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2020年4月5日(日)

改定綱領学習講座(3)

改定綱領が開いた「新たな視野」〈3〉

志位委員長の講義

3月22日付

 一、綱領一部改定の全体像――党大会の結語での理論的整理

 二、中国に対する綱領上の規定の見直しについて

3月29日付

 三、植民地体制の崩壊を「構造変化」の中心にすえ、21世紀の希望ある流れを明記した

(本日付)

 四、資本主義と社会主義の比較論から解放され、本来の社会主義の魅力を示すことが可能に

12日付予定

 五、社会主義革命の世界的展望にかかわるマルクス、エンゲルスの立場が押し出せるように

四、資本主義と社会主義の比較論から解放され、本来の社会主義の魅力を示すことが可能に

 講義の第4章に進みます。

 中国に対する綱領上の規定の見直しが開いた「新たな視野」の第二は、資本主義と社会主義の比較論から解放されて、21世紀の世界資本主義の矛盾そのものを正面からとらえ、この体制を乗り越える本当の社会主義の展望を、よりすっきりした形で示すことができるようになったことであります。

改定前の綱領の立場――資本主義との比較論、「先駆性」の発揮への期待

 すでにお話ししてきたように、改定前の綱領は、資本主義と社会主義との「二つの体制の共存」という世界論・時代論に立っていました。そういう立場に立つ以上、社会主義をめざす党として、資本主義と社会主義の比較論が必要になってきます。

2014年の第26回党大会――「いやおうなしに対比が試される」

 2014年の第26回党大会決議では、「“社会主義をめざす国ぐに”が、社会の発展段階ではなお途上国に属しながらも、世界の政治と経済に占める比重は、年々大きくなるもとで、いやおうなしに資本主義国との対比が試されるようになっている」と指摘して、次のように表明しました。

 「『人民が主人公』という精神が現実の社会生活、政治生活にどれだけ生きているか。

 経済政策の上で人民の生活の向上がどれだけ優先的な課題になっているか。

 人権と自由の拡大にむけて、自身が認めた国際規範にそくした努力がされているか。

 国際活動で覇権主義を許さない世界秩序の確立にどれだけ真剣に取り組んでいるか。

 核兵器廃絶、地球温暖化などの人類的課題の解決にどれだけ積極的役割を果たしているか。

 ……私たちは、これらの問題について、中国やベトナム、キューバが、資本主義国との対比において、『社会主義をめざす新しい探究が開始』された国ならではの先駆性を発揮することを、心から願うものである」

中国における深刻な格差の広がり――比較論から解放された意義は大きい

 しかし、中国について言いますと、ここであげたほとんどの問題で、何らの先駆性も示されませんでした。むしろ深刻なゆがみや逆行が進みました。

 それはすでに詳しくお話しした覇権主義や人権と自由の問題だけではありません。格差の広がりも深刻であります。

 OECD(経済協力開発機構)のデータにもとづく「世界のジニ係数 国別ランキング」という国際比較があります。

 ジニ係数というのは、格差をあらわす指数で、0から1までの値をとり、0に近づくほど格差が小さくなり、1に近づくほど格差が大きくなるという指数ですが、直近のデータによると、中国のジニ係数は、所得再分配後で0・51と世界でワースト2位となっています(1位は南アフリカ)。格差拡大が大問題になっているアメリカでジニ係数は0・39です。日本でも格差拡大は社会の一大問題ですがジニ係数は0・34です。これよりもはるかに格差が大きくなっている。

 国連は、社会騒乱多発の警戒ラインを、ジニ係数で0・4に設定しています。これを超えると社会の騒乱とか暴動などが起こりやすくなる。中国では、それよりもはるかに大きな格差が生じてしまっています。

 この間、中国は、GDP(国内総生産)を急成長させ、絶対的貧困人口は大きく削減しましたが、同時に、目のくらむような格差社会をつくりだしているのです。中国にはアジア一の超富裕層が出現しています。日本を超える超富裕層が出現している。同時に、農村を中心に、なお膨大な貧困人口を抱えています。

 いくら途上国の段階に属しているとはいえ、こういう国を“社会主義をめざす国”とみなしますと、「中国に比べれば欧米のほうがまし」ともなって、資本主義の矛盾が見えづらくなるということにもなりました。また、社会主義の本当の魅力も見えづらいという結果にもなりました。

 今回の綱領一部改定によって、このような比較論から解放された意義は大きいと思います。この改定によって世界資本主義の矛盾を、あれこれの体制との比較を考慮することなしに、正面からとらえることができるようになり、その害悪がよりすっきりと見えるようになりました。そして、資本主義を乗り越える社会として、社会主義の展望、魅力が大いに語りやすくなったと思います。

格差拡大――資本主義を乗り越えた社会への模索、社会主義への希望が広がっている

 そのことをいくつかの具体的な問題で考えてみたいと思います。

 改定綱領は、世界資本主義の諸矛盾をさまざまな角度から指摘したうえで、「貧富の格差の世界的規模での空前の拡大」、「地球的規模でさまざまな災厄をもたらしつつある気候変動」の二つを、世界的な矛盾の焦点として特記しました。

 この二つの大問題は、人類の死活にかかわる緊急の課題であり、資本主義の枠内でもその是正・抑制を求める最大の取り組みが強く求められています。

 同時に、改定綱領がのべているように、これらは、「資本主義体制が二一世紀に生き残る資格を問う問題」――資本主義というシステムをこのまま続けていいのか、その是非が問われる問題となっています。

「アメリカでは、若い世代の約70%が『社会主義者』に投票したい!」

 まず貧富の格差の拡大について考えてみましょう。

 大会の綱領報告では、アメリカの大手世論調査会社の調査結果で、米国では、共通して、若い世代を中心に社会主義への肯定的見方が広がっていることを紹介しました。その根本には、貧富の格差の空前の広がりがあります。

 米国の大手メディア『ビジネス・インサイダー』(2019年11月7日号)は、「アメリカでは、若い世代の約70%が『社会主義者』に投票したい! その背景にある5つの経済的な現実」と題する論文を掲載しています。

 この論文では、大手世論調査会社「YouGov」が実施した最近の世論調査で、ミレニアル世代――今年25~39歳の世代の実に70%、今年25歳以下の世代の64%が、社会主義的な政策を訴える候補者に投票するだろうという考えを持っていることが明らかになったとして、その背景として五つの要素をあげています。

 ――若い世代の年収は、1974年以降、29ドル(約3200円)しか伸びていない。

 ――大学の授業料は、1980年代以降、2倍以上になっている。

 ――住宅価格は、40年前より40%近く高い。

 ――医療費は、1960年比で9倍(インフレ調整済み)に高騰している。

 ――ミレニアル世代の半数以上がクレジットカード債務を抱えている。

 若い世代が、格差拡大の最大の被害者になっているのです。この世代にとって資本主義とは、格差と不公平の代名詞になっています。他方、社会主義とは、そうしたゆがみをただして平等で公正な社会をめざすものとして広く受け入れられつつあるのであります。

 ソ連崩壊ははるか過去のものとなり、その「しがらみ」からも解放されて、世界最大の資本主義国アメリカで、「社会主義」の新しい形での「復権」が起こっていることは、注目すべき出来事ではないでしょうか。

国連開発計画(UNDP)の報告書――「再分配を越える措置が必要」

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(写真)国連開発計画が発表した「21世紀の人間開発格差」と題する報告書(2019年12月)

 いま一つ、紹介したいのは、国連開発計画(UNDP)が2019年12月に発表した「21世紀の人間開発格差」と題する報告書です。この「報告書の骨子」の注目すべき指摘を引用したいと思います。(下線・引用者)

 「私たちの社会、経済、政治では、格差が深く根を下ろしています。多くの人々の生涯は、出生地や親の所得で決まってしまいます。格差は早いうちから表れ、拡大し、世代間で引き継がれることもあります。しかし、対策は可能です。ただしそのためには、再分配を越える措置が必要となります」

 ここで「再分配を越える措置が必要」と言っていることは注目されます。ケインズ主義など修正資本主義といわれる立場があります。この立場は、累進課税――所得の多いものに累進的に課税を行う、あるいは社会保障を充実するなど、所得の再分配の強化によって格差を縮小する、そのことによって資本主義の問題点を「修正」していくことを主張しています。しかし、それだけでは不十分だということが、ここに書いてあるわけです。それを「越える措置が必要だ」とあるわけです。

 この報告書の「日本語概要版」では、格差を是正するにはどうしたらいいかと問いかけて、「所得再分配は、……(格差是正の)特効薬的措置とみなされることがある」が、「包括的再分配のパッケージを導入したとしても、1970年代後半から2013年にかけて英国でみられたような所得格差の拡大を完全に逆転させることはできないだろう」とのべ、格差是正は、「さらに幅広く体系的な政策アプローチがなければ実現しない」とのべています。

 修正資本主義が主張してきた政策手段――所得再分配だけでは格差拡大を止めることはできない。これは、「資本主義の限界」を、国連がその文書のなかで認めたということだと思います。それではどうやって問題を解決するか。この報告書には、その道筋が明瞭に描かれているとはいえません。

 ただ、分配のあり方の改革だけで格差の是正ができないとなれば、生産のあり方の改革にまで踏み込む必要が出てくるでしょう。そういう意味で、資本主義を越える改革の必要性に事実上つながる指摘として、私は、注目して読みました。

 世界的な規模の貧富の格差の拡大のもと、さまざまな形で「資本主義の限界」が語られ、資本主義を乗り越えた社会への模索、社会主義への希望が広がっていることは、きわめて重要ではないでしょうか。

気候変動――“社会のあらゆる側面で、前例のないシステム移行が必要”(IPCC)

 いま一つ、地球規模の気候変動の問題はどうでしょうか。

 私は、8中総の提案報告でも、大会の綱領報告でも、この問題がもはや先送りが許されない非常事態――「気候危機」に陥っているということをのべました。産業革命前に比べて世界の平均気温上昇を「1・5℃以内」に抑えることは、人類共通の死活的な急務となっています。

「2100年 未来の天気予報」――文字通りの「気候危機」に直面している

 かりに有効な対策をとらないとどうなるか。環境省は、2019年7月8日、「2100年 未来の天気予報」をウェブサイトで公開しました。それを見ると、「このまま有効な対策を執らずに地球温暖化が進行すると、2000年頃からの平均気温が最大4・8℃上昇すると予測されています」として、「産業革命以前からの気温上昇を1・5℃に抑える目標を達成した2100年と、その目標を達成できなかった2100年の天気予報」を、それぞれの夏、冬について作成しています。

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(写真)パネル1 産業革命以前からの気温上昇を1.5℃に抑える目標を達成できなかった2100年夏の日本各地の最高気温を示した環境省の「2100年未来の天気予報」

 「2100年 未来の天気予報」のデータを環境省に求めたところ、データを送ってきてくれまして、今日はそれをパネルにしてもってまいりました。

 (パネル1)これが、「1・5℃未達成」――最大4・8℃上昇した場合の「2100年夏の天気予報」です。いつものNHKの天気予報と同じ格好で書いてありますが、夏の最高気温は、東京43・3℃、札幌40・5℃、名古屋44・1℃、大阪42・7℃、福岡41・9℃など、沖縄以外の日本列島はまるごと40℃以上となっています。とてもこれでは生きていけません。熱中症など熱ストレスによる国内死亡者数が1万5千人を超えるという予測も出しています。灼熱(しゃくねつ)地獄になってしまうという「天気予報」です。

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(写真)パネル2 「1.5℃目標」未達成の2100年夏の台風の予測図を示した環境省の「2100年未来の天気予報」。大きさは、日本の半分くらいがすっぽり入る巨大な台風に

 (パネル2)もう一つ、これは台風の予測図です。「台風情報 台風10号 中心気圧870hPa 最大瞬間風速90m/s」とあります。文字通りの「スーパー台風」です。この予測図を見ますと、台風の大きさは日本の半分くらいがすっぽり入ってしまう巨大なものであり、「台風の目」だけでも東京都がすっぽり入ってしまいます。こういう猛烈な巨大台風が毎年接近し、大雨、暴風、海面上昇によって、大被害をもたらすという予測です。

 まさに現状は、世界でも日本でも、文字通りの「気候危機」というべき状況です。私は、世界の運動に連帯して、この日本から、気候変動抑止のための緊急の行動を、大きく発展させることを心から呼びかけるものであります。

「前例のないシステム移行」――資本主義の是非が根本から問われている

 大会の綱領報告では、「いま注目すべきは、こうした(気候変動抑止の)運動にとりくんでいる人々のなかから、『いまのシステムで解決策がないならば、システムそのものを変えるべきだ』という主張が起こっていることであります」とのべました。

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(写真)「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が作成した「1.5℃特別報告書」(2018年10月)

 ここで紹介したいのは、この問題で、国連などにより設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が作成した「1・5℃特別報告書」(2018年)であります。この「特別報告書」では、予測される気候変動のリスクを詳細に明らかにするとともに、「1・5℃以内」に抑えるためには、“社会のあらゆる側面において急速かつ広範な、前例のないシステム移行が必要”だと強調して、次のような柱を列挙しています。

 ――再生可能エネルギーへの大規模な置き換え、エネルギー消費の削減、エネルギー最終消費の電化の急速な進行など、「エネルギー分野におけるシステムの移行」。

 ――エネルギーの効率化、持続可能なバイオ燃料、リサイクル、電化および水素、二酸化炭素の回収・利用・貯留など、「産業分野におけるシステムの移行」。

 ――運輸および建物におけるより大幅な温暖化ガス排出削減など、「都市・インフラ分野におけるシステムの移行」。

 ――牧草地、農地、森林など、「土地利用分野におけるシステムの移行」。

 このように、社会のあらゆる分野における「システムの移行」が必要だということを言っています。たんにエネルギーを再生可能エネルギーにするだけではなくて、社会の全面的な「システムの移行」が必要だというのが、IPCCの「1・5℃特別報告書」に書かれているのであります。

 これらの前例のない全面的な「システムの移行」が、はたして資本主義のもとで実行可能かどうか、これは大きな問題だと私は思います。

 もちろんこの課題は待ったなしであり、資本主義のもとでも、そうした「システムの移行」を実現するための最大の努力を緊急に行っていく必要があります。ただ少なくとも、それを実行しようとすれば、資本主義に特有な利潤第一主義を、かなりの程度まで規制、抑制する社会システムが必要になることは間違いないのではないでしょうか。

 ここでも資本主義というシステムの是非が根本から問われているということを強調したいと思います。

マルクスの『資本論』は、解決の根本的道筋、手がかりを示している

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(写真)新版『資本論』

 次に進みたいと思います。それではマルクスはこれらの問題をどう考えていたか。マルクスの『資本論』には、これらの人類的課題について、その解決の根本的な道筋、あるいは、手がかりがあるということを、お話ししたいと思います。

資本主義のもとでなぜ格差が生まれるのか、その解決の道はどこにあるか

 まず資本主義のもとでなぜ格差が生まれるのか、その解決の道はどこにあるのか。

 マルクスは『資本論』のなかで、格差拡大の根源は、より大きな利潤を得るために「生産のための生産」に突き進む資本の限りない衝動――利潤第一主義という資本主義の本性にこそあることを明らかにし、次の有名な告発を行っています。

 「最後に、相対的過剰人口または産業予備軍を蓄積の範囲とエネルギーとに絶えず均衡させる法則は、ヘファイストスの楔(くさび)がプロメテウスを岩に縛りつけたよりもいっそう固く、労働者を資本に縛りつける。この法則は、資本の蓄積に照応する貧困の蓄積を条件づける。したがって、一方の極における富の蓄積は、同時に、その対極における、すなわち自分自身の生産物を資本として生産する階級の側における、貧困、労働苦、奴隷状態、無知、野蛮化、および道徳的堕落の蓄積である」(『資本論』第一部第七篇第二三章「資本主義的蓄積の一般的法則」第四節、新版(4)1126ページ)

 マルクスは、『資本論』の第一部で、まず工場などの内部における搾取強化の実態の詳細な分析を進めていきますけども、最後の第七篇では、視野を社会全体に広げた特別の一章を設けました。

 ここでマルクスは、資本主義的蓄積のもとでは、現役労働者を広大な規模の「産業予備軍」が取り囲むという独特の人口構造が生まれることを明らかにしました。彼が「産業予備軍」と呼んでいるのは、資本主義のもとで大量に生み出される失業、半失業の労働者のことです。現代の低賃金・使い捨ての不安定雇用の労働者は、現役労働者を「予備軍化」したものにほかなりません。

 「産業予備軍」をつくり出す法則は、「ヘファイストスの楔がプロメテウスを岩に縛りつけたよりもいっそう固く、労働者を資本に縛りつける」。ギリシャ神話のなかに、巨人プロメテウスが、人間に火をあたえたために、鍛冶の神ヘファイストスが鍛えた楔によって岩に釘(くぎ)づけにされるという物語があります。そのぐらいの強靱(きょうじん)さをもって、労働者階級を資本の支配と貧困のもとにおくことを、印象深い言葉でマルクスは告発したのです。

 こうしてつくり出された社会状況が、社会全体の規模での経済的格差の拡大――一方に富の蓄積が、他方に貧困の蓄積という社会の二極分化を生み出し、拡大していく。こうしてマルクスは『資本論』のなかで、格差拡大のメカニズムをダイナミックな論理で明らかにしています。

 この際限のない格差拡大をどうやって解決するか。生産手段を、結合した生産者たちの共同所有に移すこと――生産手段の社会化が、根本的な解決の道になります。それによって経済を、社会的格差を拡大する根源となっている利潤第一主義の狭い枠組みから解放する。これがマルクスが示した格差問題の根本的解決の展望でした。

 『資本論』のこの告発は、今日の世界でもまさに生きていると思います。資本主義のもとでは、どうしても格差が広がってきます。世界的規模でも広がる。発達した資本主義国の内部でも広がる。この傾向は避けることはできません。それを根本的に解決しようとすれば、資本主義という体制の変革が求められます。

 もちろん資本主義の枠内でも格差拡大を是正するための最大の取り組みが必要ですし、現に私たちはそうしたたたかいを行っています。同時に、その根本的な解決の道は、資本主義を乗り越えて社会主義に進むことにある。マルクスのこの大命題はまさに現代に生きていることを強調したいのであります。

気候変動の問題――『資本論』のなかに問題解決への手がかりがある

 それでは気候変動の問題はどうでしょうか。

 マルクスが生きた時代は、18~19世紀初頭に起きた「産業革命」から間もない時代であり、地球的規模の環境破壊は問題にならなかった時代です。それでも『資本論』のなかには、この問題の解決の手がかりになる論理があります。

 マルクス『資本論』から三つの文章を抜き書きしてみました。

 第一の文章。マルクスは、『資本論』のなかで、人間の生産活動、経済活動を、自然と人間との「物質代謝」のなかに位置づけました。

 「労働は、使用価値の形成者としては、有用的労働としては、あらゆる社会形態から独立した、人間の一存在条件であり、人間と自然との物質代謝を、したがって人間的生活を媒介する永遠の自然必然性である」(『資本論』第一部第一篇第一章「商品」、新版(1)79ページ)

 ここでマルクスが使っている「物質代謝」とは、もともとは生物学の言葉です。すべての生命体は、外界から栄養物質などを取り込んで、体のなかで変化させて、自分に必要な構成物質につくりかえ、エネルギー源としたうえで、不要な部分を体外に排出しています。どんな生命体でもやっていることです。これを生物学で「物質代謝」と呼びますが、マルクスは、この言葉を使って、人間が労働によって、自然からさまざまな物質を取り込み、それを加工して自分の生活手段に変えることを、生命体になぞらえて「自然との物質代謝」と呼んだわけです。

 第二の文章。資本主義的生産は、利潤第一主義による産業活動によって、人間と自然との物質代謝の前提になっている自然の環境を破壊していきます。

 「資本主義的生産は、それが大中心地に堆積させる都市人口がますます優勢になるに従って、一方では、社会の歴史的原動力を蓄積するが、他方では、人間と土地とのあいだの物質代謝を、すなわち、人間により食料および衣料の形態で消費された土地成分の土地への回帰を、したがって持続的な土地豊度の永久的自然条件を攪乱(かくらん)する」(『資本論』第一部第四篇第一三章「機械と大工業」、新版(3)880~881ページ)

 ここでは、「物質代謝」の「攪乱」という分析が現れます。「持続的な土地豊度の永久的自然条件を攪乱する」とは、資本主義的な利潤第一主義の農業生産によって、土地の栄養分がなくなってしまい、荒れ地になってしまうことを言っています。当時、自然環境の破壊は、こうした農地の破壊という形で問題になっていました。このことをマルクスは、「人間と土地のあいだの物質代謝」、およびその前提となる「永久的自然条件」の「攪乱」という言葉で特徴づけました。これは現代に起こっている事態を、まさに先取り的に分析したものではないでしょうか。

 現代の資本主義的生産は、まさに利潤第一主義が猛威を振るうことで、地球規模での環境を「攪乱」=破壊し、気候変動を引き起こすまでにいたっていますが、その最初の現れの一つを、マルクスはこういう言葉でのべていたのであります。

 ()エンゲルスは、『自然の弁証法』のなかで、人間は動物と違って、自然を支配するけれども、「そうした勝利のたびごとに、自然はわれわれに復讐(ふくしゅう)する」(『〔新メガ版〕自然の弁証法』117ページ)という警告をのべています。エンゲルスは、メソポタミア、ギリシャ、小アジア(現在のトルコ地方)やその他の地域で、耕地をつくるために森林を根こそぎ伐採してしまう、そのために結局、保水力がなくなって荒地になってしまったという例を具体的に指摘し、次のようにのべています。

 「これまでのすべての生産のしかたは、労働のごく目さきの最も直接的な効果を達成することしか眼中におかなかった。それからさきの、もっとあとになってはじめて現われ、ゆっくりくりかえされ累積されることによって効果を生じてくる、〔労働の〕諸結果は、まったく無視されつづけてきた。……」

 「生産と交換とを支配している一人ひとりの資本家には、自分たちの行為の最も直接的な効果を気にかけることしかできない。それどころか、この効果でさえ、――生産または交換される物品の有用性ということにかんするかぎりは、――完全に二の次になっている。販売にさいして得られるはずの利潤だけが唯一の動機となるのである」(同前117~120ページ)

 「これまでのすべての生産のしかた」は、「労働のごく目さきの最も直接的な効果を達成することしか眼中におかなかった」が、資本主義社会でも、「自分たちの行為の最も直接的な効果」を気にかけることしかできない。ただこの社会では、それどころか、この効果でさえ、「完全に二の次」になって、「利潤だけが唯一の動機」となってしまう。「あとになってはじめて現われ、ゆっくりくりかえされ累積されることによって効果を生じてくる」ような問題は、利潤第一主義を原理とする資本主義社会では、およそまったく視野の外に置かれてしまうということだと思います。エンゲルスのこの警告は、今日の地球規模での気候変動にぴったりと当てはまるような警告になっています。

 第三の文章。それでは、利潤第一主義による「物質代謝」とその前提となる「永久的自然条件」の攪乱・破壊は、どうすれば克服することができるのか。マルクスは、その根本的展望を、『資本論』第三部での未来社会論のなかで、次のようにのべています。

 「この領域(物質的生産の領域、必然性の国のこと――引用者)における自由は、ただ、社会化された人間、結合した生産者たちが、自分たちと自然との物質代謝によって――盲目的な支配力としてのそれによって――支配されるのではなく、この自然との物質代謝を合理的に規制し、自分たちの共同の管理のもとにおくこと、すなわち、最小の力の支出で、みずからの人間性にもっともふさわしい、もっとも適合した諸条件のもとでこの物質代謝を行なうこと、この点にだけありうる」(『資本論』第三部第七篇第四八章「三位一体的定式」、新書版(13)1435ページ、上製版IIIb1441ページ)

 マルクスがここで「この領域」と呼んでいるのは、物質的生産の領域のことです。

 マルクスはここで、人間の活動を二つの領域(二つの国)に分けて論じています。一つは、「本来の物質的生産」にあてられる時間です。マルクスはこれを「必然性の国」と呼びます。もう一つは、それ以外の、人間が自由に使える時間です。マルクスはこれを「自由の国」と呼んでいます。マルクスが、「本来の物質的生産」の領域を、「必然性の国」と呼んでいるのは、それが人間が生きていくうえで必要不可欠な、外的な目的によって余儀なくされる労働だからです。この領域を超えたところで、「真の自由の国」が開花する。社会のすべての構成員が、どんな外的な目的にも縛られない自由な活動のための、自由な時間を十分にえて、その能力を全面的に発展させることができる社会。マルクスは、ここに未来社会――社会主義・共産主義社会の何よりもの特徴を見いだしました。

 それでは「本来の物質的生産の領域」――「必然性の国」には自由はないのか。引用した文章はそれを論じた部分です。資本主義を乗り越えた未来社会――社会主義・共産主義社会においては、「必然性の国」においても、人間の自由を拡大します。すなわち、資本主義のもとでは、人間と自然との物質代謝が、この引用文にあるように、資本主義の諸法則の「盲目的な支配」のもとにおかれていました。そこから、「物質代謝」とその前提となる「永久的自然条件」の攪乱・破壊という問題が起こってきました。しかし、未来社会では、それが、「合理的に規制」され、「最小の力の支出で、みずからの人間性にもっともふさわしい、もっとも適合した諸条件のもとでこの物質代謝を行う」ようになる。この点では、未来社会は、物質的生産の領域でも、人間の自由を拡大するものとなるということをマルクスはのべているのです。

 『資本論』から三つの文章を紹介しましたが、いまのべてきたことをまとめると次のようなことになります。

 人間は、この地球上で、自然と交流しながら――物質代謝をしながら生きてきた。しかし、資本主義的生産の利潤第一主義は、物質代謝を攪乱し、その前提である自然条件を破壊する。その攪乱・破壊は、現在では、地球規模での気候変動まで引き起こし、人類の生存条件を破壊しかねないところまできている。未来社会――社会主義・共産主義社会は、この攪乱・破壊を規制し、人間と自然との交流――物質代謝を、合理的に、最小の力の支出で、人間性にもっともふさわしい条件のもとで進めることを可能にする。これがマルクスの描いた大展望でした。

 マルクスの『資本論』でのこの解明は、気候変動の問題の解決の根本的な道を明らかにしていると言えるのではないでしょうか。すなわち、資本主義を乗り越えて社会主義にすすむことが、地球的規模での環境破壊――気候変動の根本的解決の道だということを、示しているのではないでしょうか。

 マルクスの生きた時代には、地球的規模の環境破壊はおよそ問題になりませんでした。しかし、その時代に、マルクスは、資本主義的生産による自然環境の破壊の最初の現れに着目して、「物質代謝」の「攪乱」という分析を行い、それを根本的に解決する道は未来社会への変革のなかにある。ここまでのべていたのです。その論理の深さ、洞察力の深さには驚くべきものがあるのではないでしょうか。

 地球的規模の気候変動についても、マルクスは『資本論』のなかに解決の手がかりになる太い論理を示している。このことに注目して『資本論』を読んでいきたいと思います。

“社会主義の新たな出番”の時代――未来社会の展望、希望を大いに語ろう

 大会の綱領報告では、次のように呼びかけました。

 「貧富の格差の問題でも、気候変動の問題でも、資本主義の枠内で解決のための最大の努力を行いながら、資本主義をのりこえた社会主義によって問題の根本的な解決の展望が開かれることを、大いに語っていこうではありませんか」

 私たちは、異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配――「二つの異常」をただす民主主義革命を国民多数の合意でやりとげることを、直面する課題にすえています。それをやりとげたのちに、次の段階では、これも国民多数の合意で、資本主義を乗り越えて、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が、課題になると考えています。「国民多数の意思にもとづく社会の段階的発展」――これが私たちの綱領の展望です。

 ただここで留意しておきたいのは、「国民多数の意思にもとづく段階的発展」とは、現在ただいま、日本社会が直面している矛盾は「二つの異常」と国民との矛盾であって、この矛盾を解決したら、資本主義そのものの矛盾が次に直面する矛盾となる、つまり“矛盾が段階的に出てくる”ということではありません。矛盾の解決の仕方が段階的だということを言っているものです。

 矛盾という点では、日本社会は、いわば「二重の矛盾」に直面しています。第一は、私たちが「二つの異常」と呼んでいる日本社会に特有の矛盾です。第二は、その矛盾の土台にある資本主義そのものがもつ「利潤第一主義」の矛盾です。この「二重の矛盾」に日本社会は直面しています。

 そして現実には、第一の矛盾だけでなくて、第二の矛盾もさまざまな形で噴き出しています。格差の拡大、気候変動が深刻になるなかで、「資本主義の限界」が語られ、「前例のないシステム移行」の必要性が語られ、社会主義への新たな期待が広がり、マルクスに広く注目が寄せられる状況があります。

 私は、まさに今日の時代は、“社会主義の新たな出番”とも言える歴史的情勢にある。このことを強調したいと思います。そういう情勢のもとにあって、直面する課題の解決のために力をつくしながら、未来社会――社会主義・共産主義の展望、希望を大いに語ろうではありませんか。このことを私は呼びかけたいと思います。

 私たちは「共産党」という名前をもっています。「共産党」ですから、当面の民主的改革の課題はもちろん大いに語る必要がありますが、同時に、私たちが目標としている社会主義・共産主義、これを堂々と語ってこそ「共産党」ではないか。その魅力を語り広げる、希望を伝えることができて、初めて日本共産党は国民の多数派になることができる。これを大いにやろうではないか。それをやれる時代なのだということを訴えたいと思います。

帝国主義と覇権主義――三つの点で修正・補強を行った

 改定綱領第10節は、続いて資本主義世界の政治的諸矛盾についてのべています。綱領改定作業のプロセスのなかで、帝国主義論、覇権主義論も今日にふさわしいものにしました。三つの点で修正・補強を行いました。

アメリカ帝国主義の侵略性――二つの核心をより普遍的な形で記述

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(写真)米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)

 第一は、アメリカ帝国主義の侵略性について、情勢の進展を踏まえて新しい整理を行ったことであります。

 わが党は、2004年の綱領改定のさいに、帝国主義論の理論的発展を行いました。植民地体制が崩壊し、植民地支配を許さない国際秩序がつくられた今日では、ある国を帝国主義と呼ぶときには、その国が独占資本主義の国だということを根拠にするのではなく、「その国の政策と行動に侵略性が体系的に現れているときに、その国を帝国主義と呼ぶ」という立場を明らかにし、この立場にたって綱領で次のように表明しました。

 「いま、アメリカ帝国主義は、世界の平和と安全、諸国民の主権と独立にとって最大の脅威となっている」

 この綱領の命題は、現在も的確であり、改定綱領にもそのまま明記しています。

 ただ、アメリカ帝国主義の侵略性がどういう形で現れているかについて、改定前の綱領では、当時の情勢を反映して、「新しい植民地主義」、「『世界の警察官』と自認」、「世界の唯一の超大国」などの記述がありました。これらは現状にあわなくなっており、一部改定のさいに削除しました。

 同時に、改定前の綱領には、アメリカ帝国主義の侵略性の最大の現れの一つである、地球的規模での軍事基地網と常時介入態勢についての記述がないという問題がありました。世界をぐるりと取り囲む形で、軍事基地網をはりめぐらしている。そのような国は世界にアメリカ一国しかありません。ここにアメリカの帝国主義的侵略性の最大の現れの一つがあります。この点は一部改定のさいに補強しました。

 こうして、アメリカの帝国主義的侵略性についての改定綱領での記述は、次のようになりました。

 「アメリカが、アメリカ一国の利益を世界平和の利益と国際秩序の上に置き、国連をも無視して他国にたいする先制攻撃戦略をもち、それを実行するなど、軍事的覇権主義に固執していることは、重大である。アメリカは、地球的規模で軍事基地をはりめぐらし、世界のどこにたいしても介入、攻撃する態勢を取り続けている。そこには、独占資本主義に特有の帝国主義的侵略性が、むきだしの形で現われている」

 「先制攻撃戦略」を中心とする軍事的覇権主義と、地球的規模での軍事基地網と常時介入態勢という、アメリカ帝国主義の侵略性の二つの核心を、より普遍的な形で明らかにする記述になったと思います。

「世界の構造変化」を踏まえた弾力的アメリカ論――将来を見据えていよいよ大切に

 第二は、「世界の構造変化」を踏まえて、次のような弾力的なアメリカ論を明記したことです。

 「軍事的覇権主義を本質としつつも、世界の構造変化のもとで、アメリカの行動に、国際問題を外交交渉によって解決するという側面が現われていることは、注目すべきである」

 この問題にかかわって、私が強調しておきたいのは、わが党は、すでに2003年6月、当時の綱領改定案を提案した第22回党大会第7回中央委員会総会の報告のなかで、次のようにのべていたということです。

 「私たちは、アメリカについても、将来を固定的には見ません。従来、『帝国主義の侵略性に変わりはない』などの命題が、よく強調されました。……しかし、いまでは、状況が大きく違っています。私たちは、国際秩序をめぐる闘争で、一国覇権主義の危険な政策を放棄することをアメリカに要求し、それを実践的な要求としています。そして、これは、世界の平和の勢力の国際的なたたかいによって、実現可能な目標であることを確信しています」

 「将来を固定的に見ない」――このことを強調したわけであります。2003~04年の時期は、アフガニスタン戦争、イラク戦争など、アメリカの一国覇権主義が荒れ狂っていたさなかでした。いま振り返っても、そうしたなかで、このような柔軟で弾力的なアメリカ論を明らかにしたことは、先駆的な意義があったと思います。

 この決定を足掛かりにして、わが党は、「将来」だけでなく、「現在の局面」においても、アメリカを固定的に見ない、アメリカを一側面だけで見ない、という立場を発展させていきました。

 8中総の提案報告でのべたように、わが党は、この間の一連の大会決定で、「世界の構造変化」のもとで、アメリカの動向を「いつでもどこでも覇権主義・帝国主義の政策と行動をとる」と捉えるのではなく、時と場所によっては、外交交渉による解決を模索する側面も現れうるという、複眼の捉え方の重要性を強調してきました。

 こうした弾力的なアメリカ論の生命力は、この間のアメリカ自身の行動によって証明されました。この十数年の理論と実践を踏まえ、その立場を綱領にも明記しましたが、これはアメリカ帝国主義論の重要な発展となったと思います。

 また、今日のアメリカを見てください。アメリカでは、社会進歩をめざす新しい胎動が間違いなく広がっています。毎回の大統領選挙で、「社会主義」を名乗る候補が有力候補として登場するという状況となっています。これは、やがては力関係が変わって、現実に勝利することも起こりうるわけです。その時には、アメリカ帝国主義の姿がどうなるか。予断をもって言えませんが、大きな変動も起こりうると思います。

 今日のアメリカで、社会進歩をめざす新しい胎動が広がっているもとで、将来を見据えても、今後、改定綱領の立場でアメリカに向き合っていくことは、いよいよ大切になるということを強調しておきたいと思います。

 ただし、8中総の提案報告でも強調したことですが、改定綱領のこの規定のなかで、「軍事的覇権主義を本質としつつも……」と、本質はここにあるとのべていることに留意していただきたいと思います。本質をしっかり見据えながら、複眼でとらえていくことが重要だということを、重ねて強調しておきたいと思います。

「どんな国であれ覇権主義を許さない」――国際連帯の中心課題に据えた

 第三に、覇権主義はアメリカ一国ではありません。改定綱領では、いくつかの大国で強まっている大国主義・覇権主義の問題にも視野を広げて、どんな国であれ覇権主義を許さないことを国際連帯の中心課題の一つにすえました。改定綱領には次の記述を新たに明記しました。

 「いくつかの大国で強まっている大国主義・覇権主義は、世界の平和と進歩への逆流となっている。アメリカと他の台頭する大国との覇権争いが激化し、世界と地域に新たな緊張をつくりだしていることは、重大である」

 ここで「いくつかの大国」で、念頭に置いたのは中国とロシアであります。

 なお、8中総の提案報告で、「米中の対立は、かつての米ソ対決と異なり、資本主義的世界市場のなかで、経済的には相互依存を深めるもとでの、覇権争いと捉えられるべき性格の問題であります」とのべていることに注目していただきたいと思います。

 かつての米ソ対決というのは、異なる体制間の覇権争いでした。崩壊したソ連の体制について、わが党は、政治的な上部構造だけではなく経済的土台においても社会主義とは無縁の体制であったという判断をしています。この社会がいかなる社会構成体であったかの問題については、固定的な結論を出していませんが、旧ソ連の体制がアメリカなどの体制と異なる体制であったことは間違いありません。かつての米ソ対決というのは、そうした異なる体制間の覇権争いであって、互いに相手の体制に打ち勝つことを目的とした争いであり、ソ連崩壊によってそれは終焉(しゅうえん)しました。

 それでは今日の米中の対立はどうかというと、それとは明らかに性格を異にしています。米中双方のグローバル大企業が、地球規模で市場争奪戦を繰り広げ、両国は、国際的には、単一の資本主義的世界市場の不可分の構成部分となっています。経済的には相互依存を深めながらの覇権争い、同時に、軍事衝突の危険もはらむ覇権争いとして、米中の対立を捉える必要があります。

 こうした今日の世界における覇権主義についての認識を踏まえて、改定綱領には、国際連帯の課題として、アメリカの一国覇権主義に反対するという従来の規定に代えて、中国、ロシアも含めて、「どんな国であれ覇権主義的な干渉、戦争、抑圧、支配を許さず、平和の国際秩序を築く」という命題を強く押し出しました。

 この命題は、相手がアメリカであれ、旧ソ連であれ、中国であれ、あらゆる覇権主義と正面から闘い続けてきた自主独立の党ならではの重みをもつ命題であることを、強調したいと思います。

改定綱領は、未来社会への道を、より豊かに多面的に示すものとなった

 改定綱領の第3章は、次の言葉で結ばれています。

 「世界史の進行には、多くの波乱や曲折、ときには一時的な、あるいはかなり長期にわたる逆行もあるが、帝国主義・資本主義を乗り越え、社会主義に前進することは、大局的には歴史の不可避的な発展方向である」

 この記述は、改定前の綱領の記述をそのまま変えずに、結びとしたものです。ただ、お話ししてきたように、改定綱領は、ジェンダー平等、貧富の格差、気候変動、帝国主義・資本主義の政治的矛盾の深まりなど、さまざまな新たな問題を“入り口”にして、未来社会への道をより豊かに多面的に示すものとなったのではないでしょうか。

 「社会主義に前進することは、大局的には歴史の不可避的な発展方向」という綱領のこの世界論の結論的な命題は、綱領一部改定によって、21世紀の今日、より現実性をもった、より重みのある命題となったということを、強調したいと思います。

12日付につづく


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