2012年8月6日(月)
再稼働狙う伊方原発
「福島は人ごとじゃない」
事故への不安 口々に
愛媛 伊方町民の思い
関西電力大飯原発(福井県おおい町)に続き、再稼働が狙われる四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)。7月のある日、同町の町民に再稼働をどう受け止めるかを聞きました。迷わず賛成の人はわずかで、反対の声が少なくありません。ほとんどの町民が口にしたのは、事故への不安と、安全の願いでした。(細川豊史)
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漁船やボートが静かに揺れる伊方港。どこにでもありそうなのどかな光景とは対照的に、港のすぐ前には7階建の豪華な町役場庁舎が。向かいの生涯学習センターの入り口には「電源立地地域対策交付金施設」の銘板が埋め込まれています。
「賛成」でも複雑
港で遊漁船を整備していた男性(70)は、「絶対に事故のないようにしてもらいたい。でも、絶対というのはないわいな。人間のすることやけん」。一緒にいた友人の男性(70)も、「電力が足りるなら、止めておくにこしたことはない。みんなわかってるやろ。事故が起きたら住めんようになる」と話しました。
ベビーカーに小さな女の子を乗せていた女性(37)は「夫が町役場勤務なので『反対』とは言えません。みんな仕事とかいろんな立場があって簡単に賛成、反対と言えないのでは。事故の不安はあります。賛成と言う人も不安なのは同じじゃないですか」と話します。
再稼働に賛成だという人も複雑な心境をのぞかせます。
夫が伊方原発で働いている女性(52)は、悩ましそうに語りました。「あれだけの事故(東京電力福島第1原発事故)があったから、対策をしっかりして稼働というのが一番いい。何も変わらずに稼働というのはいけないと思います。地域のためには共存していくしかないのか…複雑です」
「安全性」を強調
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四電は、町民に「原発は安全」との宣伝を続けてきました。伊方原発の総務広報部が毎月発行する広報誌「伊方だより」の6月号では、町民の不安に応える形で「伊方発電所の岩盤は非常に堅固である」と「安全性」を強調しています。
町内を歩いていた女性(74)は「原発は動かしたほうがいい。みんな仕事がなくて困っている。民宿も。伊方原発はしっかりした岩盤の上に建ってるから。活断層? そんなこと言ってたら何もできない」。
保育園に息子を迎えに来た男性(33)も「OK、賛成です。不安は不安だけど、対策されていると思うから」と話します。
しかし、内閣府の有識者検討会は、東海から九州にかけての太平洋側海底に横たわる「南海トラフ」で従来の想定を上回るM(マグニチュード)9・0規模の地震の可能性があるとの見方を示し、伊方原発の耐震性は見直しを迫られています。四国4県などの住民が加わる「伊方原発をとめる会」は、同原発6キロ沖合の活断層の存在と南海地震の影響を指摘し、再稼働の中止を求めています。
命に換えられぬ
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町民からは再稼働反対の声も聞かれました。
ある高齢女性は声をひそめて「本心は、原発はないほうがいいと思います。子や孫のことを考えると…。野田首相が『責任を持つ』といっても、何かあったら責任がとれるわけがない」と語りました。
5歳の息子と4歳の娘を持つ女性(26)=パート=も「再稼働してほしくないです。たとえ電気代が高くなったとしても命には換えられません。『安全』といっても、福島の事故で、もうわからないじゃないですか」と話しました。
「私はノーです! 福島を見たら」ときっぱり言ったのは、合併前の旧瀬戸町地域の女性(70)です。「今までは安全ですよ、大丈夫と言ってきた。それは神話でしたよね。地元の活性化というけど、ほかのことで町が成り立っていくようにしないと」
「率直にいって反対。不安です。1号機はかなり古いので廃炉にしてほしい」と語ったのは、5歳の息子を持つ女性(43)です。「南海地震もいつ起きるかわからないですし。天災というのは予想外のことが起きる。福島は人ごとじゃないですよ。原発じゃなくて、太陽光とか風力とかに力を入れてほしい」