2012年1月8日(日)
人権侵害のピノチェト時代
教科書から「独裁」削除 チリ政府
「悲劇を矮小化」批判次々
【メキシコ市=菅原啓】チリのピニェラ中道右派政権は5日、ピノチェト軍政(1973年〜90年)を「独裁政権」と表現してきた学校教科書の記述を削除する決定を発表しました。同国では、軍政下の拷問・暗殺など人権侵害を追及する裁判闘争が次々起こされており、今回の決定には強い反発の声が上がっています。
ベジェル教育相の発表によると、決定が行われたのは、昨年12月9日の全国教育評議会の場でした。ブルネル前教育相(12月末に辞任)が、ピノチェト「独裁」の記述を「もっと一般的にすべきだ」と主張。小学6年生用の歴史教科書でこれまで使用されてきた「独裁政権」を改め、「軍事政権」という言葉を使うことを提案し、評議会として承認されました。
しかし、この決定は公表されず、5日のベジェル教育相の会見で初めて明らかにされました。
ピノチェト政権下では、軍隊や秘密警察の弾圧によって、3万人以上の人々が暗殺、行方不明、拷問などの犠牲となりました。民政復帰後の中道左派政権の時代に作られた現行教科書ではこの政権を「軍事独裁」と規定してきました。
ベジェル教育相は、見解を押し付けるものではなく、教師は「独裁」という表現を使うことも自由だと釈明しましたが、人権団体や弾圧被害者家族らは、独裁下での悲劇を「矮小(わいしょう)化するものだ」と非難の声明を発表しています。
野党・民主主義党のキンタナ上院教育委員長は、「チリの社会に右翼的な見解を刻みつけようとするものだ」とのべ、記述変更を撤回するよう要求。チリ共産党のグティエレス下院議員は、「歴史を愚弄(ぐろう)し、ピノチェトの独裁政治を肌身で知覚している人々を愚弄するものだ」と批判しました。
ピノチェト政権の「業績」を評価する右派政治家の多くは、今回の決定を歓迎。しかし、ピニェラ大統領の出身政党・国民改進党のルビラル下院議員は、「世界中どこでも独裁は独裁だ」とのべ、今回の措置に疑問を呈しています。
ピノチェト独裁政権 選挙で誕生したチリのアジェンデ大統領の人民連合政府(1970〜73年)をクーデターで倒して成立した軍事政権。米国の支援を受けたピノチェト政権は、90年の民政復帰までの17年間、反対勢力を徹底的に弾圧。経済政策に新自由主義を取り入れた結果、国内の製造業は壊滅し、失業率が上昇、貧困人口が激増しました。








