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2013年4月19日(金)

席を立つべきTPP屈辱交渉

東京大学大学院教授 鈴木宣弘さんに聞く

米国巨大企業の利益のため国の仕組み売り飛ばすのか

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 日本の環太平洋連携協定(TPP)交渉参加をめぐり、日米両政府は事前協議で合意しました。米政権が日本の交渉参加を議会に通告し、議会が承認するかどうかへと移ります。この局面で、TPP問題をどうみるか。東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘(のぶひろ)教授(農学博士)に聞きました。 聞き手 渡辺 健


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 日米の事前協議の合意は、屈辱的なものでした。米国の要求を一方的にのまされ、日本は何も得られませんでした。

「入場料」段階で無茶苦茶な話が

 BSE(牛海綿状脳症)対策としての米国産牛肉の輸入規制は、すでにあっさり緩和されました。日本はさらに緩和しようとしています。

 自動車は、米国の業界を納得させるために、米韓FTA(自由貿易協定)より米国の自動車業界に有利なものにすることで合意しました。自動車での米韓の関税問題を例に、日本がTPPに参加しないと、韓国との競争に不利だ、負けると、日本の政府や財界・自動車業界は宣伝してきました。ところが、韓国との競争条件を同じにすることを拒否されたわけです。日本にとって、メリット(利点)はなく、なんのためにTPPに参加するのか。前提が崩れてしまいました。

 保険では、日本郵政のかんぽ生命が、がん保険などの新規商品を提供することを凍結しました。がん保険は、アフラックなど米国系保険会社が日本市場で圧倒的なシェア(市場占有率)を占めています。その圧力です。

 郵政の民営化を求め、その実現は規制緩和として歓迎しながら、自社と競合する部分に参入するのは、ビジネスの邪魔だから、やめろという。無茶苦茶(むちゃくちゃ)な話です。

 TPP交渉参加の「入場料」「頭金」の段階で、これです。安倍首相がいってきた「国益を守る」「守るべきものは守る」実績など、どこにもありません。

さらなる譲歩と「非関税」問題も

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 これは第一段階にすぎません。日米事前協議の合意を受け、米政府は議会に、日本のTPP交渉参加について通告し承認を求めます。90日間以上議論する“90日間ルール”にもとづいて結論を出す議会承認をめぐって、さらに、日本は譲歩を迫られることになりかねません。

 米国の自動車関連議員は、日米協議の合意についても“こんなものでは日本の参加を承認できない”と反発しています。日本の自動車輸入関税はすでにゼロですが、“日本で米国の車が売れない”“閉鎖的だ”と問題にしています。米国の農業、畜産業界は、日本への輸出拡大のチャンスだとみて、日本に「関税ゼロ」を迫り続けています。

 さらに重大なことは、今回の合意で、TPP交渉と並行して日米間で「非関税措置」に取り組むことを決めたことです。この交渉は、日本がTPP交渉に参加した時点でスタートし、TPP交渉の妥結までに決着させると期限を切りました。米国がこの間、日本に迫ってきた「非関税障壁の撤廃」を一気に日本にのませる筋道をつけたわけです。食品添加物、農薬、検疫など食の安全にかかわる問題、医療問題、政府調達などあらゆる分野がテーマになってきます。

 TPPの本交渉とセットで、日米間の「懸案事項」をかたづけないとだめですよと確約させられたわけです。

 米国にとってTPPの目的は、自国の巨大企業の利益確保です。そのために、日本など他国のルール変更を加速させ完結させることです。

 自動車でも保険でもそうですが、たんに規制を緩和する、対等に競争できるようにするというだけでなく、米国の企業に都合がいいようにルールを変えてしまおうというのが、米国です。この身勝手な米国にしっぽをふって、国の仕組みを売り飛ばしていいのでしょうか。

怒りをきちんと表に出す大切さ

 その一方で、日本が重要品目としている農産物などを「聖域」扱いし、「国益を守る」保証などどこにもありません。日米合意では、TPP参加国首脳が表明した「TPPの輪郭(アウトライン)」で示された「包括的で高い水準の協定を達成していく」ことを確認したと改めて強調しています。「高い水準」とは、関税も非関税障壁も撤廃するということです。これで「国益」が守れるはずがありません。

 「守るべきもの」も守れず、TPP交渉に入る前から、身ぐるみはがされ、本交渉に入ったら、すでに決まったものは丸のみさせられる。それですまずに、並行して日米間交渉で米国の「非関税」要求を“一気のみ”させられる。こんな屈辱的な交渉は、席を立つべきです。

 全国紙の世論調査でTPP交渉参加に賛成が多数の場合でも、中身をみると、日本農業への悪影響や食の安全については強い懸念や不安が示されています。各県ごとの世論調査をみると、怒りや懸念の声が反映されています。地方議会では反対の意見書が広がっています。各県ごとのTPP影響調査は地域経済への深刻な打撃を映し出していますが、実際にはもっと深刻な影響が予想され、いま試算を急いでいます。

 醍醐聰(だいごさとし)さん(東大名誉教授)や私も呼びかけ人に名を連ねた全国大学教員有志による「TPP参加交渉からの即時脱退を求める要望書」への賛同は私の予想を超える規模で急速に広がっています。怒りをきちんと、形にして表に出すことが大切です。

 先の衆院選挙では、自民党候補の多くがTPP交渉参加「反対」を公約して当選しました。参院選で、TPP問題をうやむやにしては、とりかえしがつかないことになります。共産党さんが、怒りの受け皿となるよう、もっと大きくなってほしいと思います。


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