのは、無国籍産業がそれを要請しているからです。国同士の経済戦争で命がけでたたかっているのだという「ストーリー」を信じ込ませれば、国民は低賃金に耐え、消費税増税に耐え、TPP(環太平洋連携協定)による第1次産業の崩壊に耐え、原発のリスクに耐えるからです。

 共産党に期待することは、マルクスの教えのもっとも本質的なところ、すなわち「ものごとを根底的にとらえる」という意味でラディカルな政党であってほしいということです。私たちが前にしている歴史的変化は前代未聞のものであり、教条で処理できる範囲を超えています。真にラディカルな知性しか対応することはできないでしょう。


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